「屍人荘の殺人」で鮮烈なデビューを果たした今村昌弘氏の「屍人荘の殺人シリーズ」、「魔眼の匣の殺人」に続く第三弾「兇人邸の殺人」を読了。このシリーズの作り出す世界観とミステリーの舞台装置として作り出される奇妙で常軌を逸したミステリーサークルの設定が面白すぎてほぼ一夜で読み切ってしまう。ただ、今回は仕事が忙しすぎて一週間ほどかかってしまったがそれでもその期間は至福の時間であった。(連続殺人の謎解きミステリーなのに・・)ラストは切なくて感動的な余韻があるのも第1作目と同じ感じ。次回作も期待大!!
ネット上の書評を見ると意外にも賛否両論に分かれるが、私はこのシリーズがとっても好き。
前作の「屍人荘」は物語中の舞台となる「紫湛荘」という合宿所と同じ音で、
前々作の「魔眼」は物語の中心となる「真雁」という地名と同じ音であった。
では今作の「兇人邸」は物語中の舞台となる屋敷のことなのだろうけれど、これは最後まで読んでやっと「狂人」なのかなと思い至る。最初は「巨人」とかけていたのだと思っていたから、それならば「虚人邸の殺人」でもよいのではと思っていたけれどもそうではないっぽい。それと、今作のストーリーは前2作と比べ遺体の状況が映像化しがたい感じに感じる。これはデビュー作の「屍人荘の殺人」の映画がお世辞にもあまり良い出来ではなかったことへのささやかな抵抗だったのではないかと穿った見方をしてしまう。案外映像化の良し悪しで小説の今後の売れ行きがけっこう変わってしまうものだとすると、作者氏は本シリーズの映像化は御免被りたいと思っているのかもしれない。
小説内では扱っている題材が題材だけに主人公たちが交わすやりとりは時にコミカルで時に心温まるものになっているが、これらのやり取りが、いやこれらのやりとりを逸脱したところまでもが無駄で怠惰で救いようのないコミカルストーリーになってしまっていて、作者が目指したところの世界観が全くと言っていいほど再現されてなかったと感じるのだ。
裏を返せば、それだけ小説の世界観が素晴らしいということなのかもしれない。
2021年7月31日初版発行
兇人邸の殺人 屍人荘の殺人シリーズ
魔眼の匣の殺人 屍人荘の殺人シリーズ
屍人荘の殺人