かつて「ファンダンゴ」(’85)という映画があった。その頃飛ぶ鳥を落とす勢いだったフジテレビが配給にかみ、しかし初めて大コケを彼らに経験させた縁起でもない作品。
ベトナム戦争を時代背景に、若者たちの狂躁(=ファンダンゴ)を描いた、当時はまったく無名だったケビン・コスナーが主演し、同じくまったくマイナーだったケビン・レイノルズが監督した地味ぃな存在。愛した女性を友人(ローレン・バコールの息子が演じていた)にゆずり、徴兵を忌避して行方不明になるケビン・コスナーが、その前夜に仲間たちと結婚式をセッティングする、それだけのストーリーである。
大コケしただけに、酒田の映画館に観客はわたしだけ。そのおかげで遠慮なく泣きまくり、涙がワイシャツの襟にたまったりしていた。例によって「この映画に文句があるならオレに言え!責任はオレがとる!」とまで思ってました。いきなりレーザーディスクも買ったしね。
その数年前につくられ、明らかに「ファンダンゴ」に影響を与えたのがこの「ダイナー」。結婚式を自前でやっちゃおうという、ファンダンゴにはかろうじてあったストーリーの核すら存在しない。1959年の大晦日、結婚を目前にグジグジと悩む独身男たちが、いい歳をして簡易食堂(=ダイナー)で朝まで馬鹿話に興じる……それだけの話。こちらもいたってシンプル。
「ナチュラル」「レインマン」などで巨匠になるバリー・レヴィンソンの初監督作。無名の俳優たちをオーディションで選んだのだが、後に彼ら(ミッキー・ローク、スティーブ・グッテンバーグ、エレン・バーキン、ケビン・ベーコン)はどんどんビッグになる。今観るとかなり金がかかっているように誤解できる。
「ファンダンゴ」が興行的に大失敗し、オクラ入りまで検討された「ダイナー」が、なぜ不朽の名作扱いされることになったかはわからない。でも、二つの作品に共通する
【いつかは大人にならなければいけない。でも、それは今日じゃない】
というモラトリアムぶりは、中年になってしまったわたしの心を、今もうつ。
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