事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「流(りゅう)」 東山彰良著 講談社

2016-05-14 | ミステリ

冒頭がなにしろすごい。

台湾出身者が大陸を訪れる。祖父の故郷。そこには石碑が建っていて、祖父が戦中に、日本人に協力していた村民のことごとくを殺したと刻まれている。いったいどれだけ血なまぐさい展開になるのだろう……と読者に予想させて、しかし作者はここでツイストを入れる。物語の語り手である主人公に、便秘で悪戦苦闘させるのだ。

このギャップ。「流(りゅう)」が直木賞を受賞し、かつ二十年に一度の傑作とまで持ち上げられる(by北方謙三)のは、このギャップによるところも大きいと思う。意外なことに全篇に破天荒なギャグが仕込んであるのだった。

1975年。蒋介石が亡くなったその年に、主人公の祖父が何者かに殺される。頭はいいが素行に問題のある主人公は、それから、常にその謎とともに生きることになる。

物語と常に並走する台湾の近現代史がめちゃめちゃに面白い。五十年におよぶ日本統治から国共内戦、そして外省人(中国本土からの移住者)と本省人の対立。1987年(ついこの間じゃないか)まで、台湾には戒厳令が布かれていたなんて知らなかったし、本省人と外省人では言語まで違っているだなんて(主人公は外省人の子孫なので、生意気な言語を使うと思われている)。

ベタな恋愛小説でもありながら、そちらにも謎をふりまき、最後までミステリの骨格はしっかり守っている。犯人は意外ではない。でもその動機と、被害者の祖父の気持ちには驚かされる。じいさんはなぜ抵抗せずに死んだのか。こちらで意表をつきます。感動。

台湾版「血と骨」だから読むのにかなり体力は要るけれども、満足感は保証します。作者も主人公もわたしとほぼ同世代なので、ブルース・リーと中森明菜に影響を受けるあたりの描写にはまいった。映画化は絶対無理だろうけど(理由はいろいろあります)、可能ならハオ・シャオシェンか崔洋一でお願いします。主演は……長谷川博己あたりはどうでしょう。うん、いいと思う。

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