事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「出星前夜」 飯嶋和一著 小学館刊

2008-08-30 | 本と雑誌

51q0ivvbddl ‘88年デビュー以降の、飯嶋和一の著作は以下のとおり。

「汝ふたたび故郷へ帰れず」(小学館文庫)
「雷電本紀」(小学館文庫)
神無き月十番目の夜」(小学館文庫)
「始祖鳥記」(小学館文庫)
黄金旅風」(小学館文庫)

そして最新作「出星前夜」(小学館)これだけ。超寡作。文献を徹底的に読みこんで、史実の陰にほの見えるドラマを再構築するという、およそ量産のきく作風ではないので仕方がないかな。一冊でも読んだことがある人なら、彼の筆力にびっくりしたはず。未読の人は、唯一の非時代小説である「汝~」における、息づまるボクシングシーンだけでもお試しを。彼を上回る描写ができる現役の作家がはたして何人いるだろう。

 飯嶋のもうひとつの特徴は、徹底して“抗う人”である点だ。為政者、特に無能な為政者への嫌悪がむき出し。多くの場合、そのために飯嶋の作品は悲劇に終わる。特に「神無き~」では幕府のために村民全員が虐殺される始末だ。

 しかし、飯嶋作品の主役たちの矜持は“お上に媚びへつらう”ことを許さない。人間としての誇りを守るために、悲劇は必然だったと作品は静かに語っている。そんな飯嶋が今回とりあげたのが島原の乱。日本における最大の謀反、というか内戦。本領発揮とばかりに飯嶋は4年間かけてこの作品を完成させた。どうして“天草”四郎なのに“島原”の乱なのか、蜂起がめざしたものは何だったのか、関ヶ原からわずか三十数年で世の中がどう変貌したのか……そうかそうかこんな経緯だったのかと得心。キリシタン弾圧や凶作などが背景にありながら、この内乱を生んだ最大の理由は、中央集権化を推し進める幕藩体制そのものだったのだ。最後の最後にタイトルの意味も理解できる。またしても傑作の誕生。眠れない夜をお約束します。

それにしても、飯嶋和一と横山秀夫、そして伊坂幸太郎にまで辞退された直木賞なるものに、いまや何の意義もないことを痛感。もらってやれよ飯嶋。あなたのことをまったく知らない未知の読者たちに、すばらしい作品の存在をアピールするためにさ。文藝春秋に代表される“文壇”なるものに抗いたいのはわかるけれども。

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