事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「地獄の黙示録・特別完全版」Apocalypse Now REDUX(‘79 米)

2007-11-21 | 洋画

P827  この映画が伝説になっているのは、映画自体の特異性もあるが、その製作過程のとんでもなさのためだ。とにかくキチガイ沙汰(放送禁止用語。ATOKでは変換さえしない)。キャストはくるくる変更。確か当初はスティーブ・マックィーンだのジャック・ニコルソンが主演する算段だったはず。おまけにロケ地フィリピンの40年に一度とかいう台風でセット全壊。これは大ニュースだった。製作費はふくれ上がり、「ゴッドファーザー」で飛ぶ鳥を落とす勢いだったコッポラを借金まみれにし、結果として彼を、その後巨匠から借金返済職人へと叩き落とした元凶の映画である。

 キャストでいえば、何でこんな面白そうな企画への出演をみんな断るかなあ、と十代の頃は怒っていた私だが、コッポラ夫人が書いた「地獄の黙示録ノーツ」(小学館文庫。好著)を読むと、いかに現場が混乱し、フィリピンの自然に苦しめられていたかがよくわかり、仕方ないか、と納得。むしろ“みんなが驚くほどの巨体”となって現れたマーロン・ブランドが、よく出演したものだ。まあ、当時原田真人がレポートした裏話によれば、結局は途中でフケてしまい、だからマーティン・シーンとのからみは、別々のカットになってしまっている。

 しかし、これら混乱の最大の原因は、コッポラが“どんなラストにするべきか迷ったまま”撮影に入ってしまったことだ。ムチャだろういくらなんでも。そのため、オリジナルはエンドクレジットもなく、いくつかのバージョンの存在が噂された。学生時代に私が観たのは、カーツの砦の炎上シーンで終わるヤツだったと思うんだが(確信なし)「王位継承を印象づけたかったんだろうけど、ちょっとわけわかんねー」と正直に当時の日記に書いている。

Apnw その難解さを払拭する、と評判の特別完全版。50数分間の未公開シーンを加え、3時間半という大長尺になっている。鑑賞するには体力も必要、と気負い込んだが、実はこちらの方がはるかに【普通の映画】になっていた。確かにわかりやすい。この長さのおかげで、闇の奥へ進むウイラード大尉の絶望感も感じ取れるし、プレイメイトたちが燃料と引き換えにセックスを提供するシーン(今回追加された)も、ベトナムの狂気の中ではむしろ自然に見える。

 だが、こういう言い方は卑怯かもしれないけれど、コッポラはやはりアジアがわからなかったのだと思う。アジア人の痛みが。これも今回加えられたシーンで、フランス人農場主が「我々は自分たちの“所有”するものを守るために戦っている。しかし君たちアメリカ人は、何のために戦っているのだ?」とウイラードに問う。これはまことにもっともな話。ベトナム戦争の偽善性と、当時アメリカが主張したドミノ理論(ここで勝利しなければ世界は次々に共産主義化する)の虚構を言い当ててもいる。“機関銃で撃ってからバンドエイドを与える”そのいやらしさも。が、まるで亡霊のように見えるフランス人たちが、彼らの所有するプランテーションを“自分たちのもの”とする理屈に(その意図はなかったとはいえ)、結果として正当性を与えてしまってはいないか。うーんこれはちょっと民族的言いがかりに近いかなあ。

Apocalypsenow  いずれにしろ、20年以上たっても語るに足る映画であることは確かだ。湾岸やアフガンを経過した(今も続いている!)新世紀においても、現代の黙示録、という大仰かつ尊大なタイトルに十分値している。ベトナム戦争、と聞いて、あのワルキューレの騎行を流しながら(ただサーフィンがしたいためだけに)ナパームをジャングルにぶち込む圧倒的に“美しい”シーンを思い浮かべる人は多いはずだ。特別料金2000円は痛くない。少なくとも、コッポラの血と汗と借金にくらべたら。

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