事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「作家の値段 新宝島の夢」 出久根達郎著 講談社

2013-06-11 | 本と雑誌

Shintakarajimaimg01 前作を特集したときに、しみじみと考えさせられた。古本の魅力っていったい何だと。

もちろん新刊書店と古書店の違いについてはこれまでも考えてきた。新刊の場合、ほとんどが取次からオートマティックに流れてきたものをオートマティックに陳列し、多くはオートマティックに返本されていく。値段はまさしく“定価”であり、値引きはまず行われない。

しかし古書店は違う。その稀少性、文化的価値などを鑑みて店主は値付けを行うわけであり、その値付け自体が一種の文化なのだろう。

年若いころから古書店ではたらいていた出久根は、だからこそ多くの作家エピソードを把握している。もちろん、それらのエピソードが直接間接に値付けに影響しているのだ。

藤沢周平の「龍を見た男」は昭和50年に山形新聞に連載された。しかしその翌年1月に山形新聞社から刊行されていることを知る人は少ない。

・出久根が勤めていた古書店は、創業時に築地に店を張っていた。銀座で酒を飲んだ帰りの井伏鱒二、川口松太郎らが一団となって店に寄ることがあった。彼らはまず自分の本があるかを探し、安い値段だと不機嫌になる。その典型が井伏鱒二。そのため、店主は井伏が入ってくるとこっそりと値段を書きかえた。井伏は、高い高い、これじゃおれの本は絶対に売れないぞ、とご満悦だったという。

・中原中也が18才のとき(立命館中学4年でマキノ・プロの女優、長谷川泰子と同棲中だった)、国語の講師から詩人の富永太郎を紹介された。翌年、泰子を連れて富永を追って上京。東大仏文科に在学中の小林秀雄に引き合わされる。二人の友情を見届けたように富永は夭逝。泰子は中也の許から離れ、小林秀雄と一緒になる。中也は激しく傷ついた。

子母澤寛は絶対に熱いご飯を食べず、冷や飯にかぎるとしていた。少し硬めの冷や飯に、出汁のきいた味噌汁(しかも実を入れない空汁)を推奨。

・マンガ古書のきっかけをつくったのは結果的に出久根。手塚治虫の「メトロポリス」に8000円の値をつけたらまわりからあこぎではないかと批判された。しかし店の電話は鳴りっぱなしだった。その後、某デパートの古書即売会に「新宝島」が出品されて、その値段は100万円。買ったのは小学生だった。この即売会には古いマンガが大量に出品され、つげ義春が開店前から玄関に並び、開店と同時に息せき切って駆け込んできた。

作家の値段 『新宝島』の夢 作家の値段 『新宝島』の夢
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2010-10-19

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