事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「グラン・トリノ」Gran Torino (2008 ワーナー)

2009-04-30 | 洋画

Grantorino08 監督・製作:クリント・イーストウッド  脚本:ニック・シェンク  音楽:カイル・イーストウッド、マイケル・スティーブンス

朝鮮戦争の従軍経験を持つ元自動車工ウォルト・コワルスキー(クリント・イーストウッド)は、妻に先立たれ、離れた息子たちとも心が通わず、愛犬と孤独に暮らすだけの日々を送っていた。そんな彼の隣家にモン族の少年タオの一家が越してくる。ある事件をきっかけにして心を通わせ始めたウォルトとタオだったが、タオを仲間に引き入れようとする不良グループが2人の関係を脅かし始め……。

「『グラン・トリノ』観たいな」

息子が、らしくないことを言う。

「なんか、面白そう。」

「うん。お前が映画をガンガン観るようになったときに、イーストウッドが現役でいてくれたってのはラッキーだったな」

「そんなにイーストウッドってすごいの?」

どのくらいすごいかというと、息子を裏切って父親がそぉーっと映画館に独りで向かうぐらいすごいのである。

 老いぼれたオヤジが、不良たちに立ち向かおうと“ある決心”をしたとき、カメラが下から見上げた構図は「ダーティハリー」そのもの。そしてあのラストは、血なまぐさいヒーローを演じ続けてきたイーストウッドだからこそ生きる。泣けた。

 前半は単調な老人の生活を淡々と描き、一転して後半にすべてをラストへの伏線にしてみせる。

朝鮮戦争の苦い思い出を象徴する勲章がどう使われるか(ハリー・キャラハンはバッヂを投げ捨てましたが……)、隣の一家を少数山岳民族であるモン族に設定したのはなぜなのか(彼らはベトナム戦争時に裏切り者あつかいされている)、息子はトヨタのセールスマンで、父であるウォルトが50年間フォードの組み立て工だった対比、少年が驚くほど取りそろえられた工具があらわすウォルトの人生(「すべてそろえるには、50年はかかる」)、亡き妻の願いだった神父への懺悔を、27歳の童貞なんぞにできるものかと断っていたウォルトが、一度だけ告白したこととは……号泣ですここ。

 特にタイトルになっているグラン・トリノがすばらしい。1972年製クーペ。ウォルトが磨きこんだためにヴィンテージ扱いだが、古くさく、燃費も悪い時代遅れの産物。しかしその名があらわすように、今もなお走り続ける“GT”こそ、ウォルト自身を象徴している。年配者こそが泣ける映画。ぜひ。ぜひぜひ。

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