アフガン・イラク・北朝鮮と日本

黙って野垂れ死ぬな やられたらやり返せ 万国のプレカリアート団結せよ!

事故物件から知る格差社会の現実

2020年09月09日 18時49分21秒 | 映画・文化批評
 
先週の公休日に、話題のホラー映画「事故物件 恐い間取り」を観てきました。この映画は、事故物件住みます芸人の松原タニシの体験談を基に作られました。
 
映画は、お笑い芸が全然ヒットせず、コンビ解消に至った芸人の山野ヤマメが、プロデューサーから「事故物件住みます芸人やったらどうか?」と誘われ、渋々承諾する所から始まります。それを聞いて、一旦はコンビ解消で放送作家への道を歩み始めた相方の中井大佐も、再び山野と一緒に、事故物件に住み始めます。(以下、ネタバレあり)
 
最初の事故物件は、廊下で女性が暴漢に殺された事故物件です。霊感の強いアシスタントの梓には、女性が暴漢に襲われるシーンが見えてしまいます。やがて、女性の霊は、山野や中井にも見えるようになっていきます。
 
この事故物件実況中継がヒットして、山野も中井も次第にテレビで売れっ子になっていきます。2人は、不動産屋の事故物件担当の横水から、次々と新たな事故物件を紹介され、そこに住む様になります。
 
2軒目の事故物件は、母親が息子に殺された部屋です。洗面所の排水口には母親の髪の毛が詰まっていて、部屋の畳を剥いだら下から血痕の残った板張りが現れます。
 
3軒目の事故物件は、ドアノブで女性が首吊り自殺した部屋ですが、その前に男性もロフトの梯子で首を吊って自殺していました。つまりダブルの事故物件です。
 
ここまで来ると、中井も梓も流石に怖くなり、事故物件から足を洗う様、山野を説得します。しかし、欲に目が眩んだ山野は、2人の忠告を無視して、更に事故物件に住み続けようとします。
 
4軒目の事故物件は更に強烈で、黒マントの男の霊が、4人の老若男女の霊を操り、山野に襲い掛かろうとします。山野は霊媒師から買ったお札で対抗しようとしますが、安物のお札なので霊に破り捨てられてしまいます。
 
急を聞いて駆け付けた梓も、逆に霊に操られ、山野を包丁で殺そうとします。その寸での所を、これまた急を聞いて駆け付けた中井に救われます。中井は、事故物件担当の横水から教えて貰った最強のお祓い術を駆使して、ようやく黒マントの霊をやっつける事に成功します。この辺りのストーリーが、嫌に出来すぎていて、私は逆にある種の安直さを感じてしまいました。
 
ところが、それで終わりではありませんでした。山野と梓が婚約して新しい新居に住もうとした矢先に、新居を紹介した横水が、やっつけられた筈の黒マントの霊に乗り移られ、不動産屋の前の道路で車に跳ねられて死んでしまいます。映画はここで終わります。一応、事故物件から生還する事は出来たが、霊の呪縛から完全に逃れる事は出来なかった…という結末です。ハッピーエンドの様でハッピーエンドでない、中途半端なストーリーに、後味の悪さが残りました。
 
但し、映画そのものは、怖いだけでなく、笑いもあり、非常に楽しめる映画でした。特に、山野が幼い頃、病室にいる末期ガンのお婆ちゃんの前で、お笑い芸を毎日披露したら、お婆ちゃんの寿命が3年も延びた。それで芸人の道に進む様になったと、山野が追想するシーンでは、「お笑い芸とは本来どうあるべきか」という事を教えられた気分になったりもしました。
 
 
私の今住んでいる部屋も、実は事故物件です。前に住んでいた方が病気で亡くなっています。その上、エレベーター無しの5階部屋なので、家賃は月2万6千円ほどしか掛かりません。駅から徒歩5分以内で、コンビニも薬局も周りにある程の便利さにも関わらず。
 
そして、向かいのビルも事故物件です。1階は居酒屋が入居していますが、階段入口のシャッターは常に閉められ、2階以上には上がれない様になっています。しかも、3階、4階の部屋の窓には、外から板が打ち付けられて封印されてしまっている程の物々しさです。この物件は、「大島てる」の事故物件公示サイトにも掲載されています。
 
これだけ書くと、「事故物件は何て恐ろしいんだろう」と、思う人も少なくないのではないでしょうか。しかし、物は考えようです。自分の生まれ育った家を振り返ってみましょう。どの家も、ご先祖様がそこで亡くなっています。そうでない家の方が少ないのではないでしょうか?
 
更に言うなら、今の東京や大阪の街も、戦時中は空襲で大勢の方が亡くなっています。そう考えると、街全体が事故物件であると言えなくもありません。しかし、そんな事を言い出せば、もうどこにも住めなくなってしまいます。
 
自分の家には恐怖を感じないのは、自宅で亡くなったのは身近な親族や親戚だからです。それに対し、事故物件で亡くなったのは、得体の知れない赤の他人だからです。赤の他人という事で忌み嫌うのではなく、親族同様に弔う様にすれば、事故物件にも恐怖を感じなくて済むようになるのではないでしょうか。
 
そんな事よりも、「事故物件の多さが、そのまま格差社会の現実である」という事実の方が、よほど重要です。その例が大阪市西成区の「あいりん地区」です。わずか数百メートル四方の狭い地域なのに、ざっと数えただけでも43件もあります。それに対し、高級住宅街の諏訪ノ森・浜寺や芦屋になると、わずか数件、多くても20件ぐらいしかありません。
 
くだんのホラー映画は確かに面白かったです。しかし、私も事故物件に住み、向かいも「大島てる」公認の事故物件ですが、普通に生活しています。そんな「仮想ホラー」よりも、僅か数百メートル四方のあいりん地区に事故物件が集中し、結核感染率や高齢化率も断トツという、「現実のホラー」の方がよほど恐いです。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 杉田水脈やネトウヨと同じレ... | トップ | 菅義偉は苦労人を装った山師だ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画・文化批評」カテゴリの最新記事