処遊楽

人生は泣き笑い。山あり谷あり海もある。愛して憎んで会って別れて我が人生。
力一杯生きよう。
衆生所遊楽。

箱根山

2018-02-01 07:42:40 | 

著  者 獅子 文六

出版社 筑摩書房

定 価 アマゾン597円

文庫初版2017年9月

428頁

 

       

                                             獅子 文六

著者は、ユーモア小説というが、それに該当するのは後半になってから。物語は、箱根という我が国を代表する観光地の開発競争。運輸省での敵対陣営同士の激論シーンから始まる。

約60年前に実際にあった《箱根山戦争》と《伊豆戦争》。その主人公は、東急の五島慶太と西武の堤康次郎であった。その史実を題材にしてこの小説は仕上げられている。

やがて、右肩上がりの時代に至る世相の一断面を切り取っている。我が国を代表する観光地を舞台にして、時代に置いて行かれつつある老舗旅館の人間模様や世代交代、営業手法。これらを押し流して開発に突っ走る資本の貪欲なさま。

しかしここには、明るい未来と希望に溢れたたくましいロミオとジュリエットが登場する。開発競争や旧習・確執とは無縁の若い世代の清々しいこと。この好き合う男女二人が目指す未来の確かさが、この小説をヒューマンな作品にしている。

NHKでドラマやノンフィクションの時代考証を担当してきた大森洋平。巻末の《解説》で、次のように書く。その時代を知らない制作者は、時代考証的見地から獅子文六の作品は、その時代を「全体的に、なんとなく把握する」ことができると言う。例えば、文中から[運輸大臣さえエアコンのない部屋に居る][BG諸嬢が冷やし麦湯を配る][派手なビーチパラソル][若者がビニールバックを使い始めている][デパートでは紳士用既製服売り場がスペースを占めつつある][ドドンパが流行っている]などの字句をピック・アップしている。

箱根には時々息抜きで出掛ける。折角だから、この次からはこの作品に描かれている旅館・ホテル・山・池・道を確認してみよう。

箱根にクライアントを持つわが社の営業は、果してこの歴史を知っているのかしらん。

蛇足だが、この文庫の表紙は何とかならないのかな。若い世代の気を引く狙いなのだろうが、年配者にはいささか気恥かしい。

コメント
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