スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

変わり始めた!? 車の所有に対する考え方(レンタカーと共同所有)

2008-08-14 06:32:30 | スウェーデン・その他の環境政策
スウェーデンでは個人の引越しは、業者に頼まず、基本的に自分たちで行う。引越しのために必要な小型・中型トラックや乗用車で牽引する貨車などは、レンタカー会社だけでなく、一般のガソリンスタンドの多くで簡単に借りることができる。それだけ、レンタカーはかなり身近な存在なのである。

もちろんそのような場所では、一般の乗用車タイプも用意してありレンタルすることができるのだが、さて外国人の旅行者以外に、どのくらいの人が借りるのかな? と疑問に思っていた。


しかし、最近の統計を見てみると、乗用車タイプのレンタカー市場はここ数年で急成長を遂げているという。レンタルの量はここ3年で20%伸び、レンタカー業者もそれに合わせて車の台数を12%増やしてきたという。一般のスウェーデン人が借りているのである。

自動車税やパーキング料金など車の所有にかかる費用は高くなってきている。また、利用しようにも、ガソリン税(二酸化炭素税)の引き上げや原油価格の高騰のために、ガソリン価格が高い。その上、首都ストックホルムでは中心部に乗り入れる度に渋滞税(乗り入れ税)を支払わなければならない。そのため、車の頻繁な利用は控え、普段は公共交通や自転車をなるべく利用しようとする人が増えている。そういう人にとっては、使用頻度が低いのに車をわざわざ自分で所有すると、活用時間あたりの固定費用がさらに高つくことになる。

その結果、車は週末の買い物や休日の遠出の時だけに使う、という人たちは、車の所有をやめ、レンタカーを盛んに活用するようになっているようなのだ。

ここには意識の変化も見られる。第二次世界大戦以降の高度成長の中で、マイカーが次第に普及していく時代に育った世代にとっては、車はステータスのシンボルであり、また自由のシンボルでもあった。しかし、今の20代や30代の人たちにとって、車は誰もが持つ当たり前のもので、その所有から得られる満足感も小さくなり、その結果、車にお金を掛けるのなら他の事に使いたい、と考える人が増えているのだろう。また、上に書いたように、車の所有・使用にかかる費用が上昇したことだけでなく、環境に対する懸念を特に若い世代が持つようになったことも、車所有に対する関心が低下している大きな理由だという声もある。

そう、環境に対する配慮という面でも、レンタカー市場の拡大は好ましい効果をもたらしているようだ。というのも、レンタカー会社やそれと同様にレンタカーを貸し出しているガソリンスタンド会社は、少しでも顧客を勝ち取ろうと、こぞってハイブリッド車やエタノール車、低燃費車などに力を入れているためだ。また、レンタカー会社の業界団体は、加盟各社に対して「2010年までにハイブリッド車やエタノール車などの比率を60%にまで引き上げるように」という目標を示している。そして現在、既に50%前後だという。

つまり、レンタカーの活用が増すにつれ、人々がいわゆる環境に配慮した車に乗る機会も自然と増えるようになっているのだ。


同様の急成長は、実は乗用車コーポラティブ(共同所有)にも見られる。次回はそれについて。

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7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
車の所有から、共有へ (あや)
2008-08-14 11:29:56
日本もそうなっていくのだと思います。
ガソリンスタンドでもレンタカーができるなんて、おもしろいですね。
インフラは一番懸念するところなので、そういうところがエコカーの普及に積極的なのは、とてもプラスに働くと思います。
質問です。車を所有するものではなく、共有するものになっていくことに対し、Volvoなど自動車会社は、それをプラスに考えているものなのでしょうか。販売方針にも切り替えが必要になってくるでしょうし。
日本も自動車が重要産業なので、そこらへんが気になります。



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Unknown (おじぃ)
2008-08-14 17:13:09
Yoshiさん

二酸化炭素税の引き上げが、軽油とガソリンの値段が逆転した理由でしょうか?
私も最近ようやく、ガソリンスタンドで牽引用の貨車を貸出ししていることに気がつき、「なるほど」と思ったところでした。
しかし、車に対する社会環境の変化は我々自動車業界に働くものとして非常に不安ですね。
私の場合、一般人と逆で、平日の通勤に車を使い、週末はもっぱら自転車と言う生活ですが・・・
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はじめまして (メタセコイア)
2008-08-17 01:45:34
はじめまして。スウェーデンに興味があり、二年ほど前からブログを拝見しています。
政治や経済に疎いもので、全く知らなかった論点で語られるYoshiさんの文章はとても新鮮で面白いです。
日本とスウェーデンの違いや、時折入れられる日常生活や自転車の話をいつも読ませていただいております。

今回の記事を読ませていただいて、新聞のカーシェアリングの記事を思い出しました。
日本でも、この原油高でカーシェアリングが注目されているようです。
といっても、まだ一部のことですし(新聞の片隅にちょこんと載った程度です)、環境への配慮といった視点はあまりなく単純に車の維持費と燃料代が焦点ですが。
自分で車を所有しなければ、意識的に必要以上の走行が防げる、ひいてはCO2削減に繋がるのではないかと、少し期待しております。

日本中が五輪ばかりを取り上げて、他の問題がおろそかになる今、グルジアとロシアの関係や温暖化対策について触れられていることが嬉しいです。
これからも楽しみにしています。
では、失礼します。
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軽油 (おじぃ)
2008-08-17 20:11:48
Yoshiさん

つい最近、軽油の値段が久しぶりにガソリンの価格を下回りました。何が起こったのでしょうか?
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Unknown (Yoshi)
2008-08-21 08:50:16
コメントありがとうございます。

現在ヨーテボリを離れており、なかなか返事をする時間がありませんが、頂いたコメントはちゃんと目を通させていただいております。
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Unknown (あや)
2008-08-23 00:37:56
Volvoの副社長のコメントを読んで、納得しました。
トップの人が、このような広い視野で考えていることに、とても感激しました。
スウェーデンの環境対策は、官民の連係プレーによって実現可能となったのですね。

こちらに記事がありました。
http://www.es-inc.jp/lib/archives/061206_090953.html
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Unknown (Yoshi)
2008-08-26 16:21:01
あやさん、

リンクありがとうございました。

Volvoとしてはやはり車の売り上げが落ちるのは嬉しくないでしょうが、時代の流れには逆らえない、と見ているのかもしれません。
もしくは、共同所有も全体から見るとまだごく僅かなものに過ぎないので、Volvoの売り上げに大きく響いていないために、何も言っていないのかもしれません。
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