スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

有能なエンジニアを求む! - ヴェステロース市

2008-12-25 00:33:20 | スウェーデン・その他の経済
今年の秋以降、スウェーデンでは自動車産業をはじめとする、大規模な解雇が相次いできたが、その一方で、事業を拡張したいのに適切な技能を持った労働力が確保できず困っている産業も一部では存在する。前回のブログでも書いたように、国の雇用対策の中では、失業者に職業訓練を行うことで、労働需給のミスマッチを少しでも減らす、というものが含まれていた。では、具体的にどのような企業が労働力を求めているのだろうか?

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例えば、スウェーデンで5番目に大きい町である、ヴェステロース市(人口135000人)。ストックホルムから西に向かって電車で1時間ほどの距離にある。この町にあるいくつかの企業は、エンジニアなど、高い技能を持った労働力を求めているのだが、これまで適正な技能を持った求職者を見つけることに苦労してきた。そのような求人は今の段階で300ほどあり、来年末までにはさらに700人の高技能の労働力を確保したいという。

民間20社公的職業案内所(AMS)、および、ヴェステロース市ヴェストマンランド県のそれぞれの産業課が連携して「Jobba i Västerås(ヴェステロースで働こう)」という組織を2000年に設立している。この組織は、これまでも職業の斡旋や労働力の確保、市のイメージアップなどをおこなってきたが、今新たに「1000 jobb kampanjen(1000人の新規雇用キャンペーン)」を展開している。


どのような企業が加わっているのかというと、 例えば、鉄道車両を製造するBombardier Transportation Swedenだ(親会社Bombardierはカナダ企業であり、何度も着陸事故を起こしたボンバルディア機Dash 8-Q400は系列会社のBombardier Aerospaceが製造している)。スウェーデン国鉄(SJ)やストックホルム地下鉄の車両などを造っている。従業員は1800人、うち1200人がヴェステロースで働く。エンジニアを中心に来年末までに140人の新規雇用を行うという。

また、Balfour Beatty Railは鉄道の信号システムを製造する英企業。従業員は275人で、うち110人がヴェステロースで働く。この企業も30人ほどのエンジニアを求めている。

両社とも鉄道産業だが、どうやら今後10年ほどにわたって大きな開発プロジェクトを抱えているらしく、短期的な景気変動はあまり左右されないようだ。スウェーデンでは『高速鉄道計画』が本格的にスタートすることになるが、おそらくこれも大きく関係しているような気がする。

鉄道産業の他にも、Alstom(仏企業:電気機器・鉄道車両・発電技術)、Westinghouse(米企業:発電技術)、Avure(スウェーデン企業:産業機械)、Enics(スイス企業:産業機械・医療機器)、Etteplan(スウェーデン企業:技術コンサル)、Semcon(スウェーデン企業:技術コンサル)、Smidja(スウェーデン企業:技術コンサル)、そしてABB(スウェーデン/スイス企業:産業機械・発電技術)などのほか、製造業の職を斡旋している民間リクルート企業などが、各種エンジニアを求めている。

(ちなみに、上記のBombardierやWestinghouseなどがヴェステロースに持つ工場や事業所の多くは、もともとABBの前身であるASEAの傘下にあったものが買収されたのだ。)

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これらの企業が市や県、公的職業案内所(AMS)と一緒になって産官連携で「Jobba i Västerås(ヴェステロースで働こう)」という組織を作り、求人活動や職場や生活の場としてのヴェステロース市の売込みを行っているのだ。

彼らが目をつけているのは、ヨーテボリを中心とする自動車産業で仕事を失いそうなエンジニア。そのため、ヨーテボリにやって来て、求人活動を展開している。特に鉄道関係の企業の担当者は「自動車産業から鉄道産業に移るのは比較的容易だろう。しかも、わが社は市や県やAMSと連携して充実した職業訓練を準備している。」とやる気満々。

しかし、働く側としては、ヴェステロースに引っ越さなければならず、少し気が重いかもしれない。そこで産官連携の「Jobba i Västerås」は、有望な求職者をヴェステロースに招き、週末に試しに住んでもらって、ヴェステロースの町の住み心地を体験してもらう、というキャンペーンも行っている(既に150人が招かれたとか)。

実際に住むとなると、住宅の確保や育児施設・学校がちゃんとあるかどうかも重要だが、この点も市や地元の住宅会社が提携をして、引越ししてくる人の支援を行うという。

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自動車産業で解雇されているのは数万規模の労働者なので、今回紹介したヴェステロースの求人活動は、経済全体から見ればほんのわずかな希望でしかないのだが、景気が今ほど落ち込む中でも、人手を欲しがっている企業がいくつかあり、このようなキャンペーンを展開しているのは面白いと思う。

少なくとも言えるのは、高い技能を身につけた人であれば、いくら不景気になって仕事を失っても、自分の能力を生かせる仕事はたくさん見つかる、ということだろう。

残念ながら、スウェーデン全体の課題としては、大学で理工系の科目を勉強する人が減少傾向にあり、今後、団塊の世代が退職したあとに、その穴埋めをきちんとできるかということらしい。企業としては、いくらスウェーデンで生産活動を続けようと思っても、必要な労働力が確保できなければ、国外に生産拠点を移す必要が出てくるという。

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして (ruko)
2008-12-30 02:00:07
はじめまして、日本在住のrukoと申します。スウェーデン語を勉強している関係でスウェーデン情報サイトを巡って辿りつきました(学生ではありません、ほぼ倍の年齢以上です!)
 日本でも、今や非正規労働者(派遣やパート)の大量解雇(というか契約解除)が相次ぎ、年末でも地方自治体が雇用相談窓口(住宅や生活費の補助を行っています)を開けている状態です。
 こういうときに、それこそ日本で起こっている団塊の世代退職による技術の空洞化に、若年層の労働力を活かす施策が必要だと感じます。しかし、いかんせん地方自治が全くといって良いほど進んでいない日本では、巨大な官僚組織が迅速に手を打つということは難しいようです。これから減るといっても、まだまだ大所帯の日本です。ほんとに地方自治を進めなければ時代について行けないと感じているのは私だけでは無いと思うのですが。。。遠いスウェーデンの政治を見るにつけ、日本の将来を憂慮する毎日です。
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Unknown (Yoshi)
2008-12-31 08:28:43
コメントありがとうございます。

おっしゃるとおり、「地方自治」とか「自治体独自のイニシアティブ」という点からも、このヴェステロースの話は面白いかもしれません。

>巨大な官僚組織が迅速に手を打つという
>ことは難しいようです。

地方のニーズをうまく把握しているのは、自治体レベルでしょうにね。ご指摘のとおり、雇用相談窓口や生活の支援など、人々の生活に密着した仕事をしているのは地方自治体なのですが、厳しい予算の中で、しかも、権限があまり地方になく中央に縛られており、大変でしょうね。
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Unknown (Yoshi)
2008-12-31 08:29:47
>スウェーデン語を勉強している関係で
>スウェーデン情報サイトを巡って辿り
>つきました

ちなみに、この間、東京のスウェーデン大使館にいらっしゃいましたか?
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Unknown (ruko)
2008-12-31 22:18:43
>ちなみに、この間、東京のスウェーデン大使館にいらっしゃいましたか?

いえいえ、東京には行きましたが、スウェ大使館には行きませんでしたよ。(大阪在住です)
スウェの食文化(特にfikaのお菓子)にとても興味があり、色々なレシピを読むためにスウェ語を勉強しています。読めないニュースサイトを色々眺めながら、遠い国に住む人々の生活に、日々思いをめぐらせています。でも、一番わかったことは、自分の国やそこに暮らす日本人のことなのかも知れません。

日本はあと2時間足らずで2009年です。どうぞ良いお年をお迎えくださいね!
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