日本では、税金の無駄遣いとしか思えない、例の給付金が議論されてきたが、それにも関連する重要な議論がスウェーデンでもなされていたので、紹介してみたい。
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世界的な景気低迷に備えるために、スウェーデン中央銀行が政策金利を一度に1.75%も下げ、2%としたことはこのブログで触れた。では、財政政策の面からの景気刺激策はどうかというと、既に9月に議会に提出された2009年予算案の中で、320億クローナ(約4000億円)近くの財政赤字を覚悟した景気刺激策を盛り込んでいた。
しかし、これだけでは不十分ということで、12月初めに追加の緊急財政出動プランを発表した。2009年に83億クローナ、2010年に88億クローナ、2011年に58億クローナを新たに投じて景気の刺激を行うという。
来年に投じられるという83億クローナの内訳を見てみると、
・雇用対策 45億クローナ
・住宅の修理・改築に関連する税減免措置 36億クローナ
・インフラ整備 4億クローナ
・教育 4億クローナ
まず「雇用対策」は、公的職業案内所(AMS)の職業斡旋活動を支援し、労働需給のマッチングを円滑にすることが含まれる。また、雇い主が国に納める社会保険料を引き下げ、その減額分を国庫から補填することで、企業にとっての労働コストを下げ、労働需要を喚起しようという政策も入っている。特に長期失業者を雇った際にさらなる社会保険料の引き下げが行われる。(社会保険料を引き下げるといっても、その減額分を被雇用者に負担させるわけではない)
次の「住宅の修理・改築に対する税減免措置」は、個人世帯が自宅の修理や改築、メンテナンスにかけた費用を、確定申告の際に所得から控除できるようにする、というもの。所得税の減税を通して、修理・改築・メンテナンスといったサービス価格を事実上、抑えることで、これらのサービスに対する需要を喚起させるというわけだ。
「インフラ整備」は、道路・鉄道の建設や補修(無駄な道路建設が多いといわれる日本とは事情が異なっており、道路や特に鉄道の建設やメンテナンスが不足している)。
「教育」は、ここでは「雇用対策」とも関連しており、職業訓練が主だ。スウェーデン各地では製造業を中心に解雇が相次いでいるが、一方である特定の製造業では新規雇用を拡大したいものの、必要とされる技能を持った労働力が確保できず困っている、という話もある。そのため、労働力の再教育費用と施設を国が肩代わりするというわけだ(これは今の景気対策に限ったことではなく、スウェーデンでは普段から積極的労働市場政策として行われていること)。
今回の緊急財政出動プランの中での注目は「住宅の修理・改築に対する税の減免措置」だ。これは雇用や消費を確実に増やすことができる、即効性のある経済政策として期待されている。
実は、野党からは一般的な減税(所得税や消費税など)や、子持ち世帯や高齢者世帯に対する給付金を求める声があがっていたのだが、政府は「景気浮揚効果がどこまで期待できるのか疑わしい」とはねつけた。つまり、減税や給付金によって家計の可処分所得が増えたところで、それが貯蓄されず消費に回る保証はないうえ、たとえ消費に回ったとしても、それが輸入品に使われれば、スウェーデン経済の生産部門(サービスも含めて)に与える効果はほとんどなくなってしまうということだ。
これに対し、ある特定のサービス消費にかかる費用の税減免措置の場合、実際に消費しなければ恩恵を受けることができない。しかも、住宅の修理・改築はあくまでサービスであるので、作業する人はスウェーデンの職人さんであり、かかった費用の多くの部分が彼らの給料に使われるのだから、輸入品の購入のようにお金が国外に流れて行く心配もない(資材は別として)。だから、できるだけ大きな経済効果を生み出すことができる。政府の推計によると、この政策の7000人の雇用が生み出されるという。
今回は盛り込まれなかったが、ある特定の商品の購入に対する補助金給付も、それがスウェーデン製であれば、同じような経済効果をもたらしてくれると思う。
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来年2009年だけ見ても、既に予算に盛り込まれていた320億クローナとあわせて、合計400億クローナ(5000億円)あまりが景気の刺激に充てられる。この額はGDPの1.3%に相当し、ヨーロッパ各国の景気刺激策と比べても規模が一番大きいと、新聞各社が伝えている。
スウェーデンの財政は、来年は確実に赤字になるが、幸いこれまで10年以上にわたって黒字だったので、それほど心配はないだろう。「歳出をもっと増やせ!」という野党に対して、首相は「あまり増やしすぎて、財政を危機に陥れては大変!」とはねつける。これだけ良好な財政基盤を維持してきたにもかかわらず、ちょっと過敏だと思うが……
さて日本はどうかというと、これまで20年近くにわたって財政が火の車だったのにもかかわらず、この経済危機を受けて、その状況はさらに深刻さを増すだろう。だからこそ、景気刺激に使うお金の使い道はしっかりと吟味し「最大の効果が期待できるところにピンポイントで国のお金を投じる」(スウェーデン首相の言葉)必要がある。
99年に行われた「地域振興券」の真似ごとのような「給付金」構想に費やすような時間的・経済的余裕はないのだということを、アッソー(Ah så)首相は認識しなければ!
少なくとも、かつての地域振興券がどれだけの効果を生んだのかをきちんと評価し、あれと似たようなことを今の段階で再びやるとどれだけの効果が期待できるのか、そして、同じだけの予算を必要とする他の政策的選択肢と比べた上でも、この「給付金構想」のほうがより望ましい効果が得られる、ということを、納得させる形で国民に示した上でなければならないのだが、今の政府にそのためのリーダーシップがあるとは残念ながら思えない。
どうせするなら、ハイブリッド車など環境に良い商品の消費や、住宅の省エネ効果を高めるような改築に対して、補助金や税減免といった形でお金をつぎ込んだほうがまだいいと思う。
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世界的な景気低迷に備えるために、スウェーデン中央銀行が政策金利を一度に1.75%も下げ、2%としたことはこのブログで触れた。では、財政政策の面からの景気刺激策はどうかというと、既に9月に議会に提出された2009年予算案の中で、320億クローナ(約4000億円)近くの財政赤字を覚悟した景気刺激策を盛り込んでいた。
しかし、これだけでは不十分ということで、12月初めに追加の緊急財政出動プランを発表した。2009年に83億クローナ、2010年に88億クローナ、2011年に58億クローナを新たに投じて景気の刺激を行うという。
来年に投じられるという83億クローナの内訳を見てみると、
・雇用対策 45億クローナ
・住宅の修理・改築に関連する税減免措置 36億クローナ
・インフラ整備 4億クローナ
・教育 4億クローナ
まず「雇用対策」は、公的職業案内所(AMS)の職業斡旋活動を支援し、労働需給のマッチングを円滑にすることが含まれる。また、雇い主が国に納める社会保険料を引き下げ、その減額分を国庫から補填することで、企業にとっての労働コストを下げ、労働需要を喚起しようという政策も入っている。特に長期失業者を雇った際にさらなる社会保険料の引き下げが行われる。(社会保険料を引き下げるといっても、その減額分を被雇用者に負担させるわけではない)
次の「住宅の修理・改築に対する税減免措置」は、個人世帯が自宅の修理や改築、メンテナンスにかけた費用を、確定申告の際に所得から控除できるようにする、というもの。所得税の減税を通して、修理・改築・メンテナンスといったサービス価格を事実上、抑えることで、これらのサービスに対する需要を喚起させるというわけだ。
「インフラ整備」は、道路・鉄道の建設や補修(無駄な道路建設が多いといわれる日本とは事情が異なっており、道路や特に鉄道の建設やメンテナンスが不足している)。
「教育」は、ここでは「雇用対策」とも関連しており、職業訓練が主だ。スウェーデン各地では製造業を中心に解雇が相次いでいるが、一方である特定の製造業では新規雇用を拡大したいものの、必要とされる技能を持った労働力が確保できず困っている、という話もある。そのため、労働力の再教育費用と施設を国が肩代わりするというわけだ(これは今の景気対策に限ったことではなく、スウェーデンでは普段から積極的労働市場政策として行われていること)。
今回の緊急財政出動プランの中での注目は「住宅の修理・改築に対する税の減免措置」だ。これは雇用や消費を確実に増やすことができる、即効性のある経済政策として期待されている。
実は、野党からは一般的な減税(所得税や消費税など)や、子持ち世帯や高齢者世帯に対する給付金を求める声があがっていたのだが、政府は「景気浮揚効果がどこまで期待できるのか疑わしい」とはねつけた。つまり、減税や給付金によって家計の可処分所得が増えたところで、それが貯蓄されず消費に回る保証はないうえ、たとえ消費に回ったとしても、それが輸入品に使われれば、スウェーデン経済の生産部門(サービスも含めて)に与える効果はほとんどなくなってしまうということだ。
これに対し、ある特定のサービス消費にかかる費用の税減免措置の場合、実際に消費しなければ恩恵を受けることができない。しかも、住宅の修理・改築はあくまでサービスであるので、作業する人はスウェーデンの職人さんであり、かかった費用の多くの部分が彼らの給料に使われるのだから、輸入品の購入のようにお金が国外に流れて行く心配もない(資材は別として)。だから、できるだけ大きな経済効果を生み出すことができる。政府の推計によると、この政策の7000人の雇用が生み出されるという。
今回は盛り込まれなかったが、ある特定の商品の購入に対する補助金給付も、それがスウェーデン製であれば、同じような経済効果をもたらしてくれると思う。
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来年2009年だけ見ても、既に予算に盛り込まれていた320億クローナとあわせて、合計400億クローナ(5000億円)あまりが景気の刺激に充てられる。この額はGDPの1.3%に相当し、ヨーロッパ各国の景気刺激策と比べても規模が一番大きいと、新聞各社が伝えている。
スウェーデンの財政は、来年は確実に赤字になるが、幸いこれまで10年以上にわたって黒字だったので、それほど心配はないだろう。「歳出をもっと増やせ!」という野党に対して、首相は「あまり増やしすぎて、財政を危機に陥れては大変!」とはねつける。これだけ良好な財政基盤を維持してきたにもかかわらず、ちょっと過敏だと思うが……
さて日本はどうかというと、これまで20年近くにわたって財政が火の車だったのにもかかわらず、この経済危機を受けて、その状況はさらに深刻さを増すだろう。だからこそ、景気刺激に使うお金の使い道はしっかりと吟味し「最大の効果が期待できるところにピンポイントで国のお金を投じる」(スウェーデン首相の言葉)必要がある。
99年に行われた「地域振興券」の真似ごとのような「給付金」構想に費やすような時間的・経済的余裕はないのだということを、アッソー(Ah så)首相は認識しなければ!
少なくとも、かつての地域振興券がどれだけの効果を生んだのかをきちんと評価し、あれと似たようなことを今の段階で再びやるとどれだけの効果が期待できるのか、そして、同じだけの予算を必要とする他の政策的選択肢と比べた上でも、この「給付金構想」のほうがより望ましい効果が得られる、ということを、納得させる形で国民に示した上でなければならないのだが、今の政府にそのためのリーダーシップがあるとは残念ながら思えない。
どうせするなら、ハイブリッド車など環境に良い商品の消費や、住宅の省エネ効果を高めるような改築に対して、補助金や税減免といった形でお金をつぎ込んだほうがまだいいと思う。
これからも楽しみにしてます。
have a good holiday!
夜盗は夜盗で、ツッコミ所を間違えてた気がする。
どうせ高所得者にとっては数万円なんてはした金だし、もともと数%いるかいないかの高所得者がどう振る舞うかなんて国政には関係ないってば。
あの場合にヤトーがすべきだったのは、上にあったような反論だったはずなんだけどね。
景気刺激に使うお金の使い道はしっかりと吟味し「最大の効果が期待できるところにピンポイントで国のお金を投じる」
ほんとにそうですね。
日本ももっと広く大きな視野でリーダーシップを発揮していくことを望みます。
クリスマスなのにこのような話題なのが残念ですが、とても気になることだったので勉強になりました。
では、メリークリスマス~☆
遅くなりましたが、Merry Christmas!!!