スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

新党乱立の時代

2005-11-01 07:28:59 | コラム
日本では90年代に自民vs社民の対立構造が崩れていく中で、様々な新党が誕生した。新党さきがけ、新進党、日本新党、新社会党、などなど、ちょっと努力しないと思い出せないくらい過去のものになりつつある。そういえば、今回の総選挙でも自民党の小泉派から離反した議員がいくつかの小さな政党を作ったりした。

スウェーデンの政界も現在、新党乱立の時代だ。これまでの既存の政党は以下の7つだ。左から右へと一次元的に表現するのは適当ではないかもしれないが、彼らのイデオロギーをあえて並べてみると、次のようになる。



これに加えて、新しく誕生したのが以下の4つの党だ。このうちのいくつかは来年9月の総選挙に正式に立候補することを決めている。

(1) Vägval Vänster(左党分派、通称VVV)
上のスペクトラムの一番左に位置する左党は、かつては左翼共産党と称していたが、冷戦終結後に党名を改めた。共産主義という言葉がもつ否定的なイメージを消すように努力しながら、それまでは一線を画していた社会民主党(社民党)とも協力関係を持つようになった。社民党が左から中央にと位置転換をしていく中で、落胆した社民党支持の有権者を取り込んで行き、一時期は15%にまで支持を伸ばす。カリスマ的な女性党首の存在も、支持急増に貢献した。

しかし、昨年の秋に選出された新党首は、かつてのマルクス派を唱える旧守派。さらなる巨大な公共部門と民間企業の公有化がスローガンだ。ちょうどこの頃、公共テレビが左翼共産党の暗い過去を扱ったドキュメンタリーを作成し、これが大きな話題を呼ぶ。内容は、左翼共産党が自己声明とは裏腹に80年代に入ってからもソ連や東独の共産党と太いパイプを保っていたことを暴いたものだった。これらの結果、支持率は5%を下回るようになった。

そんな中、危機感を持った党内の“改革派”が結成したグループがこのVVVだ。リーダーはなんと、ここヨーテボリ大学経済学部の教官だ。彼は2002年まで国会議員であり、左党の副党首を務めていた。このVVVは左党に代わる、左派イデオロギーのオルターナティブを形成するためのネットワークとして始まり、メンバーは左党議員を始め、社民党議員、自由党議員など幅広い。

ただ、あくまで議論を戦わせるためのフォーラムに過ぎず、具体的なマニフェストを作るまでには至っていない。メンバーが幅広く、そもそも無理なのかもしれない。来年の総選挙に新党として参加するかが議論されているが、リーダー曰く「現在の政界には既に7党あり、新党の入り込む余地がない」とのことだ。


(2) Feministiskt Initiativ(フェミニズム的イニシアティブ、通称FI)
左党から飛び出したのは上のVVVだけではなかった。90年代から2003年にかけて党首を務めたカリスマ的女性は、フェミニズムを掲げていたことでも知られていた。彼女を中心に“フェミニスト”達が集まり、今年の初めにグループを結成した。
左派・右派を問わず、幅広いフェミニズムのフォーラムを作るという当初の考えにも関わらず、グループの幹部を占めるのは旧左党党員や急進的なイデオロギーを持った人々が多い。

メディアでこのような発言をしている。「男は獣だ」「男性と女性の権力的分配を是正すべきだ」「男性の本性は暴力によって権力を示すこと」「スウェーデン国民の50%(つまり女性)は常に虐げられ、市民権を奪われている」という怒り狂ったセンセーションが一部の有権者に受けて支持を博してきた。一方で、男性は悪者で、女性は常に被害者という、ドグマ的な社会の捉え方によって、男性と女性を真っ二つに分け、互いの権力闘争を描き出すことで女性の地位向上を達成しようとする手法には、女性の間でも反発が多い。

「フェミニズム」という言葉が具体的に何を意味しているのか不明なことが多い。「男女同権」と捉えるならば、スウェーデンの政治は様々な画期的政策を打ち出し、女性の地位向上に取り組んできた。それを支える草の根的な運動も盛んで、それが社会改革を支えてきた。このこと自体はとても素晴らしいことだと思う。この点において、スウェーデンの社会もまだ完璧ではなくて、まだ変えていける余地はある。しかし、Feministiskt Initiativはそのような土台に根を下ろすというよりも、「フェミニズム」という言葉をもてあそぶ、一部の知的エリートによる閉鎖的集団という傾向が強いようだ。最近の流行語で「エリート・フェミニズム」という言葉が聞かれるほどだ。

今年の春に、スウェーデンにおけるフェミニズムの一部に見られるセクト化を扱ったドキュメンタリーがテレビで放映され話題を呼んだ。そして、上に挙げた過激で考慮のない発言が、世間一般から集中砲火をあびた。これまで男女同権に取り組んできた人々の間でも「フェミニズム」という抽象的な言葉に嫌悪感を感じ、使うのを避けようとする人も多くなったという。

先ごろ総会があり、総選挙に新党として参加することが決まったが、具体的な政策提言がないままだ。出てきたものといえば「従来の“結婚”という概念を解体し、3人以上の結婚も可能にする」とか、「6時間労働」とか焦点がずれた物が多い。「男女同権」というコアの政策分野での提言はほとんどない。関係者曰く「そのようなことを議論し始めれば、とたんに意見が食い違って、分裂してしまう」。だから、そのような議論は避けているのだそうだ。女性同士の権力闘争も激しく、すでに幹部の数人がイジメの結果、脱退を表明している。「敵は内部にあり」か!? 総選挙まで生き残れるか・・・?

(つづく)

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