スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

Nordic Green Japan (その3)

2011-12-02 01:33:37 | スウェーデン・その他の環境政策
シンポジウム初日の基調講演をネット中継で見ていた私の友人が、東大の元総長で現在は三菱総研の顧問を務める小宮山氏の講演について以下のようなコメントを後で送ってくれた。
小宮山氏が「日本には技術がある、北欧には政治力がある、お互い強みを持ち合えば良いパートナーになれる」みたいな話をしていましたが、それを聞きながら、政治力がないことを自認して、しかもそれを他国の政治力でどう補うというのだろうか?と呆れてしまった。

でもきっと、日本経済のリーダー達はそういう認識なんだろうなぁ、政治は愚かな方がいいと思っているのでしょう。しかし、そのことを恥ずかしげも無く海外にアピールすることの愚かさに思いを致していない点で、結局、日本経済自体もいずれ同じような評価をされることになるのではないでしょうか。
これはその通りだと思う。そして「日本経済のリーダー達はそういう認識なんだろうなぁ」ということを改めて実感する機会が、2日目の最後のパネルディスカッションであった。

自然エネルギー財団の業務執行理事(兼・東京大学総長室 アドバイザー)である村沢義久氏が日本で自然エネルギーの普及させていくための戦略について語った時だった。彼は例として、太陽光パネルを挙げ、流通における現行のビジネスモデルを改め、購買コーディネーターを通じて一括大量発注を行うことで、パネルの費用を大きく抑えることができると説明した。このようなビジネス革新や技術革新を通じて自然エネルギーの発電コストを下げ、同時にスマートグリッドの普及を推し進めていけば、意欲次第では2030年に現在の電力消費量の半分を自然エネルギーで賄うことは可能だという。

これに対して、観客から質問が上がった。
「先ほど、社会変革をもたらすためには政治による意思決定が必要だという話が出てきたと思うんですけど、政治がうまく機能せず、有権者の政治に対する関心は下がる一方である日本で、どのようにして政治による変革を起こしていけばいいと思いますか?
それに対して、村沢氏はこう答えた。
政治のリーダーシップやイニシアティブがあれば、自然エネルギーの普及はもっと楽にできる。しかし、それが今は難しい。だから、私は自分の得意分野であるビジネスやベンチャーのノウハウを生かして、ビジネスと技術のイノベーションで、自然エネルギーの発電コストを下げて、普及を実現しようとしているのです」
つまり、本来は政治が強力なイニシアティブを持って社会を動かしていくべきなのだけれど、日本の政治には期待できない。だから、ビジネスベースで理想社会の実現を図るしかない、ということなのだ。スウェーデンを含めヨーロッパの国々では、大きな改革が必要なときに強力なイニシアティブを発揮するのは政治だ。ビジネス界の人にとっては非常に現実的な考え方なのかもしれないが、正直言ってため息が出てくる(村沢氏に対してではなく、日本の社会や政治のそういう現状に対して。村沢氏には非常に良い印象を持った)。

結局、日本の政治家が「あんた達には期待なんかしていないよ」と言われて、そっぽを向かれているのと同じこと。政治家には、これをしっかり屈辱と感じて欲しいと思う。それすらできなくなれば、日本の政治は完全に終わりだと思う。

※ ※ ※


最後のパネルディスカッションでは、発電コストの議論も飛び出した。日本でも電力が卸売市場で取引され、そこで限界費用に基づく価格決定が行なわれるようになれば、電力の価格はどれぐらい下がるか? 逆に言えば、日本の電力市場が垂直統合・地域独占であり、電力の原価が外部者に全く分からないことによって、どれだけ余分なマージンが現在の電力価格に上乗せされているのか? こんな質問をした人が観客の中にいた。

ただし、どの電力価格に着目するか、つまり、電力の原価(発電の限界費用)の部分だけか、それとも送電・配電コスト(施設の固定費用)を含んだ全体の電力価格なのかによって答えも変わってくる。

この質問に対して、東京電力の元社員で現在はスウェーデンとスイスの企業であるABBで働く部長級の人が、観客席から発言した。「具体的なデータはないが感触としては半分になるのではないか。あ、これはオフレコでね。」(実はしっかりネット中継されていた! 笑)

しかし、彼の発言からは全体の電力価格を言っているのか、電力の原価だけを指して言っているのかが明らかではなかった。

パネラーの村沢氏によると、現行のシステムでは一般消費者にとっての電力価格が1kWhあたり24円、小口事業者向けが16円、大口事業者向けが11円くらいだという。一番低いこの11円にという数字に含まれる限界費用と固定費用の割合がよく分からないし、場合によっては大口事業者は限界費用しか払っておらず、一般家庭を含む他のユーザーに固定費用をすべて負担させている可能性もある。いずれにしろ、電力の原価(発電の限界費用)は11円以下ということになるだろう。それに適正な固定価格を加味した全体の電力価格が果たしていくらになるのか? 少なくとも、現行の垂直統合・地域独占のシステム下よりは低くなるだろう。ステージ上の根津氏(富士通総研)は「具体的な根拠はないが10%ぐらい低くなるのではないか」と答えていた。これから、もっと明らかにされるべき問題だと思う。

そう、電力自由化がもたらす大きな効果とは、電力価格の内訳が明確になるという点なのだ。

※ ※ ※


このシンポジウムに2日間出席して、ふと2030年のヨーロッパを垣間見た気がした。ああ、私たちの未来はこうなるんだと。

風力、太陽光、バイオマス、地熱、波力、潮力、浸透圧など様々なタイプの小規模分散型発電所が普及し、それがスマートグリッドによって縦横無尽に連結して、電力を供給している。一方、原子力はフィンランドなど一部の国ではいまだに重要な役割を担っているケースもあるが、ほとんどの国ではその依存度がますます減少している・・・

日本がその流れにうまく乗ることができるのか? それとも、旧態依然とした大規模集中型・垂直統合の閉鎖的なシステムを維持し、取り残されていくことになるのか。今がその重要な分岐点のような気がする。

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1 コメント

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Unknown (XY)
2011-12-03 13:03:59
会の収穫のようなコメントですね。出席し鳥瞰できる人でないと出来ませんが。50%から10%まであるようですが、大口の11円からみると50%に近いですね。スマートグリッドは今の電力会社はやらないでしょうね。政治が動かないと。東芝の技術者に会いましたが、日本は電力会社の仕事で食っていけるのでなかなか技術はあるけど誰も動かない、と言っていました。
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