スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

キルナ以西の鉄道と鉄鉱石の輸出

2005-07-31 06:59:01 | コラム
キルナからノルウェー国境までは133km。国道は緩やかなアップダウンを繰り返しながら、徐々に高度を上げていく。この道のすぐ南にはスウェーデンの最高峰であるKebnekaise(2111m)を含む山脈が広がるため、国道のすぐ左手には巨大な絶壁が連なっている。一方、右手にはTorneträskと呼ばれる細長い湿地湖が数十キロにわたって存在し、その向こうには雪をかぶった山脈が連なっているのがうかがえる。

国道自体は、断崖の下の低い部分を湿地湖に沿ってグネグネと走っているから、左右のターンを除いては、それほど険しいと感じられない。湿地湖とそれに沿った辺りが深い谷になっているようだ。大昔に氷河によって削り取られたのか、断層のために山脈の中央に割れ目が走ったのかは定かではない。


左手には絶壁、右手には湖。どこが陸との境界か分かるかな?


ノルウェー側の港町Narvikまで続くこの国道と平行して、鉄道が走っている。自転車で走っていると、列車とよくすれ違う。旅客車両は1日に多くて3往復なので、それほど多くはないが、他方で、鉄鉱石を運ぶ貨物列車には頻繁に出会うのだ。上りと下りを合わせて、少なくとも一時間に一本は貨物列車に出会う。しかも、一つ一つの列車が50両近くも貨車を牽引し、KirunaからNarvikに向かう列車には鉄鉱石が満載なのには驚く。鉄鉱石の輸出経路はこのNarvikルートとともに東のLuleåの港からの東欧向け経路もある。

前回の続きだが、鉄鉱石の産出がスウェーデンでここまで盛んだとは知らなかった。鋼鉄に対する世界的な需要の増大は、特に近年急成長してきた中国における需要増大が原因らしい。そのための原料である鉄鉱石が求められている。価格も高騰し、今年の4月には71.5%もの上昇幅を記録したという。歴史の長い国営の鉱山企業LKABの業績は、去年新記録を達成した。主要株主である国は株の配当によって大いに潤い、税収に貢献した。

LKABは産出量40%増をもくろみ、そのためにさらなる投資を行っていく計画だ。キルナ市移転計画もさることながら、新たな粗鋼ペレット工場の建設、さらには、機関車の改良や新たな貨物列車の開発に力を入れている。輸送力の増大(25%増)によるコストの削減によって、最大の競争相手であるブラジルやオーストラリアの鉄鉱に対して優位に立ちたいのだ。


鉄鉱石を運ぶ貨物列車。ノルウェーのNarvik港から輸出される


さらに、鉄鉱石の輸出だけでなく、高度な技術を使ってそれを付加価値の高い製品に変えていく産業もスウェーデンで盛んだ。例えば、厚さ数ミリの鋼板の製造には高度な技術が必要で、スウェーデンからの製品はロシアや中国の市場で大きな需要があるとのこと。

近いうちに時間を見つけて、鉄鉱石の輸出と鉄鉱関連産業がスウェーデン経済においてどれだけのウェイトを占めているのか、調べてみたい。

情報の一部は次のサイト(技術系新聞NyTeknik)を参考にしました。http://www.nyteknik.se/pub/ipsart.asp?art_id=40986


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4 コメント

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マルテンサイト千年 (グローバルサムライ)
2024-04-12 05:31:58
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学の理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム、人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
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マルテンサイト千年 (サムライグローバル鉄の道)
2024-08-07 02:37:07
「材料物理数学再武装」といえばプロテリアル(旧日立金属)製高性能冷間ダイス鋼SLD-MAGICの発明者の方の大学の講義資料の名称ですね。番外編の経済学の国富論における、価格決定メカニズムの話面白かった。学校卒業して以来ようやく微積分のありがたさに気づくことができたのはこのあたりの情報収集によるものだ。ようはトレードオフ関係にある比例と反比例の曲線を関数接合論で繋げて、微分してゼロなところが最高峰なので全体最適だとする話だった。同氏はマテリアルズ・インフォマティクスにも造詣が深く、AIテクノロジーに対する数学的な基礎を学ぶ上で貴重な情報だと思います。
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CCSCモデルファン (トライボロジー関係)
2024-09-13 23:57:18
それと摩擦プラズマにより発生するエキソエレクトロンが促進するトライボ化学反応において社会実装上極めて有効と思われるCCSCモデルというものも根源的エンジンフリクション理論として自動車業界等で脚光を浴びつつありますね。
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特殊鋼ベアリング (ストライベック)
2024-10-07 12:16:51
機械の動力伝達機構にもからむ話なんでしょうが、もしノーベル賞をとるとしたら、物理学賞ではなく化学賞なんでしょうね。
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