スウェーデンの原子力・放射線監督行政は、かつては原子力施設の監督をする原子力監督庁と、身の回りの放射線(原子力施設・医療現場のレントゲンや放射線治療・紫外線・レーザー光・電磁波)から人々の健康を守るための行政を司る放射線防護庁に分かれていたが、2008年半ばに合併され放射線安全庁となっている。この機関が環境省の管轄下にあることは、このブログで以前触れたが、前身となった2つの機関も同様に環境省の管轄下にあった(ただし、原子力監督庁は以前は産業省などの下に置かれていたこともあるようだ)。
<以前の書き込み>
2011-03-28:原発の安全性をどの省が監督するべきか?
この放射線安全庁は機関紙を年に4回発行しているが、今年は年初に1号目を発行して以来、新しい号の発行が止まっていた。しかし、2・3号合併号、という形で先日やっと発行された。巻頭の言葉を読むと、日本の原発事故のために当庁の行政活動(原子力監督行政)を再検討せざるを得ず、これまで職員に余力がなかったから、と書かれている。
最新号の特集テーマは、当然ながら日本の原発事故だ。特集記事のタイトルは「福島での事故はまだ終わったわけではない」というものだ。(英訳すれば、The accident in Fukushima is far from over)
事故から半年が経った現在の被災地の状況や、放射線セシウムによる地表汚染、除染活動の状況について書かれているほか、スウェーデンの原子力発電所は大丈夫なのか? 地震や津波のリスクがないとしても、他にどのようなリスクが考えられるのか? 万が一、事故が発生した場合に備えてどのような安全バリアーが備え付けられているのか? などが分かりやすく説明されている。
ただ、やはり監督を行っている行政機関の発行であるので、どちらかというと、ちゃんと監督をしています、福島の事故を受けてストレステストを行っているところです、安全対策はしっかりされています、安心してね♥ という雰囲気がどことなく漂っている。しかし、それでもスウェーデンの省庁で働く公務員は基本的にジェネラリストではなく、それぞれの分野の専門家であるため、専門知識にしっかり基づいて客観的に書かれていることは確かだと思う。
私が興味深いと感じたのは、もしもスウェーデンの原子炉で外部電源からの電力供給が停止し、予備電源も機能せずに炉心溶融が起きたときはどうなるかが図解されている箇所だ。
まず、炉心が露出し始めて1時間が経てば、露出した部分から溶融が始まる。その後、4時間から7時間が経つと圧力容器内の水が完全になくなる。炉心はほぼ完全に融け、圧力容器の底を突き破る。しかし、格納容器の底には多量の水が張ってあるため、溶融した炉心はこの水によって冷却されることになる。ただし、格納容器内の水も溶融した炉心の熱によって次第に蒸気になっていくので、外部からの注水が必要になる。その場合は、消防車などの可動式装置によって注水が行われる。
耐震性があり、格納容器の土台の部分がしっかりしていれば、土壌に流れ出たり、外部に漏れる恐れは少ないと解釈してもよいのだろうか。
ただ、注水がうまく行かなかった場合はどうなるのか? 付近の放射線量が高すぎて消防士が近づけなかったら? 放射線防護機能のある消防車が本当にスウェーデンにあるのか? 何台? 注水に失敗して格納容器内の水も空になった場合は、どうなるのか? 土台を突き破ることになれば、それを阻止する対策が何かあるのか? ヘリコプターを使うことも考えているのか? このような疑問も浮かんでくる。
一方で、感心したのは、大気中への放射能の放出を抑えるフィルター装置がしっかり備え付けられている点だ。まず、圧力容器内の水がどんどん蒸発していけば、圧力を緩和するために格納容器内に蒸気を放出するわけだが、格納容器内でも圧力が高まっていけばいずれは大気中に放射能を含む水蒸気を放出せざるを得なくなる。放出しなければ、外部からの注水も難しくなる。福島第一原発ではこの時、ストレートに大気中に放出してしまった(爆発が起きて建屋そのものも吹っ飛んだ)。
このニュースがスウェーデンで報じられた直後、放射線安全庁の専門家がテレビでインタビューを受けていたが、彼がすっかりあきれていたのを私は覚えている。「先進国の原子炉に当然のごとく取り付けられているフィルター装置が福島原発には取り付けられていなかったなんて!」
では、このフィルター装置はどのようなものかというと、換気扇や空気洗浄機のフィルターみたいなものではなく、150立方メートルの水が入った大きな水槽だ(上図の右端の装置)。格納容器内の圧力が高くなりすぎると、放射性物質を大量に含む格納容器内の水蒸気が配管を通じてこの水槽に送られる。この時、水蒸気は水に戻り、水蒸気と一緒に運ばれていたヨウ素やセシウムなどの微粒子は水中に留まる。また、水蒸気には固体のヨウ素だけでなく気化したヨウ素も含まれているが、これは水槽の水にあらかじめ添加してある化学薬品と反応して化合物になり、水中に留まるのだという。こうして、水蒸気にもともと含まれていた放射性物質の99.9%が濾過された上で、大気中に放出される。(ただし、99.9%という数字には希ガスは含まれていないようだ。希ガスはこの装置では捕獲できず、大気中に放出される。しかし、半減期は非常に短く、短期的な問題にすぎない、と説明されている)
このフィルター装置が福島原発に装着されていたら、と考えると悲しくなる。
<注> イラストは放射線安全庁の機関紙15ページより
<以前の書き込み>
2011-03-28:原発の安全性をどの省が監督するべきか?
この放射線安全庁は機関紙を年に4回発行しているが、今年は年初に1号目を発行して以来、新しい号の発行が止まっていた。しかし、2・3号合併号、という形で先日やっと発行された。巻頭の言葉を読むと、日本の原発事故のために当庁の行政活動(原子力監督行政)を再検討せざるを得ず、これまで職員に余力がなかったから、と書かれている。
最新号の特集テーマは、当然ながら日本の原発事故だ。特集記事のタイトルは「福島での事故はまだ終わったわけではない」というものだ。(英訳すれば、The accident in Fukushima is far from over)
事故から半年が経った現在の被災地の状況や、放射線セシウムによる地表汚染、除染活動の状況について書かれているほか、スウェーデンの原子力発電所は大丈夫なのか? 地震や津波のリスクがないとしても、他にどのようなリスクが考えられるのか? 万が一、事故が発生した場合に備えてどのような安全バリアーが備え付けられているのか? などが分かりやすく説明されている。
ただ、やはり監督を行っている行政機関の発行であるので、どちらかというと、ちゃんと監督をしています、福島の事故を受けてストレステストを行っているところです、安全対策はしっかりされています、安心してね♥ という雰囲気がどことなく漂っている。しかし、それでもスウェーデンの省庁で働く公務員は基本的にジェネラリストではなく、それぞれの分野の専門家であるため、専門知識にしっかり基づいて客観的に書かれていることは確かだと思う。
私が興味深いと感じたのは、もしもスウェーデンの原子炉で外部電源からの電力供給が停止し、予備電源も機能せずに炉心溶融が起きたときはどうなるかが図解されている箇所だ。
まず、炉心が露出し始めて1時間が経てば、露出した部分から溶融が始まる。その後、4時間から7時間が経つと圧力容器内の水が完全になくなる。炉心はほぼ完全に融け、圧力容器の底を突き破る。しかし、格納容器の底には多量の水が張ってあるため、溶融した炉心はこの水によって冷却されることになる。ただし、格納容器内の水も溶融した炉心の熱によって次第に蒸気になっていくので、外部からの注水が必要になる。その場合は、消防車などの可動式装置によって注水が行われる。
耐震性があり、格納容器の土台の部分がしっかりしていれば、土壌に流れ出たり、外部に漏れる恐れは少ないと解釈してもよいのだろうか。
ただ、注水がうまく行かなかった場合はどうなるのか? 付近の放射線量が高すぎて消防士が近づけなかったら? 放射線防護機能のある消防車が本当にスウェーデンにあるのか? 何台? 注水に失敗して格納容器内の水も空になった場合は、どうなるのか? 土台を突き破ることになれば、それを阻止する対策が何かあるのか? ヘリコプターを使うことも考えているのか? このような疑問も浮かんでくる。
一方で、感心したのは、大気中への放射能の放出を抑えるフィルター装置がしっかり備え付けられている点だ。まず、圧力容器内の水がどんどん蒸発していけば、圧力を緩和するために格納容器内に蒸気を放出するわけだが、格納容器内でも圧力が高まっていけばいずれは大気中に放射能を含む水蒸気を放出せざるを得なくなる。放出しなければ、外部からの注水も難しくなる。福島第一原発ではこの時、ストレートに大気中に放出してしまった(爆発が起きて建屋そのものも吹っ飛んだ)。
このニュースがスウェーデンで報じられた直後、放射線安全庁の専門家がテレビでインタビューを受けていたが、彼がすっかりあきれていたのを私は覚えている。「先進国の原子炉に当然のごとく取り付けられているフィルター装置が福島原発には取り付けられていなかったなんて!」
では、このフィルター装置はどのようなものかというと、換気扇や空気洗浄機のフィルターみたいなものではなく、150立方メートルの水が入った大きな水槽だ(上図の右端の装置)。格納容器内の圧力が高くなりすぎると、放射性物質を大量に含む格納容器内の水蒸気が配管を通じてこの水槽に送られる。この時、水蒸気は水に戻り、水蒸気と一緒に運ばれていたヨウ素やセシウムなどの微粒子は水中に留まる。また、水蒸気には固体のヨウ素だけでなく気化したヨウ素も含まれているが、これは水槽の水にあらかじめ添加してある化学薬品と反応して化合物になり、水中に留まるのだという。こうして、水蒸気にもともと含まれていた放射性物質の99.9%が濾過された上で、大気中に放出される。(ただし、99.9%という数字には希ガスは含まれていないようだ。希ガスはこの装置では捕獲できず、大気中に放出される。しかし、半減期は非常に短く、短期的な問題にすぎない、と説明されている)
このフィルター装置が福島原発に装着されていたら、と考えると悲しくなる。
<注> イラストは放射線安全庁の機関紙15ページより
それとも、1機あたり数十億円になるといわれるフィルター設備への投資費用を負担するほどの余力さえなかったのでしょうか? まぁ、事故は起きないはずなんだし、そんなものへの投資はバカらしかったのでしょうか? そんないい加減な理由でないことを本当は願っていますが。
>私はあらゆる情報を取り入れ慎重に判断したいと思います。
それは言うまでもなく当然のことでしょう。私が書いている情報は、読む人の判断に任せます。
>であり、その様なとても大掛かりな装置
>をそのまま設置するには、我が国の原子炉
>の周りの狭隘な場所では大変不便であり、
>さらに旧式の原子炉に後付けするのは
>かなり不都合な部分があるといいます。
どこの情報か分かりませんが、吟味が必要でしょう。例えば、フィルター装置は、150立方メートル(m3) の水槽が中心となっていますので、どれだけの規模の施設なのか? どれだけの面積が必要か?を大まかに計算してみると、
(1)深さ3mと仮定した場合、必要な面積は50平方メートル(m2)。例えば、5m×5m
(2)深さ1mと仮定した場合、必要な面積は150平方メートル(m2)。例えば、10m×15m
です。たいした規模ではありません。したがって、「狭隘な場所」が理由になることはないように思います。
また、旧式の原子炉といっても、スウェーデンやドイツなどの原子炉も古いものは日本と同じくらいの経過年数です。
いずれにしろ、フィルター装置に代わる、何か別の対策をしていたのであれば評価はしますが
5m×5mや10m×15mなら小屋一軒分ですから設置するのが大変なのでは?
>また、旧式の原子炉といっても、スウェーデンやドイツなどの原子炉も古いものは日本と同じくらいの経過年数です。
原発は国によって構造に違う為、我が国と違い貴国の旧式の原子炉はもともと装置が設置しやすかったということでしょう。
>いずれにしろ、フィルター装置に代わる、何か別の対策をしていたのであれば評価はしますが
残念ながら私の知る限り代替の保険はありません。
江田五月議員は国会で当時の自民党政府に原發の津波対策に質問しており万全の対策を講じているとの答弁を得ています。東電も政府も有罪であることははっきりしています。、
私もどこかで以前目にした気がしていましたが、以前に頂いたコメントにあったのだと思います。
捜してみると北海道新聞も書いていますね。
http://www.asyura2.com/11/genpatu7/msg/675.html
是非吉宗先生の瑞国の電気事情の話を聞きたいが要所に電力会社がいるのでね。招致は出来ないのが残念
横浜市は、バグフィルターで十分と考えており、それ以上の措置をとるための、知識が不足しています。
日本に必要なのは、このような、国際社会の先駆的な技術です。
有益な情報発信をありがとうございます。
これからも日本のために、情報をお願いします。