スウェーデンの今
スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員
 



異なる発電形態の間の発電コストの優劣の続き。

まず、このコスト計算の仮定や条件について説明したい。

【利子率】
6%を仮定(借り入れに対する利子率と、自己資本に対する利潤率)


【償却期間・寿命】
長い償却期間・寿命を設定すれば、その分だけ1kWhあたりでみた初期投資コストが小さくなる。

・原子力発電所 40年
・大型水力発電所 40年
・その他の大型発電施設(天然ガス・石炭火力発電所)25年
・風力発電所 20年
・小型施設(各種コジェネ発電所・小水力発電所)15年


【稼働率】
1年間(=24時間×365日=8760時間)のうち何時間の間、施設を運転することができるか?


風力発電所の場合は、複数の発電機を一ヶ所に集中して建設する場合の効率低下の影響(最大でも10%)も時間に反映されている。

また、すべてのケースでは、発電出力100%で運転した場合として時間が計算されているため、例えば出力20%で1時間発電する場合は、0.2時間としてカウントされている。よって、発電出力×24時間×365日×稼働率で年間の発電量が計算できるようになっている。(完全に確証が得られたわけではないが、計算例などを見てみるとそのように思われる)

どの施設でもメンテナンスや定期点検を行う必要があるので100%になることはない。原子力発電所の稼働率が一番高く設定されている。

発電と暖房用熱水供給を同時に行うコジェネ発電施設は、主に熱水の需要に応じて運転を行うため、暖房の必要性の少ない夏季はあまり運転されない。また、コジェネ発電施設には天然ガスバイオマス、ゴミを使うものなど多様だが、生ゴミ等も含むゴミはあまり長期にわたって保存するのを避けるために、ゴミ・コジェネを優先的に運転し、それでも熱水需要を賄えない場合に天然ガスやバイオマスなどを稼動させる、という優先順位を設けているようだ。そのため、ゴミ・コジェネ発電施設の年間稼働時間が7000時間と長いのに対し、それ以外のコジェネ発電施設は5000時間と大きく差がある。ゴミ・コジェネ発電施設の初期投資費用(建設費)が高いことも、稼働率が高い一つの理由となっている。


【燃料費】


原発で使用する核燃料については、酸化ウランの国際価格が将来上昇する可能性もあるが、酸化ウランの購入コストが核燃料コストに占める割合は約45%であるし、核燃料コストが原発の発電コスト全体に占める割合は10%以下(残りの大部分が初期投資コスト)であるため、たとえ国際価格が上昇しても発電コストに与える影響は限定的だと考えられる、としている。


【熱供給の価値】
発電と暖房用熱水供給を同時に行うコジェネ発電施設は、発電についてはたしかに他の施設同様にコストがかかるものの、排熱で熱水をつくり、家庭やオフィスビル、工場などに販売するため、この部分で収入がある。この熱水の価値を織り込んだ上で、コジェネ発電施設の発電コストが計算されている。


さて、前回紹介したグラフを再掲載したい。


ここから分かるように、税・補助金を加えるか加えないかで発電コストの優劣が大きく変わっている。化石燃料を用いる火力発電所や、原子力発電所、また、コジェネ発電の中でも天然ガスを用いる発電所は、税・補助金を考慮すると発電コストが上昇するのに対し、風力発電所や水力発電所は大きなコスト減少が見られる。

では、ここで考慮されている税や補助金とは何か? 以下で簡単に説明する。

【税など】
・エネルギー税
化石燃料のみが対象。バイオマスやゴミは対象外。

・二酸化炭素税(環境税の一つ)
化石燃料のみが対象。バイオマスやゴミは対象外。

・二酸化炭素の排出権
化石燃料が対象。バイオマスは対象外。ゴミはこれまで対象外だったが2013年から対象となる予定。ただ、制度の枠組みや費用が未定であるため、今回の報告書ではゴミについては排出権購入にかかる費用を考慮していない。

・硫黄税・窒素酸化物(NOx)課徴金
燃焼の際に硫黄酸化物や窒素酸化物を発生する化石燃料が対象。

・埋め立て処分税
燃焼後の燃えかす・灰の埋め立て処分にかかる税。

・原発税
熱出力に応じて課税。熱出力1MW(1000kW)につき1ヶ月あたり12,648クローナ(16万4000円)。年換算で151,776クローナ(197万3000円)。だから、発電出力が100万kWの原子炉の熱出力がその3倍の300万kWとすれば、原子炉の所有者は毎年59億円を国庫に納めなければならない。

・核廃棄物処理機構への積立金
(これは、もしかしたら「税・補助金を考慮しないケース」にも含まれているかも)

・固定資産税
評価額に対する税率は、水力発電所であれば2.8%、風力発電所であれば0.2%、それ以外の施設は0.5%。つまり、水力発電所が不利である反面、風力発電所が優遇されている。


【補助金など】
・グリーン電力証書を通じた再生可能な電力への支援制度
バイオマス・小水力・風力などが対象。グリーン電力証書の需給関係によって補助額が変動する(再生エネルギーの導入目標の達成度合いに応じて変動)が、過去の1年間の平均的水準から1kWhあたり0.28クローナ(3.64円)と仮定。

(注:ドイツやスペインのような固定価格買取制度とは異なる)


再び、グラフに戻って見てみると、化石燃料に対しては様々な制度によってコストをわざと押し上げて他の発電形態との競争を不利にさせ、使用を抑制しようとするメカニズムがある。

また、原発に対しては、原発税が課せられている。(ただし、グラフを見るとこの影響はあまり大きくないようだ)

一方、再生可能エネルギーに対しては、これらの税や課徴金がほとんどかからない(ただし、バイオマスやゴミが燃える場合に窒素酸化物を出す場合は課徴金がかかるし、灰の処分のために埋め立て処分税がかかる)。その上、グリーン電力証書を通じて補助金が得られる仕組みとなっている。その結果、一部の発電施設では、原発の発電コストを下回るようになっているのだ。


コメント ( 5 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
「利権」という言葉について (coj21)
2011-08-04 01:29:24
 曖昧な言葉を使ってしまい申し訳ありません。
私の記憶では「利権に動かされた政策決定」という言葉を日本の原発に関する事ではありませんが貴殿が『「温暖化問題って『ワナ』なんですか?」に思うところ』でおいて使用したと記憶してます。
私自身は温暖化懐疑論者ではありませんがスウェーデンが温暖化対策の自然エネルギー政策でおいて「利権に動かされた政策決定」を一切してはいないのでしょうかという事をお聞きしてかったのです。

 
 
 
Unknown (net)
2011-08-04 04:02:10
いくらコストの安い発電方法を提案しても
日本の電力市場は地域独占なうえ
電気料金は電気事業法で定められた総括原価方式だから
コスト削減のインセンティブが働かないうえに
ある程度発電にコストがかからないと利益が増えないので
電力会社にとってほとんど魅力がないんですよね。
日本の場合技術力より法制度が問題なんですよね…。


もう地域独占だろうとどんなに法律で守っても電力会社は
電力供給義務を果たせないことがあるって分かったんだから
消費者にも責任を持たせる代わりに
すべてとは言わないですがある程度の規制緩和と
送発の分離で選択の自由がある今よりは自由な電力市場にしてほしいです。
 
 
 
原子力発電のコストについて (Haruyo Suzuki)
2011-08-10 21:22:24
原子力発電所はその寿命が終わった後、
放射線が漏れないように、100年単位で管理しつづける必要があると思いますが
そのコストは発電コストに算入されているのでしょうか?
原子力発電は、他の発電方法と比較するには、考えなくてはいけないリスクが非常に大きいと思います・・・。
 
 
 
Unknown (Yoshi)
2011-08-14 23:33:39
>スウェーデンが温暖化対策の自然エネルギー政策でおいて「利権に動かされた政策決定」を一切してはいないのでしょうか

利権がどのような条件で生まれるか考えてみた上で、では、自然エネルギー産業でそれが当てはまるのか?を議論されてみたらよいと思います。

パッと思いつくところでは、
(1)初期投資の規模が非常に大きく、既に設置してある設備をなるべく長いあいだ使い続けることでその資本の所有者に巨額な利益をもたらす場合

(2) 政策による誘導があるおかげで、政策がなかった場合に比べて、その産業が潤う場合。

原子力産業は上の両方が当てはまるでしょう。それに対し、自然エネルギー産業のほうは、現時点では、原子力などに比べたら設備あたりの投資の規模も小さく、設備の寿命も原発ほどは長くないでしょう(むしろ、原発は古い原子炉でもかなり無理して使っているのではないかと思いますが)

現時点で、自然エネルギーに利権が生まれているとすれば、主に(2)でしょうが、これまで国策によってぬくぬくと育てられてきた原子力産業に比べたら、その規模はたかが知れているのではないかと思います。

前にも書いたかもしれませんが、政策によって利権が生み出される(つまり、その政策なしでは存在しなかったであろう経済的利益が発生する)のは、ある意味、当然のことです。だから、武田なんとか氏のように、その点だけを指して批判してもしょうがありません。

太陽光発電や風力発電にしても、それが現時点ではコストが高く、放っておいては導入量が増えないから、それを政策的に支援しているのです。それが社会発展の理に適っているという根拠と合意があれば、正当化されるべきものでしょう。

もちろん、自然エネルギーが今後、大きな産業へと成長してくれば、産業的な発言力も強くなっていき、たとえ、補助金等の支援策が必要なくなったとしても、それまでの支援策の続行を要求してくるかもしれません。そうなった場合には、注意しなければならないでしょう。つまり、手の引きどころも肝心、ということです。
 
 
 
Unknown (Yoshi)
2011-08-14 23:36:51
>放射線が漏れないように、100年単位で管理しつづける必要があると思いますが
>そのコストは発電コストに算入されているのでしょうか?

この試算には、核廃棄物処理基金への積立金(発電量に応じた)が加算されています。現時点ではこの基金によって核廃棄物処理の費用が賄われているようですが、その積立金の規模(言ってみれば、核燃料の使用がもたらす環境コスト)が妥当なものかどうかは、私は分かりません。
 
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