自 遊 想

ジャンルを特定しないで、その日その日に思ったことを徒然なるままに記しています。

『冬の旅』 を久しぶりに

2014年09月23日 | Weblog

昨晩久しぶりにヘルマン・プライで『冬の旅』を聴いた。
その9番「鬼火(Irrlicht)」。

 深き谷間へと 鬼火は誘う
 われは迷えども 心痛まず
 鬼火の誘いに われは慣れたり
 喜び嘆きも すべて鬼火のしわざなりしか

 水なき川に沿い われは下りぬ
 すべての流れは海に注ぎ
 すべての悲しみは
 墓場につづかん

(夜の旅は、あてどない道をゆく若者に恐怖を与える。鬼火は彼を深い谷間へと誘う。しかし若者はもう慣れた。この世の喜びも悲しみもすべて鬼火の仕業だと感じる。
 この曲で、若者は一つの思想を初めて抱く。それは「諦観」である。それまでは恋人への執着を歌っていたが、この世は鬼火のようなものだという虚無感に襲われたとき、二十代後半のシューベルトは絶妙な歌曲を産み出した。独りのシューベルトがもう独りのシューベルトとひそかに語り合いながら。「やっと星の本当の美しさが分るようになったよ」というふうに。
 二十代後半、懐かしい。もの想う秋の夜長ではあった。)