自 遊 想

ジャンルを特定しないで、その日その日に思ったことを徒然なるままに記しています。

グリム兄弟 (再々掲)

2014年09月20日 | Weblog

 僕はいろんなことを試みてみたいと思ってきたが、試みてもどうしても出来なかったことの一つがメルヘンの創作である。これをするには少々の博識では無理で各地の伝説などを収集する根気が不可欠である。 グリム兄弟が多くの人々から聞き集めたメルヘンには民衆の心が生きていると言われる。
 兄ヤーコプ弟ヴィルヘルムは、苦学の末、良き師にも恵まれて文法学、歴史法学、比較言語学、神話学の世界的創始者になっただけではなく、言論の自由を訴えてゲッティンゲン大学教授の職を追われても国王の違憲を弾劾した実践的な正義の人であり、巨大な「グリム大辞典」の編集を始めた。
 後に東西分裂の最中にも旧東西ドイツの言語学者たちは協力して、この大辞典を完成させた。
 二十歳という若い日に、法律学徒の二人がメルヘンを集めるようになったのは、言葉と祖国への愛だったと言われている。時は1806年、ナポレオンの侵攻によって、八百年の歴史を誇る神聖ローマ帝国という名のドイツが崩壊した年。「ドイツの空が屈辱に暗く雲っていたとき、私たちはドイツの言葉にドイツの心を求めたのです」と、後にベルリン大学に招かれたときに語っている。メルヘンはお伽噺ではないのだ。
 話は変わるが、それから約130年後とんでもない人物が現れる。ヒットラー。グリム兄弟が築いたドイツの心を台無しにする野望を実現し、その後ドイツは混迷状態に入る。東西ドイツが統一されたのは1989年だったか、崩れるベルリンの壁の上で踊る若者たちを見て、当時の首相コールは「今は踊るのもよい。これからが問題だ」と言ったのを覚えている。
 何故グリム兄弟のことを記したかと言うと他意はないのだが、グリム童話選を読んでいて、メルヘンの奥にあるものを掴みたかったからである。