自 遊 想

ジャンルを特定しないで、その日その日に思ったことを徒然なるままに記しています。

秋刀魚を焼く

2014年09月10日 | Weblog

 炭火の熾った七輪の上の網に秋刀魚をのせると、ジュージューと音をたてながら、まず表面が焼ける。が、表面だけが早く焼けるようでは焦げついてしまうので、中までうまく火が通るようにしなければあらない。そこは炭火のよいところで、火を加減すれば充分にうまくいく。
 あの煙の匂いは、魚の皮や皮下脂肪が焼けて炭化する時のもの。秋刀魚には30%近いタンパク質と7~8%もの脂肪があるから、これが炭火で焙られると脂肪が溶け出し、これが炭火に落ちて燻られる。その煙の匂いには魚の生臭みの成分や脂肪とタンパク質が炭化した際の化合物などがあって、それらが特有の匂いを発する。
 「焼く」という調理法は、ごく一部の例外を除いて、地球上のほとんどの民族が最初に行った手法である。長い食の歴史を経て世界各国には「焼きの食文化」が盛衰してきた。
 その中で、食生活に独自の焼きの手法を取り入れ、バラエティに富ませ発展させたのが日本人であると、食の専門家・小泉武夫氏は語る。もちろん外国には、肉を串に刺して焼いたり、鉄板の上で肉を焼く料理、魚の燻製など、焼き料理は多数ある。しかし日本人ほど材料の持ち味を活かして焼く手法を確立した民族は珍しいらしい。塩焼き、照り焼き、付け焼き、串焼き、蒸し焼き、包み焼き、ほうろく焼き、等々。街には炉ばた焼き屋、焼き鳥屋、串焼き屋、たこ焼き屋、お好み焼き屋、焼き芋屋、等々。
 日本で焼く料理がこれほど独自に発展した理由は幾つかある。まず、魚介類や肉、野菜など、焼かれて美味い素材が豊富であること。焼いたものへの味付けとして醤油、味醂、日本酒などの特有の調味料があること。さらに備長炭に代表される炭や七輪、金網など焼く用具を調理に合わせてしつらえたこと。このような条件がそろっているのだから、焼いた料理を食べてまずいはずがなく、日本人の好む料理法となった。
 焼かれて美味い魚は多くの場合、日本の近海のもので、脂肪ののった魚である。その代表が秋刀魚。炭火で焼いてアツアツの内に食べるのが一番美味い。
 ところが残念ながら、いつの頃からか七輪が姿を消した。大抵の家庭ではガスで焼く。炭火とガス火では味が微妙に違う。脂の落ち方が違うのだろう。なお残念なことに、炭火を熾す、火を熾すという習慣が、特に都市部でなくなったことだ。