Baradomo日誌

ジェンベの話、コラの話、サッカーの話やらよしなしごとを。

コラの弦は何故2列か?

2009-02-19 | よしなしごと
先日製作した西アフリカの楽器、「コラ」。
リュートやギターに似て、共鳴胴に棹がついた形状だけどフレットがなく、音の出し方などはむしろハープに近いように思えるけど、なぜか弦が縦に二列並んだ不思議な楽器。
楽器分類学なんぞによれば「ハープ・リュート」と標記されることもある楽器で、実は300年位の歴史があるそうだ。
しかし、何ゆえ弦が二列?

毎晩音源を漁ったり、あいた口がふさがらぬほどマニアックなサイトから譜面みたいなものを引っ張り出したりしながら基本的な弾き方を探っているけれど、この楽器は弦が2列、右側にドミソシレファラド(レミ)、左側に(ドソラシ)レファラドミソシとなるのが基本のチューニングらしい(厳密に言うと、若干ずれるようだけれど)。
だから、左右交互に弾けばドレミファソラシ~といけるのであり、また、片方で2、3音を一度に鳴らせば、ドミソ、シレソ、ドファラって具合に基本の和音が出せる。
単純なことだけど、これって凄い!
知ってる人は知ってることなんだろうけれど、弦が2列だからこそ可能なこととはいえ、あまりの単純さにかなり強烈に驚いた。
誰だか知らんが、これを発明したヤツは天才だ!

「ハープ」という楽器は世界最古の楽器と言われ、エジプトもしくはメソポタミアにその起源があるという。「弓」がもとになってできた楽器であり、世界中に様々な形態で伝播しているが、現在のそれはおおむね共鳴胴と弓部分があり、弦は低⇒高だったりその逆だったり、とにかく一列に並んでいる。

西アフリカにもハープのような楽器は多く、中でもコラのご先祖と目される「ボロン」という3~4弦の弦楽器で演奏されるソファという曲のダンスの振りの中には弓で矢を射る振りがあるから、西アフリカにおける弦楽器のルーツとしても「弓」を挙げることができるだろうし、あるいはこれもまたハープが伝播したことにより生まれた楽器かもしれない。
ボロンもハープ同様に弦は一列であり、左右の手を用いて演奏するシンメトリーな形態。ボロンはひょうたんを叩いて音を出すことも多く(コラにおいても支え棒を叩く奏法がある)、ハープとの比較においてはメロディ楽器というよりむしろ打楽器的である。また、カマレ・ンゴニとかドンソ・ンゴニなどの弦楽器は弦が二列だったりするので、ボロンとコラの中間みたいな位置づけになるのだろうか。
ギターやリュート、あるいはアフリカのものでもっと小さなンゴニ(そもそも「ンゴニ」ってのは弦楽器の総称なんだそうだ)なども演奏者の身体(頭部)に一番近い弦が最低音、もっとも遠い弦が最高音となっているが、片手で弦をはじき、片手でフレットを押さえるアシンメトリー(左右非対称)な形態。
もっと複雑な構造を持つインドのシタールもアシンメトリーに見える。ドローン弦がどうなってるかは未確認だけど。
それから、カントリーミュージックを象徴する楽器、「バンジョー」もアシンメトリー。
これは合衆国オリジンのようなイメージがあるが、実はアフリカ起源で、カリブ海域、合衆国南部の黒人に広く使用されていたらしい。原型はむしろンゴニに近く、ひょうたんに皮を張った共鳴胴にさおを差した形状。
ンゴニに似たような形状の弦楽器はエジプトにもあるし、モロッコのゲンブリもそうだ。

こうやって見てくると、アシンメトリーな弦楽器が非常に多いことに気付く。
少ない本数の弦で表現できる音域を広げようとした結果、ネックとフレットが発達し、現在のギターやバイオリンなどに見られるアシンメトリーな演奏形態の楽器にたどり着いたのだろうか。
また、弓矢を打つ場合も、左右の手の役割は全く違うから、アシンメトリーな弦楽器の方がより「弓」的だし、そもそも「弓」=狩猟であるから、弦楽器は狩猟系の文化が生み出した楽器と言えそうだ。
ではその対極である、農耕文化あるいは定住化の象徴は何か?
定住化によってもたらされる社会的変化として、集団作業、家畜の飼育、祭祀儀礼などがあり、共同体の拡大に伴い通信手段の発達も予見される。
そこで家畜から得た皮、家屋や農耕作業に必要な道具類と材木から太鼓が生まれた、な~んてことが言えないだろうか?大体、ジェンベなんてもとは「臼」だって話だし。
太鼓類の構造上の特徴は胴に皮を張ってあること、バチを使おうが素手で叩こうが、概ね左右の手を同じように使って演奏できることにある。また、複数の太鼓を並べてメロディを叩くことも可能だが、基本は一人1台で弦楽器に比べてやたらと音のレンジが広い。
打楽器、という広い枠で見れは、ゴングだったりガムランだったりというメタル・パーカッションもあるけれど、それは「定住化」よりもさらに進んだ、独自の宗教や明確な階層分化を持つに至った社会においてのみ生まれる可能性のある楽器なのではないか(あくまで私見ですけどね)。


ここで見方を変えて。
左から右に低⇒高の順で音が並んでいる、「音の並びがアシンメトリー」な「弦楽器以外の楽器」と言うと、いわゆる鍵盤楽器がほとんど含まれる。中でもピアノやオルガンなどの起源はイスラム圏に求めることができそうだし、ヨーロッパは原型を改良・加工した地と言える。
また、打楽器なんだけどえらくメロディアスなマリンバ。一般的にはアフリカ起源とされるが、実はマリンバの起源はインドだとする説がある。
古代インドに存在していた「タラング(音が並ぶ楽器)」の一種が、マダガスカルを中継点としてインド洋経由でアフリカに伝わった楽器だ、というのがその説。ちなみに、赤道以南のアフリカで支配的なバントゥー語群では、「リンバ」は木の棒を、「マ」が多くの数を表す接頭語であるから、「マリンバ」は、多数の木の棒から成る楽器をあらわし、これが西アフリカではバラフォンと呼ばれるものだ。
似た名称として「カリンバ」がある。これは東部アフリカ~南部アフリカを起源として広く分布する「親指ピアノ」の類の別称(米国人がつけた名称らしい)であり、タンザニアやらケニアの方面ではイリンバ・チリンバと呼ばれている小型の打楽器。その中でも恐らくもっとも高度に発達したものがジンバブエのムビラだろう。一方、西アフリカのマリ周辺にも同様の楽器があり、こちらはザンザとかサンザとか呼ばれているらしい。
バントゥー語群地域における「リンバ」という単語の共通性と、タンザニアあたりの竹製イリンバなんてものの存在を合わせて考えると、アフリカ本土よりも人間、文化の面で東南アジアやインドからの影響が色濃いとされるマダガスカルが、これらの楽器(マリンバと親指ピアノ)の成立に大きな影響を与えたことが予想される。
マダガスカルのヴァリハなんて、竹でできた琴みたいだし、そう言えばバラフォンの台に竹が使われていたりするし。アフリカにも竹の文化があることに驚くが、マダガスカルを中継地としてはるかなアフリカがアジアとつながっている、っていう話にはロマンがある。

ところで。
「親指ピアノ」の類はマリンバ(バラフォン)とほぼ同様の地域に存在しているが、マリンバと違って比較的シンメトリーに音が並び、小さいものの場合には、概ね真ん中のキーが一番低い音で、外に向かうにつれて互い違いに音が高くなる構造となっている。
また、小さな親指ピアノが左右に二つつながったような鍵の配置になっているものもあるが、やはりシンメトリーだ。

インド起源のアシンメトリーなマリンバを縮小し、簡略化しようとしたものが親指ピアノなのか?
あるいは、左右の手を同様に使ってシンメトリーな音の配列からメロディを紡ぐ親指ピアノが先に存在したのか?
正確な年代はわからないし、また、それらの楽器が共同体の中でどのような位置づけであったかによっても、発達過程は違ってくるだろう。
例えば西アフリカでは、農民はジェンベなどの打楽器、メロディをつかさどるバラフォンやンゴニの類はグリオと決まっている。
親指ピアノは誰のもの?ジンバブエのムビラは先祖や精霊と交信するための楽器だと言うし、そのためにやはりグリオのような家系において演奏されてきたと聞いたことがあるが、東部アフリカ~南部アフリカの他の地域も同様か?

分からないことは多いけれど、演奏者の肉体に一番近い位置に低い音が、一番遠い位置に高い音が配置され、なおかつ両手を使って演奏する、という特徴は、かなりの種類の親指ピアノとコラに共通し、なおかつ他地域に起源を持つ楽器には見られない特徴であるように思う。
また、弦が縦に並んだボロンやドンソ・ンゴニなどは、親指を使って演奏者の肉体から外へ向けて押しやるように弦をはじくのが基本的な奏法。つまり、弦を「引く」のではなく、「叩く」動作となる。
これは明らかにハープとは異なる。
いや、もしかして、ヨーロッパ等での「弓矢」は「弦を引く」動作が基本で、アフリカのそれは「弓を押す」動作が基本、なんてことがあるのだろうか?

それはさておき、「叩く」もしくは「押す」動作は太鼓の演奏法と共通するものだ。
従って、西アフリカの弦楽器、中でもボロンやコラといった大型のそれは、ひょうたんに皮を張った太鼓と、効果音的に使う弦との組み合わせがもとになっており、弦を「引く」のではなく、「叩く」ことがその原初形態だった、と言えるのではないだろうか。
つまり、ボロンやコラ、ドンソ・ンゴニなど比較的大型の弦楽器は、実は「打楽器」なんではないか?ということだ(えらい飛躍ですが、あくまで私見ですので)。
そして、弦を縦に並べ、その弦を叩いて演奏する楽器において、表現できる音のレンジを増やそうとした結果、弦の数が増えていったのであり、コラの弦数がンゴニ等に比べて極端に多い理由はそこにあるのだろう。
ドンソ・ンゴニの多くが、弦は二列に並んでいるようだし、写真でしか見たことはないが、ブルキナファソにドンソ・ンゴニそっくりなゴニという楽器があり、これもまた3本×2列の6弦だった。
二列にすることにより、一本の弦を両手で連打することはできなくなったが、そのかわり、メロディアスなパッセージを速いテンポで演奏することが容易になる。言い換えれば、太鼓的であったものが、よりメロディ楽器寄りとなり、さらなる音数(=弦数)が求められると同時に、ひょうたんの太鼓は共鳴胴としての性格を強めていく。
加えて、さまざまな演奏テクニックが開発されていく過程において、縦に並んだ弦は最高音と最低音を同時に人差し指と親指で触れる程度の間隔に配置し、その間の弦は、それぞれ単音で鳴らすことができる程度、つまり親指もしくは人差し指が弦と弦の間に入る程度の間隔で並べていくと、個人差はあるだろうけれど概ね10本くらいまでが扱いやすい、ということを発見した結果、現在のようなコラの形状が定まってきたのではないだろうか?

以上、単なる仮説に過ぎないけれど、楽器から世界史を見直すと教科書が書き換わってしまいそうな予感がしてきた。

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