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【 想い出のハッシュドビーフ 】
私たちの職場は(一般社会から見たら)過酷で週120時間勤務も珍しいことではありません。弊社でも仕事納めは31日のお昼で仕事始めは1日の午後からなので実質1日しか休んでいません。(2日は新旧スタッフが集まって新年会だったけど)だからといって、残業代がたっぷりでることもなく料理が好きでお客様の笑顔が好きでなければこの仕事は続かないと思います。
... 私は大学講師で社会人になりましたが、当時は(今は民営化されているのでわからないですが)国家公務員とは言いながら、朝9時〜朝3時まで休日なしで仕事をしていたのでなにげに週120時間勤務でした。そんなことを若い子に話すと「えーっ!」って言われるけれど違和感はありませんでした。
なぜなら、祖母たちの背中を見て育ったからです。朝4時から仕入れに走り回って、厨房に立ち、包丁を砥いで厨房をピカピカに磨き上げて仕事を終えるのが深夜の0時すぎ。そこから新しいメニューの開発や研究。いつ寝てるのか、とても不思議でした。休日はありません。明け方にトイレに立っても祖母の姿は隣の布団にはなく、厨房からリズミカルな音が聞こえたものです。私は小さいときから3時間睡眠を躾けられたので今でも睡眠時間は3時間程度であとの時間はずっと仕事をしています。夜9時に寝て0時に起きてずっと仕事です。
これは他の多くの厨房の人たちも同じだと思いますし、話を聞いてると私の仲間のシェフ達はみなハードワークです。料理が好きでお客様の笑顔が見たくて、美味しい料理を追求することが生き甲斐。正月でもレストランが営業していることを当たり前と思うかもしれませんが、その陰には料理人たちの想いと不断の努力があることを忘れないで欲しいと思います。
毎年、年始が明けると家族みんなで有名なホテルに泊まってレストランで食事を堪能するのが私の家族の習わしでした。目新しい料理を見ると祖母は厨房で教えて貰っていたものです。
そんな料理の1つがハッシュドビーフ。あれは私が中学2年の1月だったと記憶してます。ホテルのレストランで、ハッシュドビーフが銀の皿に盛られて運ばれてきたのは。すぐに虜になって祖母に作ってくれるよう、頼んだのを覚えています。
研究を重ねてできたハッシュドビーフはまるで絹のような滑らかな舌触りで芳醇な香りを放つ、香水のような逸品でした。
当時はドミグラスソースの缶詰などなく、エスパニョールもすべて手作りだったので10時間以上かかる大変な仕事だったので、簡単に作ってと頼んだことを後悔したものです。完成品はそれはもう美味しくて美味しくて、絹のような滑らかな舌触りで涙がでるくらいに感動したものです。
ドミグラスソースづくりは難航して最初の3ヶ月は作っては捨て、作っては捨ての繰り返しでようやく私が食べたのは5月の子供の日だったのを今でも鮮明に覚えています。働く祖母の背中だけを追いかけて大きくなったので働くことが私の生き甲斐であり、生きている意味になっています。そんな私を見て育った娘も働くことが生き甲斐の26歳。私の想いは脈々と受け継がれています。
祖母が若いお母さんに料理を教え、味を伝え、なによりも家族への想いを伝え、子供はその背中を見て育つ。嬉しいことも悲しいことも辛い修行もみんなで共有する、そんな運命共同体を家族と言う時代は過去のものになり、今ではとっても便利で効率的な世の中になりました。それに伴って家族が失った代償は決して小さなものではないように感じています。
さて、ハッシュドビーフ。。
ドミグラスソースを家庭で作るのは現実的ではないので缶詰を買って下さい。
分量は2人分です。
タマネギ・・・70g
セロリ・・・・40g
ニンジン・・・40g
ニンニク・・・30g
赤ワイン・・400g
水・・・・・・90g
ドミグラスソース(缶詰)
塩、胡椒、バター、適量
それぞれの野菜は均一にカットして下さい。
鍋にオリーブオイルを敷いて野菜を入れ、弱火でスエします。(野菜の表面が汗をかく程度に炒めます)表面に出てくる水分は旨味成分であるグルタミン酸なので、火を入れすぎて乾燥させないように注意します。野菜表面の水分量が最大値になったところで赤ワインを入れます。赤ワインにグルタミン酸が加わって旨味が増します。均一にカットすることにこだわる理由もここにあります。全ての野菜に同時に同じだけ火が入ってグルタミン酸の浸出量が最大になるようにするためなのです。このまま中火で飴色になるまで煮詰めます。(写真はその途中です)出来上がったら、ボールを用意してザルで野菜だけを取り分けます。煮詰められた赤ワインをボールから鍋に戻し、ムーランで野菜を裏ごしします。ムーランがない場合は、水を加えてフードプロセッサーでピューレにし、それを裏ごしして鍋に戻してください。ドミグラスソースを加えて一煮立ちしたら、味を見ながら塩、胡椒、バターを加えて完成です。
この料理もシンプルですが、奥が深く、絹のような舌触りに仕上げるには経験も必要です。
注)家庭で作れるようにルセットは簡略化しています。シェフの方はスルーして下さい。
【 想い出のハッシュドビーフ 】
私たちの職場は(一般社会から見たら)過酷で週120時間勤務も珍しいことではありません。弊社でも仕事納めは31日のお昼で仕事始めは1日の午後からなので実質1日しか休んでいません。(2日は新旧スタッフが集まって新年会だったけど)だからといって、残業代がたっぷりでることもなく料理が好きでお客様の笑顔が好きでなければこの仕事は続かないと思います。
... 私は大学講師で社会人になりましたが、当時は(今は民営化されているのでわからないですが)国家公務員とは言いながら、朝9時〜朝3時まで休日なしで仕事をしていたのでなにげに週120時間勤務でした。そんなことを若い子に話すと「えーっ!」って言われるけれど違和感はありませんでした。
なぜなら、祖母たちの背中を見て育ったからです。朝4時から仕入れに走り回って、厨房に立ち、包丁を砥いで厨房をピカピカに磨き上げて仕事を終えるのが深夜の0時すぎ。そこから新しいメニューの開発や研究。いつ寝てるのか、とても不思議でした。休日はありません。明け方にトイレに立っても祖母の姿は隣の布団にはなく、厨房からリズミカルな音が聞こえたものです。私は小さいときから3時間睡眠を躾けられたので今でも睡眠時間は3時間程度であとの時間はずっと仕事をしています。夜9時に寝て0時に起きてずっと仕事です。
これは他の多くの厨房の人たちも同じだと思いますし、話を聞いてると私の仲間のシェフ達はみなハードワークです。料理が好きでお客様の笑顔が見たくて、美味しい料理を追求することが生き甲斐。正月でもレストランが営業していることを当たり前と思うかもしれませんが、その陰には料理人たちの想いと不断の努力があることを忘れないで欲しいと思います。
毎年、年始が明けると家族みんなで有名なホテルに泊まってレストランで食事を堪能するのが私の家族の習わしでした。目新しい料理を見ると祖母は厨房で教えて貰っていたものです。
そんな料理の1つがハッシュドビーフ。あれは私が中学2年の1月だったと記憶してます。ホテルのレストランで、ハッシュドビーフが銀の皿に盛られて運ばれてきたのは。すぐに虜になって祖母に作ってくれるよう、頼んだのを覚えています。
研究を重ねてできたハッシュドビーフはまるで絹のような滑らかな舌触りで芳醇な香りを放つ、香水のような逸品でした。
当時はドミグラスソースの缶詰などなく、エスパニョールもすべて手作りだったので10時間以上かかる大変な仕事だったので、簡単に作ってと頼んだことを後悔したものです。完成品はそれはもう美味しくて美味しくて、絹のような滑らかな舌触りで涙がでるくらいに感動したものです。
ドミグラスソースづくりは難航して最初の3ヶ月は作っては捨て、作っては捨ての繰り返しでようやく私が食べたのは5月の子供の日だったのを今でも鮮明に覚えています。働く祖母の背中だけを追いかけて大きくなったので働くことが私の生き甲斐であり、生きている意味になっています。そんな私を見て育った娘も働くことが生き甲斐の26歳。私の想いは脈々と受け継がれています。
祖母が若いお母さんに料理を教え、味を伝え、なによりも家族への想いを伝え、子供はその背中を見て育つ。嬉しいことも悲しいことも辛い修行もみんなで共有する、そんな運命共同体を家族と言う時代は過去のものになり、今ではとっても便利で効率的な世の中になりました。それに伴って家族が失った代償は決して小さなものではないように感じています。
さて、ハッシュドビーフ。。
ドミグラスソースを家庭で作るのは現実的ではないので缶詰を買って下さい。
分量は2人分です。
タマネギ・・・70g
セロリ・・・・40g
ニンジン・・・40g
ニンニク・・・30g
赤ワイン・・400g
水・・・・・・90g
ドミグラスソース(缶詰)
塩、胡椒、バター、適量
それぞれの野菜は均一にカットして下さい。
鍋にオリーブオイルを敷いて野菜を入れ、弱火でスエします。(野菜の表面が汗をかく程度に炒めます)表面に出てくる水分は旨味成分であるグルタミン酸なので、火を入れすぎて乾燥させないように注意します。野菜表面の水分量が最大値になったところで赤ワインを入れます。赤ワインにグルタミン酸が加わって旨味が増します。均一にカットすることにこだわる理由もここにあります。全ての野菜に同時に同じだけ火が入ってグルタミン酸の浸出量が最大になるようにするためなのです。このまま中火で飴色になるまで煮詰めます。(写真はその途中です)出来上がったら、ボールを用意してザルで野菜だけを取り分けます。煮詰められた赤ワインをボールから鍋に戻し、ムーランで野菜を裏ごしします。ムーランがない場合は、水を加えてフードプロセッサーでピューレにし、それを裏ごしして鍋に戻してください。ドミグラスソースを加えて一煮立ちしたら、味を見ながら塩、胡椒、バターを加えて完成です。
この料理もシンプルですが、奥が深く、絹のような舌触りに仕上げるには経験も必要です。
注)家庭で作れるようにルセットは簡略化しています。シェフの方はスルーして下さい。
代表ライター 松田正明