後藤和弘のブログ

写真付きで趣味の話や国際関係や日本の社会時評を毎日書いています。
中央が甲斐駒岳で山麓に私の小屋があります。

細川呉港著、「花人情」(愛育出版)のご紹介

2017年03月22日 | 日記・エッセイ・コラム
花のお好きな方に良い本です。無名の人々の清らかな生き方に興味がある方に良い本です。それが『花人情(はな、ひと、なさけ)』という題の新刊書です。著者は細川呉港さんです。

私は以前に『美しくもせつないモンゴル人、ソヨルジャブと日本人との絆』という小文を掲載しました。先日の2月11日のことです。
この小文は細川呉港氏の書いた『草原のラーゲリ』」(文藝春秋社、2600円)という本の紹介でした。
そして2月23日の記事では、同じ細川呉港さんの『桜旅』(愛育社出版)という2016年4月11日出版の本もご紹介しました。それもネットで簡単に購入出来ます。1800円です。

さて今日は同じ著者の新刊書、『花人情(はなひとなさけ)』(愛育出版刊 1,600円)をご紹介いたします。

まず細川呉港さんから頂いた本の説明文をご紹介いたします。
・・・人間、歳をとり、六十を過ぎ、七十を過ぎると、いままで気がつかなかったことでも、見えてくるものがあります。人生の節々で出逢った人と、 思いがけず再会する。そうしたときは本当に嬉しい。今から思うと、若いときの大人げない行動が、とても恥ずかしく思える。あの時こうしておけばよかった。あの時が人生一番輝いていた――。そうしたことは、多くの人たちに共通の思いではないかと思います。
歳老いて、自分を支えていくものはなにか――。団塊の世代が定年を迎えて久しく、彼らは今、何を考え、どんなことをしているのでしょうか。そうしたことに、私のささやかな、生涯体験がお答えすることができればと思います。オビに「伝えておきたい人生の味。問わず語り、生きてきてよかった」としました。常に無名の人の美しい生き方を追い続けています。ぜひ読んでみてください。・・・

この本は細川さんが20年以上にわたって書きつづった随筆を本にしたもので、その目次は下の参考資料に掲載した通りです。

各章の見出しを丁寧に見ると細川呉港さんの人生で会った人々への思い出を書いているのが分かります。昭和時代の雰囲気が立ちのぼっています。そしてその中に必ずのように花や植物のことが書いてあります。

細川さんの文章の特徴は一直線ではありません。その主題の一直線から脇道へ、そしてその先の小道や路地へ彷徨うのです。そして小道や路地で会った人々の印象深い生涯を紹介します。自分の生き方を見つめ直します。そしてしばらくして主題の一直線に戻ってくるのです。
まるで一見無駄のように見える脇の小道や路地を熱心に歩き、その風景や心象風景を描いているのです。
下に紹介した26の各章は独立した作品です。どの章から読み出しても良いのです。

それぞれが美しい人生だけを描いているだけではありません。人生の陰や宗教とのかかわりも書いています。内容が深いのです。
例えば、第19章「京都大徳寺大仙院の青年僧」では単に禅宗の教えだけを紹介しているのではありません。
一人の弁舌の巧みな青年僧が大徳寺のある塔頭で観光客相手に感動的な説明をしています。聴衆が緊張して聞き入っています。
説明では禅宗の教えは「その時その場を懸命に生きる」というものだと話しています。これが第一幕の場面です。
舞台は急に変わって第二幕は上野の花見の雑踏の中でこの同じ青年僧が数人の花見客を集めて説法をしています。
すると中年の男が青年僧に問いかけます。
「あんたは、一生懸命生きている?」、、、「あんたは、無心になったことある?」。
青年僧は「ええ、私は禅の修行を何年も。比叡山にも」と答えます。
中年男、「無心になった男が、こうやって東京まで出て来て、みんなに説教をしている?」・・・「私だったらそんな若さでは説教なんかできない」と言うのです。青年僧は絶句し、京都に帰ります。
そして第三幕はそれから数十年後の上野の櫻花の下を著者の細川呉港さんが歩いている場面です。そして昔、ここで恥をかいた大徳寺の青年僧のことをあれこれ想い出している場面です。青年僧の生き方が正しいのか、間違っているのか書いていません。恥をかかせた中年男が礼儀を失したとも書いていません。全ては読者の心に任せています。
そして最後にこの青年僧は尾関宗園といい、後に有名になり沢山の生き方に関する本を出していると紹介し、この章を終わっています。

このように各章は一つの独立した物語になっています。それぞれが偶然会った人の生涯が簡潔に書いてあります。しかし清らかな生き方はどのようなものかを深く考えさせるのです。理想の人生とはと考えさせるのです。
こんなことが書いてある本が細川呉港氏の『花人情(はなひとなさけ)』という本です。

だれでも老境にいたると自分の人生を振り返ります。そのような方々にとって非常に参考になり、そして考えさせる本です。お薦めします。

今日の挿し絵代わりの写真は小さく可憐なサクラソウの花の写真です。

それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。後藤和弘(藤山杜人)
===参考資料===============
(1)細川呉港著、『花人情(はなひとなさけ)』(愛育出版刊)の目次
○〈まえがき〉  
人生、「めぐり逢い」こそすばらしい、            
この広い世の中、あなたは何人知り合いがいますか。   

1 台湾の田舎の畦道で出会った世にも不思議な体験
     時空転移装置が働いた瞬間
2 人生で一番すばらしかった授業
     四十年後に解けた老教授の疑問
3 曼珠沙華の想い出
     秋祭りの最中に突然消えた彼女
4 山吹の花は咲けども
     学費値上げ闘争のころ。初めての機動隊学内突入 
5 わが青春の旅立ち
     ブラジル航路の最後の移民船が、私の青春の始まり
6 キューバの日系一世たち
     世界の果てで生きる明治生まれの老人たちが、どうしても私に伝えたかったこと
7 連れ出された旅と楷(かい)の樹
     中国山東省曲阜から持ち帰られた樹の種子が、やがて日本中に――思想を伝える樹
8 白いエンジュの花の雨 
     『紅楼夢』の舞台で出合った女詐欺師
9 タイ、丘の上の高級リゾート・ホテル
      ブーゲンビリアの垣根の中の夢と現実
10 錦木を持つ男 江戸時代にもてはやされた悲恋物語
11 向こう三軒隣組 日本的お隣との付き合い方
12 「鉢木(はちのき)」と「佐野の船橋」 能や謡曲に出てくる恋の浮橋
13 ツキヨタケの陰謀 吾こそはキノコ博士と自慢した男の「死」
14 大伴旅人と「鞆の浦」の、むろの樹
      古代から現代まで、わけありの男たちが忍んだ隠れ里
15 幸田露伴『五重塔』の十兵衛と倉吉
      幸田文の娘の情操教育は成功したか
16 人は何によって生かされているか
      サギソウの保存運動五十年から得たもの
17 北向き観音と愛染かつら
      信州、別所温泉にある桂の大樹と碑林
18 人間の夢のユートピア
      富と権力を手に入れた者が最後につくる庭園
19 京都大徳寺大仙院の青年僧
      「その時その場を懸命に生きる」禅宗の教え
20 松の人格   三十年来の友人が隠していたもの
21 折口信夫(釈迢空)、葛の花は壱岐島か熊野古道か
      地元を巻き込んで論争が続く名歌の謎
22 土屋文明とふるさとの柿の木
      歌人として名をなしても生涯帰れなかった故郷とは
23 柚子の木の夢
      残り少ない人生なのに、返してもらいたい騙された七年の歳月 
24 レバノン杉の教訓
      メソポタミア、エジプト、ギリシャ、ローマ、古代文明を支えた樹(香柏)
25 月見草の歌  サラリーマン哀歌--美しい花も人によっては単なる雑草
26 オバマが広島にやってきた 戦争は、かぼちゃを悲しい野菜にした

(2)著者略歴

一〇四四年、広島県呉市生れ。一九六五年、最後の移民船でキューバへ。早稲田大学卒業後、集英社に入社。宣伝部、雑誌編集部、つくば科学万博副館長などを経て学芸図書編集部長を最後に定年。中国担当として長年中国を取材。財団法人一橋文芸教育振興会など歴任後フリー。著書に『桜旅』愛育出版、『紫の花伝書』中国書店、『草原のラーゲリ』文藝春秋社、『日本人は鰯の群れ』、『ノモンハンの地平』光人社、『満ちてくる湖』平河出版など。他に『バイコフの森』『台湾万葉集』集英社、などの編纂もある。東洋文化研究会の運営は三十年になる。

『花人情(はなひとなさけ)』は四六上製本、366ページ。大活字を使用しています。愛育出版発行。(☎03-5604-9431 FAX03-5604-9430)
 ご希望の方はアマゾンでお求めになるか、東洋文化研究会の事務局へchio4613@jcom.zaq.ne.jp のメールで申し込んでください。
なお、細川呉港の前作『桜旅』、『草原のラーゲリ』も、東洋文化研究会の事務局でも販売、発送のお手伝いをしています。





コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。