後藤和弘のブログ

写真付きで趣味の話や国際関係や日本の社会時評を毎日書いています。
中央が甲斐駒岳で山麓に私の小屋があります。

バーンズ美術館への旅ーWさんの余話

2008年11月08日 | 旅行記

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先日、ここは何処でしょう?という謎々で、バーンズ財団美術館をご紹介しました。

それにまつわる余話を書きます。

心底好きになったW氏をワシントンDCのペンタゴンへ訪ねました。1999年の頃です。

日本では、お役所にいる人を訪ねるとやたら横柄な態度をとる人がいます。役所の外であうときと人格が変わっています。しかしWさんは、日本で一緒に旅したときと全く同じです。地味で人懐かしい雰囲気です。低い声でボソボソと話します。

そしてアメリカへ来たら仕事だけでなく美術館へも行けと、バーンズを教えてくれました。

さっそく、次の日、電車に2時間近く乗って、フィラデルフィヤ市の郊外にあるバーンズ美術館へ行きます。小さな郊外の駅に降り立つとタクシーが居ません。来る様子もありません。すっかり途方にくれていたら一台の乗用車がスウッと近づいてきます。

若い女が、「何処へ行きます?」と聞いてくれる。バーンズですと答えると、送ってくれると言う。渡りに舟だねと、小声で独り言をいいながら乗り込む。車の中ではバーンズのことをどうして知っているの?と聞く。「ペンタゴンのWさんに教わったのさ」。

「ペンタゴンは大嫌い。でもWさんは絵が好きだからきっと善い人ね」と言う。

10分くらいで美術館に着く。この女性の屈託のない親切さが忘れられない。

バーンズは個人の邸宅を美術館にしている。膨大なコレクションを数個の部屋の壁に可能な限り多数展示してある。壁一面に絵画が展示してある部屋もある。

印象派の絵画が多い。このように壁一面に展示されると、画家の息使いが直接顔にかかって来る様である。先日のナゾナゾで出した写真は壁の絵の数が少ない部屋のものだ。部屋を回りながら興奮してきて体が熱くなる。

ある部屋の壁にビッシリとセザンヌの絵が掛けてある。何人かの女性がなだらかに横たわった例の構図のものだ。描きかけたもの、途中でやめた絵、どこか気にくわなくて途中で放棄したような絵などが、同じ構図で20枚以上くらい展示してある。

セザンヌの好きな人に怒られるかも知れないが、「ああ、セザンヌは失敗作の多い画家だったのか!失敗作の無い画家もいるのだろうか?」などと親近感が沸いてくる。

ペンタゴンからバーンズへ廻る小さな旅のエピソードです。(終わり)


人間が好きだから旅をする(8)マネージャーが好きになって全国を旅する

2008年11月08日 | 旅行記
800pxthe_pentagon_us_department_of_ 出典はWikipedeaのペンタゴンの記事の写真です。

1998年頃、私はアメリカ政府の国防省先端研究庁の依頼で日本の研究情報を収集する仕事をしたことがある。ある特定の分野の研究マネージャーのW氏とメールの交換をし、訪日したとき一緒に情報収集の旅をした。そのWさんの人柄が心底好きになってしまった。

今回の話は僕が好きになった、そのWさんの人柄を書きます。

情報収集の契約をする前に貰ったメールに、まず感動した。「君が感心する日本の研究の情報を集めて自由に報告して下さい。どのような報告書を作るかは全く自由です。ただ君個人の評価や感想を必ず付け加えて下さい。情報収集は公開情報に限定して下さい」

こんな契約ならばと、早速、ある分野の学会誌をすこし見て、日本の研究者の名前と論文題目を送る。それに対してWさんからは、心から感謝している様子の返事を必ずくれる。そして日本の研究のそれぞれの良い点を褒めている。僕の日本自慢の心へ火をつけるようなメールである。

全国の大学や民間機関を丁寧に訪ねまわり、研究者から研究の苦労話を聞く。報告書をWさんへ送る。Wさんは直ぐ返事をくれ、報告書の内容を褒める。あまり褒めるので、私も次第に本気で仕事へ打ち込んだ。

メールの交換の後、Wさんが来日した。60歳前くらのズングリ太った地味な普通の男である。風采が上がらないと言ったほうが真実に近い。低い声で分かり難い英語をボソボソと話す。メールの切れ味の良い文章とは違う。

北海道大学から九州大学までの全国の大学や東芝、ソニー、松下、日立、富士通、日本電気などの基礎研究所を廻る旅を一緒にした。新幹線の中で個人的な話をする。他人へ優しく、寛容で、人柄が温かで、人懐っこくて、常に自己反省的な言葉をつぶやいている。「研究生活を止めてマネージャー業になったのが良かったのだろうか?」、「アメリカ国民の莫大な税金をこの課題の研究へ使うことは本当に正しいのだろうか?」、「君はどう思う?」。こんな独り言のような問いである。

後で知ったが、彼は超電導現象の研究では世界的に有名な科学者であった。

話がいきなり飛びます。Wさんの下で働いて分かったことです。

情報収集のマネージャーは第一に人間的魅力がなければいけない。どんな人種の人でも吸い付けるような光を発している。この人の為ならなんでもしようという気持ちにさせる神秘的な力を持っている。その人の下で働いている人は次第に深みにはいり何でもしてしまいます。

もっと話が飛躍します。ゾルゲと尾崎秀実の関係もそうだったのでしょう。

日本の法律にふれ2人は処刑されました。ゾルゲさんは欠点も多い人だったらしいが、人を惹きつける神秘的な光を出していた。そして尾崎さんが深みにはまった。

スケールが小さくなり恐縮だが、鈴木宗雄さんと佐藤優さんの関係にも何か共通なものを感じています。

しかし裁判の過程では人間の神秘的な光など議論の対象には決してならない。あくまでも法律に違反しているか否かだけである。でも人間の魂は別の世界を自由に飛び回っているのです。Wさんは訪問先の日本人を全て惹きつける。後で小生から彼らにメールを送ったり、再び訪問すると、Wさんの人柄を必ず褒めていた。

Wさんを国防省へ訪ねたときも、相変わらず風采があがらない姿だったが、人を惹きつける光をだしていた。(続く)

なお、関連記事は、外国体験のいろいろ(14)アメリカ流情報の分析のしかた(11月27日掲載記事)に御座います。