先日、ここは何処でしょう?という謎々で、バーンズ財団美術館をご紹介しました。
それにまつわる余話を書きます。
心底好きになったW氏をワシントンDCのペンタゴンへ訪ねました。1999年の頃です。
日本では、お役所にいる人を訪ねるとやたら横柄な態度をとる人がいます。役所の外であうときと人格が変わっています。しかしWさんは、日本で一緒に旅したときと全く同じです。地味で人懐かしい雰囲気です。低い声でボソボソと話します。
そしてアメリカへ来たら仕事だけでなく美術館へも行けと、バーンズを教えてくれました。
さっそく、次の日、電車に2時間近く乗って、フィラデルフィヤ市の郊外にあるバーンズ美術館へ行きます。小さな郊外の駅に降り立つとタクシーが居ません。来る様子もありません。すっかり途方にくれていたら一台の乗用車がスウッと近づいてきます。
若い女が、「何処へ行きます?」と聞いてくれる。バーンズですと答えると、送ってくれると言う。渡りに舟だねと、小声で独り言をいいながら乗り込む。車の中ではバーンズのことをどうして知っているの?と聞く。「ペンタゴンのWさんに教わったのさ」。
「ペンタゴンは大嫌い。でもWさんは絵が好きだからきっと善い人ね」と言う。
10分くらいで美術館に着く。この女性の屈託のない親切さが忘れられない。
バーンズは個人の邸宅を美術館にしている。膨大なコレクションを数個の部屋の壁に可能な限り多数展示してある。壁一面に絵画が展示してある部屋もある。
印象派の絵画が多い。このように壁一面に展示されると、画家の息使いが直接顔にかかって来る様である。先日のナゾナゾで出した写真は壁の絵の数が少ない部屋のものだ。部屋を回りながら興奮してきて体が熱くなる。
ある部屋の壁にビッシリとセザンヌの絵が掛けてある。何人かの女性がなだらかに横たわった例の構図のものだ。描きかけたもの、途中でやめた絵、どこか気にくわなくて途中で放棄したような絵などが、同じ構図で20枚以上くらい展示してある。
セザンヌの好きな人に怒られるかも知れないが、「ああ、セザンヌは失敗作の多い画家だったのか!失敗作の無い画家もいるのだろうか?」などと親近感が沸いてくる。
ペンタゴンからバーンズへ廻る小さな旅のエピソードです。(終わり)