山の辺の道を歩いた翌日は、奈良市内を案内した。
ここでも彼は何を話したか、ほとんど覚えていない。
彼女はたわいない話や、私の解説を笑顔で関心を示してくれた。
彼女は写真を撮るのが好きなようで、影を撮影してみたり、面白い写真を撮っていた。
もちろん鹿も可愛いと言い、とりわけバンビを見つけた時は嬉しそうだった。
彼はと言うと、「あれ?姿が見えない!!」、すると彼女は「いつもそうなのよ。でもそのうち現れるの」と。
東大寺の入場料を払おうとすると、彼女はまたすごい剣幕で「何しているの!!早く払いに行かないと」と彼に言う。
彼はひょうひょうとしている。
二月堂の舞台で、ここにまつわるいくつかの話をしようとした時も
「いない。でも仕方ない。彼女に聞いてもらえればいい」と話し始めた。
するとどこからかやってきて、ちゃんと肝腎のところは聞いている。
すべてこんな感じだった。
彼はブルターニュの出身と言うから、シャイというのはなるほどであるが、ここまでのシャイは珍しい。
どうしてもいつか弁護している雄弁な彼を、見てみたくなるのだ。
この後は、九州へと向かった彼らだが、後で送られてきた写真を見ると、「ウォーリーを探せ」のポスターの中に紛れているひょうきんな彼の写真があった。
帰国後もポルトガルやイタリアへ行った写真を送ってくれる。
ただ最近気がかりなことがある。
彼女から震災後頂いたメールによると、彼女は仕事でカナダにいるらしい。
また別々の暮らしのようだ。
二人が一緒にずっといられる日が来るのを願いながら、私は彼らとの再会を楽しみにしている。
美人の彼女も魅力だが、かなりすでに髪が少なくて無口な彼の存在は、私に大きな印象を残した。
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