7月29日『日本の安全保障と平和外交-平和構築のフィールドと議員外交の視点から』というテーマで美濃加茂市で講演しました。その時のレジュメと映像です。
https://youtu.be/oxcJfMiiDjo
YouTube映像:日本の安全保障と平和外交-平和構築のフィールドと議員外交の視点から
平和外交について具体的に考察する
「防衛費を増やすのではなく平和外交に力を入れるべき」とは多くの議員が言っているが、具体的には何ができるのか?私自身が平和構築の現場に長年携わる中で問題意識を持ち、国会議員としても取り組んできたテーマの成果と課題、再び議員になって実現を目指していることをお話する。日本だからこそできる平和外交の在り方を考える。
議題
①日本の安全保障をテーマに現実的な戦争の危機について考える
②日本国民に知らされていない米軍の特権と、その問題点を共有する
③日本にとっての安全保障上の問題と今後必要な対応について考える
④日本だからこそできる平和や民主主義への貢献は何か考える
⑤北朝鮮の日本国籍者の帰国とセットにした拉致問題の解決、カンボジアにおける自由で公正な選挙制度への改革支援など、阪口が行ってきた平和外交を検証する
提言①
紛争地域の平和構築と民主化支援、紛争仲介外交など国際的な平和貢献を日本の安全保障の柱のひとつにして『攻められにくい国』を目指す
提言②
米国との関係は最重要。だからこそ、米国にはできない、日本だからこそできる平和貢献を行う可能性を追求すべき。米国の短期的な国益のために従属的になるのではなく、地球益、人類益を中心に据えて行動するパートナーとして、存在感を示す日本の在り方を探らなくてはならない。
問題提起
Q1.防衛費を増やせば有事の際に米国に守ってもらえる?
米国には日本防衛の義務。(日米安保第5条)があり、歴代内閣は米国大統領に確認。しかし、米国は自国の利益に基づいて行動する。守る対象の重要性と、そのために必要なコスト、予想される被害や費用、また世論の動きを考慮して軍事行動の是非を判断すると思われる。
大統領は議会の承認の必要性を理由に軍事行動を拒否する可能性もある。米軍基地への攻撃ではなく、尖閣諸島のような無人島のために戦争のリスクを冒すかどうかは極めて疑問。一方、『自ら闘わない者を助けない』こともまた事実。まずは自衛隊が闘い、ウクライナのように日本国民自ら徹底抗戦することを要求される可能性がある。
Q2.中国は日本に攻めてくる?
中国政府の武力侵攻の戦略目標は、台湾の統治機構を自らのものにすること。米軍が介入することになれば、そのコストは極めて大きなものになる。また、国際社会の中国に対する非難が高まり、厳しい経済制裁が科される。中国はエネルギーを海外に依存しており、石油、天然ガスを止められると軍事作戦、および国民の生活に大きな支障を来す。武力侵攻は目標達成のための最後の最後の選択肢。民主主義を知る新しい世代のリーダーは、今の中国共産党の在り方に疑問も持っている。次世代とのより良い関係構築にも注力すべき。
Q3.敵基地攻撃は真珠湾の二の舞?
日本が『敵基地攻撃能力』によって先制攻撃することになれば中国の攻撃に正当性を与え、国際世論、米国の世論は日本への軍事協力に反対する可能性が極めて高い。付け入る隙を与えない法整備と防衛力の整備は必要。同時に外交力の強化と徹底的な平和貢献によって、『攻められにくい国』を目指すべき。
Q4.防衛費を増やせば中国に勝てる?
中国の軍事力の拡大によって、中国の海上・航空戦力が圧倒的優勢になる中、防衛費を今後5年間に43兆円まで増額しても単独で対応できる防衛力に到達することはもはや不可能。口だけ勇ましい政治家が何を言ったところで軍拡競争は不毛。軍事力対決に勝てる見込みはない。地上戦になればさらに多くの犠牲を払うことになる。
安全保障上、日本が取るべき戦略
攻めることが損だと思わせる戦略の追及
日本の対中劣勢が固定化した戦略環境において、もっとも有効な戦略は、「作戦遂行能力を拒否」することを目的とする拒否戦略(denial strategy)である 仮に戦力差が顕著であったとしても、現状変更を企図する相手に攻めることは損だと思わせる戦略が現実的。
敵基地攻撃は真珠湾の二の舞になる
相手が攻撃に『着手した』と見なし、日本が『敵基地攻撃能力』によって先制攻撃することになれば真珠湾の二の舞になる。しかし、着手したかどうか判断する情報は米軍に依存。相手の攻撃に正当性を与え、国際世論、米国の世論は日本への軍事協力に反対する可能性が極めて高い。敵国条項(国連憲章第53条、77条及び107条の通称)は死文化されているとされるが、中国、ロシアの反対で削除されていない。付け入る隙を与えない法整備と防衛力の整備は必要。尖閣諸島などでの偶発的な衝突が戦争につながる可能性は徹底してなくしていくべき。
中国海警の第2海軍化と偶発的な戦争を避けるための法整備
2021年2月施行の中国の海警法第22条では、軍艦、公船、民間船を問わず外国船によって中国の主権や管轄権が侵害されている場合には、海警局はそれらの不法行為を排除し、危険を除去するために必要な
武器使用を含む全ての措置を執ることができると規定。
海上保安庁だけでは秩序を維持することができないと認められる事態に限り、閣議決定を得て海上警備行動か治安出動を閣議決定して自衛隊に対処させることは可能。
警察権限と防衛権限のあいまいな境界線
領域警備の責任は海上保安庁が負う。海上保安庁25条は軍事的任務に就くことを禁止。警察権限では、外国の軍艦や公船に対する武器使用は不可能。国家主体(軍隊など)に対してはどこまでが警察権限で、どこからが防衛権限なのか現状では不明確。自衛隊が国家主体に警察権で対応する選択は可能。(自衛隊法82条の海上警備行動)海上保安庁と海上自衛隊、さらに米軍との役割の明確化が必要。
岸田首相は有事の際の日米の指揮命令権統合を否定(2023年1月)
「自衛隊による全ての活動は、米軍との共同対処を含め、我が国の主体的な判断の下、憲法、国内法令等に従って行われるものであり、自衛隊及び米軍は各々独立した指揮系統に従って行動している」と述べ、有事の際の日米の指揮命令権の統合を否定。日米防衛協力のための指針においても、『自衛隊及び米軍は、緊密に協力し及び調整しつつ、各々の指揮系統を通じて行動する』こととしている」と回答。
軍事行動の際に起こり得る米軍の対応
米軍は衛星やレーダー、情報機関などからのデータや情報をAIを使って統合解析し、陸、海、空軍、海兵隊が情報を共有して作戦や指揮に活用する方向にシステム転換中。有事になると日本が組み込まれることは確実。
そもそも、日本有事の際の指揮権は密約によって米国が担保
1952年7月23日、マーク・クラーク陸軍大将と吉田茂首相『日本有事の際には自衛隊は米軍の指揮下に入る』との密約。(指揮権密約)吉田茂首相は「日本国民に与える政治的衝撃を考えると当分の間は秘密にすべき」との考え。クラーク陸軍大将と、マーフィー駐日大使も合意。未だに公開されていない。
軍隊の指揮権をあらかじめ他国が持っているのであれば主権がないことを認めているのと同じ。政府は公表できない!裁判権放棄密約と身柄引き渡し密約、基地権密約など、すでに米国側は公文書として公開しているが、日本政府はこれまで虚偽の答弁をしてきたことを明らかにして問題解決すべき。
日米の、事実に基づく信頼構築が同盟を強化する
日米の平和協力は日本の平和、地域の平和を守るために重要。平等な協定に近づける努力を政治が果たすべき。日米の本当の信頼構築のためにはおかしいことは明らかにする、正常化していくことが必要。
朝鮮戦争の混乱の中でできた違法な条約や協定は見直して、時代に合ったものに変えていくことが必要。日本政府には解決不可能。米国の連邦議員の認識を高め、共同で解決に向けて動く議員外交に力を入れるべき。
日本国民が事実を知らないことは日米同盟の弱さにつながる。日米同盟を強化するには、政治がこの問題から目をそむけず、矛盾を解決する必要がある。
日本は徹底的な平和貢献を基盤にした外交力の強化によって、『攻められにくい国』『攻めてはいけない国』を目指すべき。日本の強みを活かせる貢献として、特に平和構築と民主化支援、紛争仲介外交に力を入れるべき。同様の緩衝国家でもある平和国家(北欧諸国、東南アジア諸国等)に呼びかけ、平和に向けて行動するリーダー国として『平和版NATO(軍事ではなく平和のために協力する多国間連盟)』を創設する努力をすべき。
平和外交に向けての阪口の実践と提言
1.北朝鮮において拉致被害者を含む全ての日本国籍保有者を人道的措置として帰国させる議員外交の成果と課題
2.選挙の正当性が問題だったカンボジアにおける『信頼できる』選挙人登録のための電子化提案と実現
3.カンボジアで実現した自由で公正な選挙制度改革の輸出の可能性
4.『オシムの言葉』から学ぶ紛争仲介外交の本質
拉致問題の解決の糸口としての日本国籍者の人権問題
1959年に始まった北朝鮮への帰国事業の検証が必要。
日朝赤十字の事業に日本政府も協力。約60万人の在日コリアンのうち93,440人が帰還。日本人妻1,931人を含む日本国籍保有者6,679人が帰還。
北朝鮮では、帰国した人は北朝鮮人であり、国内問題との立場。しかし、日本の国籍法11条では、「自己の志望によって外国国籍を取得した時は日本の国籍を失う」「北朝鮮に帰った、北朝鮮の人と結婚しただけで失うことにはならない。国籍法13条では「外国の国籍を有する者は法務大臣に届けることで日本の国籍を離脱することができる」したがって、北朝鮮への帰国者は未だに日本国籍を保持。
法務省は帰還者93000人のリストは保持
動揺階層、または徹底的な監視対象である敵対階層に分類されて苦難の生活。安倍晋三官房長官(当時)は拉致問題に集中しないと目的が達成できないと国会答弁(2006年1月27日)し、帰国事業で北朝鮮にいる日本人は軽視。
中国は1997年には刑法を改正し、刑法8条国境管理妨害罪を新設。中国内の
脱北者を手助けする自国民を5年以下の有期懲役に処することを決定。『脱北』はますます困難となった。
アントニオ猪木参議院議員との議員外交
拉致問題については金正日第一書記の報告(被害者全員死亡)を覆すのは困難であり、拉致被害者を返せと言うばかりでは一向に解決につながらない。多くはまだ生存との考えに立ち、アントニオ猪木議員と訪朝し、姜錫柱副首相(党内序列3位)などと会談を通し、現実的対応の可能性について議論。帰国を望む全ての日本人を対象とするとして、人道的対応として日本国籍保有者の帰国を認め、『拉致被害者を潜り込ませる』可能性について調査。世界屈指の埋蔵量と質を誇る北朝鮮のレアアースなどの資源開発への投資や技術供与により、北朝鮮に対して日本人、さらに自国民に対しても人道的対応を求めることで、日本人帰国問題と拉致問題をセットで解決する方法を提案。国会でも再三質問(安倍政権は黙殺。北朝鮮渡航自体を批判する世論を喚起)
カンボジアの平和構築と民主化支援
1992年3月~1993年9月 国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)が展開。国連史上唯一、国連が一国の暫定的な統治を行い、治安維持、難民の帰還、地雷除去、行政、警察の指導を行い憲法制定議会選挙を実施。
1997年、第2党となり、フンシンペック党と連立を組んだカンボジア人民党が軍事クーデターで政権転覆。国民は強権政治や腐敗に不満。2013年の国民議会選挙は与党人民党が68議席対55議席で野党救国党に勝利。有権者登録の不正があったとして国民の不満が爆発。
UNTACの一員として阪口自身が有権者登録を行い二重登録などが生じやすいことを実感。衆議院議員として日本、カンボジア政府に有権者登録の電子化を提言。不正が起こりにくい選挙制度への改革を実現。日本は特にカンボジア国民IDを選挙管理委員会のホストコンピューターに連結させ、二重登録などの不正が起こらないシステムを構築。植野篤志国際協力局長(現在カンボジア大使)の国会答弁によれば、このシステム導入は僅か2億円で実現。
2013年と、有権者登録の電子化(2017年)によってより正確な登録が可能になった後の2018年を比較すると、人口が1468万人から1603万人に約135万人増加した一方で、有権者は968万人から838万人に130万人減少。過去の選挙において大きな問題とされた二重登録が大きく減少。(2023年国民議会選挙の有権者数は971万人。5年前から133万人増加)
投票の権利の可視化が可能になり、現場の混乱が解消。今後は選挙の正当性が疑われる国への制度の輸出可能性を探るべき。
紛争仲介外交におけるイビチャ・オシム元サッカーユーゴスラビア代表監督の提言
サラエボ出身。内戦中のユーゴスラビア代表監督として民族主義者に脅迫されながらもフェアな選手起用を貫く。「サラエボの魅力は各民族が共存する多様性。ユーゴスラビアのサッカーの魅力も同じ。多種多様な個性のそれぞれの強みを見つけ、磨き上げ、一体にすることが監督の仕事」と語る。
対立関係にあったセルビア、クロアチア、ムスリムのサッカー協会をボスニア・ヘルツェゴビナサッカー協会として統一。W杯予選に出場する資格を得て、2014年、ボスニアを初めてW杯出場に導く。
紛争仲介外交は大きな平和貢献であり、日本にとっても課題。紛争と和解、紛争仲介における重要事項などをかつての勤務地サラエボでインタビュー(2017年12月28日)
紛争解決のための仲介や、平和構築など平和に寄与することを目指す日本にとってできる限り中立と思われることが不可欠。アメリカ追従になり過ぎるとその可能性を放棄することになるとのこと。同席した夫人によるとオシム氏が仲介者として信頼され、サッカー連盟の統一に寄与できたのは監督時代から中立を貫いたからとのこと。オシム氏は「仲介者は多様性の価値を認め、紛争の相手も同じ人間としてリスペクトして接することが重要」と提言。