「熱闘」のあとでひといき

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関東学院大学 vs 拓殖大学(2012.09.29)の感想

2012-09-30 09:59:33 | 関東大学ラグビー・リーグ戦
[キックオフ前の雑感]

開幕2連敗と関東学院が苦しんでいる。緒戦は日大に7-43と思わぬ大敗を喫し、続く法政戦も12-29でいいところなく敗れた。今後の対戦相手のことを考えれば、この試合の相手となる拓大には負けられないはず。上位グループキープが絶望的となり、入替戦も現実味を帯びてくるから。しかしながら、今シーズンの関東学院の戦法を観ると、そういった現実は(表面上は)あまり意識していないように見える。緒戦の日大戦はキックどころかオープン展開をも封印してFW周辺の狭い地域での継続に拘った感があり、1、2年生を多く含む選手起用も含めて、勝利の追求を最優先にした戦いには見えなかった。

第2戦の法政戦では復帰組(?)を含むなどメンバーを大幅に入れ替えてファンを驚かせたが、今回はさらにメンバーやポジションの入れ替わりがある。このように、過去の関東学院からは考えられないような戦いが続く中で、ひとつ思ったことがある。選手個々の力が一番落ちている現状を直視し、あえて将来を見据えたチームの再構築・基盤づくりを首脳陣は試みているのではないだろうかということ。もちろん「勝利を目指すことを第一としない」とは口が裂けても言えないが、そんなショック療法のようなチーム改造への決意があるように見える。もしかしたら、この試合で毎試合事に選手起用が変わる理由が分かるかも知れない。ここがこの試合の関東学院に対する私的見どころだ。

一方の拓大は緒戦で大東大に圧勝したことで勢いに乗っている。というよりも、春シーズンからの取り組みの成果が形になって見えた戦いだったと言った方が正しいかも知れない。過去のイメージ(オープン展開への強い拘り、そして得点は高速ランナーの個人能力に託す)を払拭してしまうくらいにモデルチェンジした拓大だが、ブレなく新たな戦術に磨きをかけている。FWでボールを確実に前に運んでから機を見てオープンに展開する戦術を徹底させることで、自分たちよりも身体が大きくパワフルな相手に対抗しようとする戦法は拓大ならではの発想なのかも知れない。ただし、この戦術が成立するのも、FWにLOヘル、BKにSOステイリンといった核になる選手達が居るから。ただ、拓大は彼らに依存するラグビーは指向していない。一体感のあるいいチームが出来ていると思う。

スタメンに関しては上で触れたように、関東学院は大幅な入替、かつ大胆なポジション変更。元来、有望新人を登用して中核選手へと育て上げるのが関東学院方式だったが、それは会社に例えれば業績のいい大企業だからできること。現在は、何とかチームを活性化できる人材を探しているように目に映る。一方の拓大はリザーブも含めてまったく同じメンバーがスタメンに顔を並べる。このあたりにもチーム作りがうまくいっていることが伺われる。拓大に対する見どころは、いかにして関東学院からの勝利をもぎ取るかだ。

[前半の闘い]

台風の間接的な影響か、真夏を思わせる強い日差しのもと、関東学院のキックオフで試合開始。拓大の蹴り返しに対して関東学院がカウンターアタックを仕掛けるが、本日は迷わずオープン展開でWTBまでボールが回る。緒戦を観たものとしては、まったく別なチームを観ている感がある。ただし、特別なことはやらずにシンプルにオープンに回すだけで、ゲインラインは越えない位置でタックルに遭う。ここで、関東学院がオフサイド。メンバー&ポジションの変更があったせいか、ピッチに登場した関東学院の面々にはどこか自信なさそうな印象を受けたが、それが現実になった感じ。回しても抜けそうな感じがしないし、ブレイクダウンでは関東学院の選手がことごとく反則で最終的にこの日のペナルティは18を数えた。反則数が10を越えることは滅多になかったチームとは明らかに違うし、ここが関東学院の現状の力なのだろう。この日の関東学院を象徴する1シーンではあった。

拓大は、関東学院陣の10mラインを越える位置付近からのPKのチャンスでゴール前でのラインアウトを選択。拓大はモールを作って前進を図るが、モールを押し切る前に塊から飛び出したLOヘルが左サイドを抜けて(拍子抜けするくらいに)あっさりとゴールラインを越えた。GKは失敗するが5-0で拓大が先制。関東学院の選手達の間には動揺が拡がる。一番警戒していた相手のトライパターンによる失点で、しかも殆ど抵抗できずに取られてしまったから。正直、この段階ではこの試合で拓大は何点取るのだろうかと畏れを感じてしまったくらい。

リスタートのキックオフでは関東学院はターンオーバーに成功しながらも、オープン展開でまたしても捕まり反則を犯してチャンスを潰す。9分には、関東学院はスクラムから失点。拓大は8→9からパスを受けたFB山本が大きくゲインし、再びボールがSH岩谷に戻ったところで岩谷がギャップを突いて右中間にトライ。鮮やかな連携プレーとはいえ関東学院のディフェンスは対応できていない。今度はCTB山村のGKが成功し12-0となる。関東学院は本当にこのメンバーで大丈夫なのかと思わせる立ち上がりの拓大の鮮やかな1、2パンチだった。というか、たいした抵抗もなく取れたしまったことに驚いたのは拓大の方だったかも知れない。

今シーズンの拓大は関東学院同様に当初から苦しい戦いを強いられることが予想された。そんな危機感もあってか、プレーに工夫を加え、精度を上げていくことに心血を注いだようだ。例えばキックオフ。相手ボールの時はレシーバーが高くジャンプしてボールをキャッチし味方のサポートで確実にモールを組む。また、マイボールの時はFWの一人が落下点に素速く走り込んでボール獲得を試みる。ここでキーマンになっていたのがFL6の森。176cmと上背こそないが高いジャンプ力とガッツでボール奪取に成功した場面ではスタンドから大きな拍手が起こる。スクラムもプレッシャーをかけられることを想定してNo.8が股の下からSHにボールをアメフトスタイルで確実に渡す。けしてトリッキーなプレーではない。未だに漫然と同じ事を繰り返して失敗している上位校も、こういう姿勢は学ぶべきだろう。

話をピッチ上に戻す。なかなか目が覚めない(ように見える)関東学院を尻目に、拓大は畳みかける。13分、山村が正面25mのPGを決めてリードを13点に拡げる。しかし、ここで拓大にやや隙が出来たのか、関東学院の反撃を許す。16分、関東学院は拓大陣22m内でのラインアウトからモールを形成して押し込み前進したところでSH井上がショートサイドを駆け抜けてゴールラインを越えた。この日はSHではなくSOで起用された高城のGKも成功し関東学院が7点を返す。ここで関東学院にようやく落ち着きが出てきた。経験が豊富とは言えないメンバー構成ながら、試合中でもチーム状態を自分たちで修正できるDNAはしっかり受け継がれているようだ。

21分に拓大が関東学院ゴール前で得たPKのチャンスを活かしてFWが攻めてヘルがボールをインゴールにねじ込んで拓大が18-7とリードを拡げたところから試合は膠着状態となる。関東学院は徹底してオープン展開で攻めるのに対し、拓大はFWの周辺で手堅くボールを前に運ぶ。SOステイリンが安定していてキープ力があるため有効に機能しているが、大松が欠場していることもあり、ランで決めることができる選手はFB山本のみという現状では致し方ない。FWで纏まればヘルで確実に取れる形を作っているのも強み。

関東がオープン展開が接点でことごとく反則で途絶えて拓大にチャンスを与えるが、拓大もゴールを目前にしながらも攻めきれないなかでそのまま前半が終了。拓大が優位にあることは間違いないのだが、後半の体力勝負を挑めるだけのフィットネスがある関東学院にも挽回のチャンスはあるかも知れない。当初の危惧は薄れ、そんなことを想わせる前半の戦いだった。

[後半の闘い]

後半に逆転の望みを繋ぐ関東学院。キックオフ直後の相手のペナルティをきっかけに得たチャンスを活かし、拓大ゴール前で攻勢に出る。ラインアウトからモールを組んでゴールを目指すが、なかなか押し切れない。拓大のモールディフェンスの粘り勝ちとも言えそうだが、関東学院の塊でのパワー不足を感じずには居られない。8分にはHWL付近での拓大ラインアウトのボールが後ろに流れるところでいったんは関東学院がボールの確保に成功するが、こぼれ球でFB山本に拾われてそのまま被弾。GKも成功し、拓大が25-7とリードをさらに拡げる。

リスタートのキックオフで拓大に反則があり、関東学院は再び拓大陣ゴール前でラインアウトのチャンスを得る。しかしここもモールを押し切れない。さらにラインアウトのチャンスが続いたところで遂にBK選手も参加した12人モールとなるがこれも押し切れない。こういったプレーは(成功しないことも含めて)流経大の専売特許だったはずだったが...。そんな関東学院を尻目に拓大は自分たちの形で決める。15分、関東学院ゴール前でのラインアウトからモールを形成し、最後尾にはボールをガッチリ抱えたヘルが張り付く盤石の体制。モールを押し込んだところでヘルが隊列を離れて左隅に飛び込んだ。もちろん、決めたのはヘルだが、彼をモールの核にしないで確実に押し込んだ他のメンバーを褒めるべきだろう。

以前の拓大は、BKに高速ランナー達を揃え、彼らの卓越した能力といい意味での強引さで勝負していたチームだった。填まれば大量得点勝ちがある半面、集中力を欠いたとした思えないポカミスも多く、勝てる試合を落とすことも多かったチーム。しかし、今年のチームは違う。派手な飛び道具に頼ることはしないで、確実、堅実にプレーする形を作り上げている。たった1年でここまで変われることは驚き。適切なコーチングもさることながら、拓大より個々の高い選手を揃えたチームにも見倣って欲しいところだ。

後半半ばにして拓大が30-7とリード。ここで勝負ありと言いたかった。ところが、ここから新たなドラマが始まる。関東学院の大逆襲だ。拓大のラグビーは堅実だが一発で取るスタイルでないだけに、消耗も大きいはず。拓大の選手達の足が止まり始めたところで、関東学院のオープン展開を主体としたランニングラグビーが機能し始める。20分、ラックでのターンオーバーからの連続攻撃で左WTB高橋がゴール左にトライ。少し角度のある位置だったがSO高城が確実にGKを決めて14-30となる。関東学院に勢いが出てくる中で、30分には待望の!でもないが、12人ラインアウトからのトライが生まれる。グラウンディングしたのは何とWTBの佐々木だ。GK決まり21-30と拓大のお尻に火が付いてきた。しかし、ここで拓大を救ったのが自分たちで練り上げたプレー。マイボールキックオフのボールを関東学院陣内で捕獲に成功し連続攻撃で最後はヘルが決めた。GK成功で37-21と再び拓大が関東学院を突き放す。

このまま引き下がれない関東学院は最後の粘りを見せる。インジュリータイムに入る前の40分、拓大陣ゴール前でのラインアウトのチャンスからモールを押し込みトライ。ここでも、決めたのもWTB高橋だった。得点記録を見ただけだったら、関東学院らしいオープン展開で両WTBが3トライと誰もが思うことだろう。しかし、形は全然違うが2つは15人で取ったトライと言えなくもない。GKが決まって28-37となり、そのままノーサイドとなった。

関東学院にとってはあとがなくなった3連敗目となってしまったが、光明が見えた試合でもあったとも感じられた。ピッチ上から引き上げてくる選手達の表情は、キックオフ前に自信なさそうな表情からは一変していた。大学チームの強みかも知れないが、チームは1週間で変わる。そして時として試合中にも実戦を通じて成長を遂げることができる。もちろん、そこには厳しく適切なトレーニングの裏付けが必要なわけだが。少なくとも、試合後の関東学院は試合前の関東学院ではなくなっていた。悔しさもあると思うが、確かな手応えを掴んだかのような選手達の表情を見て、ある種の安堵感を持つことができた。

[試合後の雑感]

今シーズンの拓大はとてもよいチームに仕上がっている。過去のことはひとまず忘れて、新たなチームコンセプトのもと、地道にプレーを練り上げ、それが確実にこなせるように練習している。「練習は裏切らない」という言葉を何度も思い起こさせてくれた。今後に控える強豪チームの対戦にもこの勝利は大きな弾みになったものと思う。反省点を挙げれば、関東学院に付き合う形で増えていった反則の多さ。一桁台のことが多い拓大にあって12個は珍しい。あとは、リードを拡げた中盤以降に関東学院の連続攻撃を許す形になったディフェンスの整備だろうか。いずれにせよ、2つ連続で勝ったことで入替戦脱出は現実的となり、大学選手権も視野に入ってきた。このまま慢心せずに上を目指して突き進んで欲しい。

出場メンバー(それも遅れて発表された)を見て、関東学院はどうなってしまうのかと大いなる危惧を抱かせた試合。滑り出しはまさにそんな不安が的中しそうな状況だった。しかしながら、何とか持ちこたえて光明も見える形でフィニッシュに持ち込めた。やはり、緒戦からこの試合までは、相手の戦力も考慮に入れながら将来を見据えたプログラムの一環だったということだったのかも知れない。おそらく今日の戦いでチームコンセプトもメンバー構成も固まってきたことと思う。少なくても3つの戦いで、小手先勝負を挑まなかったことの成果が得られたのではないだろうか。今後は、FWとBKの連携とBKラインのコンビネーションの整備をテーマとしてチーム作りを行っていくものと考えられる。入替戦が現実的になった状況にはあるが、どんなラグビーが完成するのか楽しみなところもでてきた。地道に積み上げてきた基礎トレーニングの成果が出るのは、むしろこれからだ。

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2 コメント

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はじめまして (カラダを張る者だけに微笑む)
2012-09-30 22:19:17
いつも本当にありがとうございます。毎週楽しみに見ています。筆者がラグビーが心から好きなんだと読む度に実感しています。
 
今年の拓殖大学ですが…例年になく順調ですよね。チームコンセプトやチームとしての武器も明確でペナルティの数も少ない。それにスクラムとモールの強さ!フロントロー3人が2年生って事に驚きますが…実はリザーブの2人も(笑)本当に凄くイイチームだと思います。

しかし、東海や流経に勝つ為にはブレイクダウンでの攻防が鍵になってくると思います。拓殖の身体のサイズで東海や流経にどれだけブレイクダウンで勝てるか?相手のディフェンスをラックから一歩でも下げるほどのオーバーをできるか?

拓殖に期待しています。




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今年の拓大は要注目ですね (worldjazz)
2012-10-01 19:32:10
カラダを張る者だけに微笑むさま

コメントありがとうございます。今シーズンの拓大のよい部分をフォローしていただき嬉しく思います。

仰るとおり、確かに現時点では東海や流経に勝つまでにはまだまだ厳しいところがありますが、どこまで通じるかもしっかり見てみたいです。

ブレイクダウンと言えば、後半に関東学院に逆襲を許したのも相手のオーバーに対応できなかったところがあったから。このあたりは相手の巧さをしっかり研究して欲しいところです。
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