昭和24年の黒澤明作品。いつもどおり三船敏郎が主演で、志村喬が脇を固める。「野良犬」と同時期に作られた映画で、手術のときに梅毒スピロヘータをうつされた医師の苦悩を描く。現代でもエイズで似たような話がある。当時花柳病とも言われた梅毒の恐ろしさとその伝染で悲しむ人が数多くいることを訴える。
時は昭和19年戦地にに軍医として送られた三船の姿が映し出される。ここで外科手術をした時に、うっかり指に傷をつくったところ、患者の大量出血から梅毒スピロヘータ菌が三船にうつされる。戦争終了後、三船は帰還して再び父志村喬の病院で普通の外科医として働くようになる。三船には三条美紀という婚約者がいた。戦地に行く前に二人は結婚を誓い合った仲である。ところが、スピロヘータ菌をもった三船は彼女と触れ合おうとしない。三船に強い愛情を持つ三条は何度もその理由を聞こうとするが。。。。。
黒澤初めての大映映画である。クレジットの俳優の名前の脇に「東宝」と書かれた俳優が多い。三船、志村ばかりでなく、千石規子や中北千枝子も同様である。基本的にはいわゆる黒澤組の俳優が軒を連ねている。しかし、同時期の作品「酔いどれ天使」や「野良犬」と比較すると少しインパクトに欠ける。
その理由としては、セット中心でしかもそのセットが稚拙ということが映画の奥行きを狭めている気がする。同時期の「野良犬」ではロケ撮影をずいぶんと行い、戦後の風景を丹念に描いていた。それ自体がムードを盛り上げる。三船が医師で、診療所のセットが中心である。他の物があまり映されない。予算もきびしかったのだろうか?美術が弱い。そこが残念である。
谷口千吉と組んだ脚本も悪いわけではない。後半にかけて千石規子の場面に脚本の凄みを感じるところもある。でも三船がいつもの絶叫系のセリフの本領を発揮している印象がない。この配役が肌に合わないのかな?と言う印象である。むしろ頑張っているのは女優陣、看護婦役の千石規子は年をとってからの意地悪ばあさん役が目に浮かぶが、ここでは三船を献身的にサポートする看護婦役。「醜聞」「酔いどれ天使」同様存在感がある役柄である。梅毒の亭主と交わりをもち懐妊した中北千枝子もうまい。正月過ぎて毎日のように「家庭教師のトライ」の宣伝で中年以降の中北千枝子の顔をみる。このころはまだ純情可憐だ。
時は昭和19年戦地にに軍医として送られた三船の姿が映し出される。ここで外科手術をした時に、うっかり指に傷をつくったところ、患者の大量出血から梅毒スピロヘータ菌が三船にうつされる。戦争終了後、三船は帰還して再び父志村喬の病院で普通の外科医として働くようになる。三船には三条美紀という婚約者がいた。戦地に行く前に二人は結婚を誓い合った仲である。ところが、スピロヘータ菌をもった三船は彼女と触れ合おうとしない。三船に強い愛情を持つ三条は何度もその理由を聞こうとするが。。。。。
黒澤初めての大映映画である。クレジットの俳優の名前の脇に「東宝」と書かれた俳優が多い。三船、志村ばかりでなく、千石規子や中北千枝子も同様である。基本的にはいわゆる黒澤組の俳優が軒を連ねている。しかし、同時期の作品「酔いどれ天使」や「野良犬」と比較すると少しインパクトに欠ける。
その理由としては、セット中心でしかもそのセットが稚拙ということが映画の奥行きを狭めている気がする。同時期の「野良犬」ではロケ撮影をずいぶんと行い、戦後の風景を丹念に描いていた。それ自体がムードを盛り上げる。三船が医師で、診療所のセットが中心である。他の物があまり映されない。予算もきびしかったのだろうか?美術が弱い。そこが残念である。
谷口千吉と組んだ脚本も悪いわけではない。後半にかけて千石規子の場面に脚本の凄みを感じるところもある。でも三船がいつもの絶叫系のセリフの本領を発揮している印象がない。この配役が肌に合わないのかな?と言う印象である。むしろ頑張っているのは女優陣、看護婦役の千石規子は年をとってからの意地悪ばあさん役が目に浮かぶが、ここでは三船を献身的にサポートする看護婦役。「醜聞」「酔いどれ天使」同様存在感がある役柄である。梅毒の亭主と交わりをもち懐妊した中北千枝子もうまい。正月過ぎて毎日のように「家庭教師のトライ」の宣伝で中年以降の中北千枝子の顔をみる。このころはまだ純情可憐だ。
私もそうでした。
いろいろ考えた末に、この三船の本当のことを言えない苦悩と言うのは、戦時中に徴兵も徴用もされなかったが、それは自分の本心ではないという黒澤明の贖罪意識ではないかと思うようになりました。詳しくは、『黒澤明の十字架』指田文夫(現代企画室)に書きましたので、ご意見をいただければ誠に幸いです。
因みに谷口千吉は何も書いていないそうで、戦場のことを谷口に聞いた程度のことだそうです。
東宝には、戦前から航空教育資料製作所という秘密スタジオがあり、そこで真珠湾攻撃法などの軍事マニュアル映画を作っていた「軍需企業」で、黒澤の徴兵延期もできたのです。
このスタジオが戦後、新東宝になるのですが、それも拙書に書いてありますので、どうぞよろしく。
>この三船の本当のことを言えない苦悩と言うのは、戦時中に徴兵も徴用もされなかったが、それは自分の本心ではないという黒澤明の贖罪意識ではないかと思うようになりました。
このあたりはなんとも言えないところですね。自分の感覚からすると、ビックリする部分でありますが、戦争を経験した人たちの贖罪意識というのはじっくり考えてみたいものです。
>詳しくは、『黒澤明の十字架』指田文夫(現代企画室)に書きましたので、ご意見をいただければ誠に幸いです。
一度読ませていただきます。
>因みに谷口千吉は何も書いていないそうで、戦場のことを谷口に聞いた程度のことだそうです。
それは知りませんでした。
自分の手元にある草柳大蔵著「新々実力者の条件」という1972年初版の本があります。そこで黒澤明について書かれています。その中で2年先輩である谷口千吉との親しい間柄について書いてあり、特に共同で脚本を書くときにお互いのいいとこどりをしながら、脚本をつくっていく手法のことが書いてありました。谷口の名前がクレジットにあったのでてっきりさっきの手法で2人で書いたのかと思っていたという次第です。
またご指導願います。
『暁の脱走』も黒澤の脚本ですが、これは田村泰次郎の原作をかなり変更しています。その意味では鈴木清順の『春婦伝』の方が原作に忠実です。
『暁の脱走』では、池部良は手榴弾で自殺を図りますが不発で死ねず、山口淑子と脱走して小沢栄太郎に射殺されます。これは黒澤明の自己処罰意識だと考えて良いと思いますが、詳しくは拙書をお読みください。
「谷口」という名で有名な建築家というと、谷口吉郎を思い浮かべますが、年齢的には違うようですね。息子の谷口吉生も現役超一流ですが、もう少し若いですしね。いいところの出なので女性関係も若い頃は派手だっだのでしょうか。
雪山のサスペンスものは大好きなので、三船敏郎のデビュー作谷口監督黒澤脚本の「銀嶺の果て」は楽しくみれました。雪山のロケが中心で、雪崩のシーンにはこちらの方がドキドキしました。
自分がお世話になった方で、登山ツアーの経営者がいて、谷口千吉八千草薫夫妻のうわさはよく聞きました。山が大好きな仲のいいご夫婦だったようですね。八千草薫と山って相性がいいようには思えないのですが、谷口の影響が強いんでしょうね。
『暁の脱走』も好きな作品です。池部良とは相性がいいかもしれません。
またよろしくお願いします。
谷口は、非常に女性にもてて、水木洋子、若山セツ子とも結婚、離婚しています。谷口は、こういう言い方が正しいかどうかですが、いわゆる「男らしい人」だったようです。
晩年は、撮影中でも麻雀をしたくて、いつも撮影を早めに切り上げるような状態だったそうです。
『暁の脱走』の原作田村泰次郎の『春婦伝』での女性主人公は、朝鮮人娼婦なのですが、これは鈴木清順監督作品でも日本人に変更しています。さすがの清順もそこまでは描けなかったのだと思います。
貴重な情報ありがとうございます。他にもすごい作品残しているんでしょうね。戦前のエリートは富も得られたでしょうから、お坊ちゃん育ちというのは理解できます。
>谷口は、非常に女性にもてて、水木洋子、若山セツ子とも結婚、離婚しています。
本八幡の市川市役所の裏手に「社長通り」という邸宅街があって、その中に水木洋子の家があります。市川市に寄付してしまったみたいですね。永井荷風も晩年はその近くで暮らしていたし、住みやすかったんでしょう。
「浮雲」「山の音」の成瀬巳喜男作品をはじめとして、彼女が書いた脚本は有名作品ばかりですね。究極の腐れ縁映画「浮雲」を書けるなんて、それなりの恋の浮名も流されていたんでしょう。逆に彼女をつかまえた谷口のモテぶりも理解できます。
>『暁の脱走』の原作田村泰次郎の『春婦伝』での女性主人公は、朝鮮人娼婦なのですが、これは鈴木清順監督作品でも日本人に変更しています。さすがの清順もそこまでは描けなかったのだと思います。
これもまた勉強になります。もう一度見てみたくなりました。どうもありがとうございます。