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映画「暁の脱走」 池部良&山口淑子

2015-08-15 05:03:59 | 映画(日本 黒澤明)
映画「暁の脱走」を名画座で見た。


田村泰次郎の小説「春婦伝」を元に黒澤明と谷口千吉が共同で脚本をつくり、谷口千吉がメガホンをとった1950年(昭和25年)の作品だ。まだ占領下で米軍の検閲をうけていたこともあるが、原作とは登場人物の設定がずいぶんと変わっているようだ。最前線で敵と交戦しているうちに、中国軍の捕虜になってしまった兵士と軍慰問団の女が、再度日本軍に戻るけど重罪をかぶせられ、逃亡するという話。日本軍の内部での暴力をあからさまに描いた映画である。

軍隊の行列の中に1人の兵隊と女性が一緒に引っ張られている。彼らは中国軍に捕虜にされたのだ。
男は取り調べを受けこれまでの話を回顧する。
慰問団の帰りを送るトラックは途中敵襲にあい引返した。そのとき三上上等兵(池部良)は警乗した射手だった。慰問団はそのまま足止めされ、部隊の酒保に宿泊して手伝いをすることになった。副官成田中尉(小沢栄)は慰問団の春美(山口淑子)に目をつけ、その階級と権力にものいわせ、春美をわがものにしようとしていた。春美は副官を毛嫌いし三上に愛情をもつ。そのはげしい恋情に三上も心がうごき、ある夜酒保の裏で、二人ははじめて結ばれる。
それを巡察将校に見とがめられ、営倉送りときまった。ちょうどその夜敵襲があり、射手不足から、三上は軍備につく。春美は、身の危険を考えず、防戦する三上の姿を追う。三上は城外で敵弾にたおれ負傷、戦友は彼をおいて後退した。春美は「三上!」と叫びながら、傍にぴったりとついて、彼と共に死のうとした。三上の帯剣を手に握り春美が自刄しようとしたとき、二人は中国兵に囲まれていた。


三上が意識を取もどしたのは中国軍の陣営であった。
軍医や将校は彼をやさしく扱った。中国将校が理解ある対応をしてくれたので、中国語が話せる春美は再び日本軍陣地へは帰りたくないと思う。しかし、三上の軍に戻ろうとする気持は変らず傷の全快を待たず、三上は帰される。三上は「自分は投降したのではない、傷ついて意識不明だったのだ。」と主張することで、中隊長も副官も判ってくれるだろうと思ったがそうではなかった。。。。

理不尽な話だ。
忠実に勤務していたのに、ケガをしていったん敵軍陣地にいったばかりに罪人扱いだ。
逆に中国軍の方が捕虜の扱いについてまともだったといえる。

1.池部良
戦前に東宝に入社した時は脚本家希望であったが、俳優になってしまう。それでも徴兵を受けたあと、幹部に登用され中尉まで昇進したという。昭和30年代以降の池部良しか知らない人がこの映画をみると、若干イメージが違うと思うであろう。ともかく線が細い。栄養が行き届いていない時期とはいえ、さすがの男前も10年後に比べると貧弱に見えてくる。


捕虜として中国の八路軍(共産党)に捕えられる。負傷して入った病院では中国人に看護を受けるが、戦前の教育では敵に捕らわれるくらいなら死んだほうがましだと池部上等兵はいう。捕虜の扱いを扱うジュネーブ条約なんてものは知るはずもない。中国人は逆にもしこのまま日本軍に戻るならば罰を受けるはずだというがその話は聞かず、戻ろうとする。

もし戦況を冷静に分析できる地位にいるならば、そのまま中国の捕虜として残る選択もあるだろう。この時の池部上等兵の立場ならば、天皇という「神」がついている皇軍が負けるわけがないと信じているので、日本軍が相手を撃破した後はもっとひどい目にあってしまうと思ってしまう。つらいところだ。

何せ「一億総玉砕」なんて話まであった日本である。今となれば、何をばかなことをと思っても、当時の時代の流れには逆らえないのである。

2.山口淑子
日本人でありながら、戦前は李香蘭として中国人女優であったことはあまりにも有名。戦後まだ5年しかたっていない。戦勝国から中国人のふりをしていたと処罰されてもおかしくないのに、戦後の混乱をうまく避けて日本にこれたのは運がいいとしか言いようにない。途中、中国語で会話をする場面がある。当たり前だが、かなり流暢だ。でも一部の会話以外は字幕が出ない。何でかな?

ここでは兵士の慰問団に所属する女性の一人である。この慰問団は従軍慰安婦とは違うというセリフがある。それでも、いったい私たちは何のためここにいるのと彼女たちが自問する場面もある。


この映画では山口淑子ふんする春美は池部良ふんする上等兵にぞっこんになってしまう。盛りのついた動物のようで、目つきが違う。もちろん演技だと思うが、男前の池部良が相手だと思わず大胆になってしまう気持ちはわかる。むしゃぶりつくような接吻だ。黒澤明監督「醜聞 スキャンダル」ではこんな表情はみせない。このエロっぷりは、なかなか貴重な映像である。
昭和25年「また逢う日まで」では、岡田英次と久我美子のガラス越しのキスで大騒ぎになったといわれる。同じ年だったんだけど、池部良と山口淑子のキスはどう評価されたんだろう。
昭和26年に山口がイサムノグチと結婚する前の年である。

3.小沢栄
池部良の上司の副官という役である。山口淑子演じる春美がお気に入りで、部屋に呼び寄せ自分のものにしようとするが、なかなかいうことをきかない。一方で春美は部下の池部良にはぞっこんである。むかついた副官はサディストのように理不尽ないじめをはじめる。

昭和20年代から30年代までこの人ほど、幅広く映画に出演している人はいないだろう。憎たらしい悪役を演じると天下一品のうまさである。ラストに向けての機関銃を乱射する場面を見て、香川照之「るろうに剣心」で同じように機関銃を撃ちまくるシーンを思わず連想した。

同じような役を今だったらできる俳優って誰かな?竹中直人とか香川照之かな?エロなムードが強いほうが似合うので竹中なんだろうなあ。

4.最後の場面に思うこと(ネタバレ注意)
軍曹の黙認もあり、2人は中国人たちと一緒にその場を逃走できるようになる。


しかし、2人のことを絶対許さないという副官は、機関銃で逃げる2人を撃ちまくる。そして映画が終わりに向かい、最後に2人の病死を記述した証明書が発行される場面が映る。証明書には昭和20年8月9日という日付が書いてある。日付を見てこれは無情だなあと思ってしまう。あと6日そのままにしていれば、生き延びれたのにという意味合いをこめただろう。

結果を知っている我々はあともう少し我慢すれば終戦と思うけど、その場にいる兵士と女は未来のことはわからない。
追い詰められている。むなしいなあ。

原作では2人は手榴弾で一緒に自殺するだけなのが、ここでは将校によって機関銃で銃撃されてしまう。
まさしく日本軍部の悪さを弾劾する面が強調されていると言える。
「暁の脱走」は戦争のなかでは人間がサディストになり、強者は弱者に対して、ほとんど、暴力をふるうことそれ自体を喜ぶようになることを描いている。(黒澤明の世界 佐藤忠男より引用)
ほとんどイジメと一緒だね。

(参考作品)
暁の脱走
山口淑子のよろめき

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