「クイーンズ・ギャンビット」 は2020年配信のNetflixシリーズもの
これはおもしろい!
何気なくNetflixのチャンネルからピックアップして、本来シリーズものは見ない自分だけどハマってしまった。2日間で6話をみて翌日最終話をじっくりみた。孤児院で育った自閉症的な気質をもつ女の子ベスがチェスに魅せられる。天才的なひらめきで気がつくと州の大会に勝ってしまい、より上の世界に挑むという話だ。
ともかく主人公であるアニャ・テイラー=ジョイ演じる女性チェスプレイヤーのベスに魅かれる。前髪を短くしたお茶目な顔は「アメリ」のオドレイ・トドゥのようで、対局でギョロと相手を見るときの目は安室奈美恵を連想する。ともかく応援してあげたい気持ちになれる女の子だ。そしてシリーズを通じて、スポーツ根性モノのような高揚感と天才をみる楽しさに満ちている。
1961年の ポール・ニューマン主演「ハスラー」の作者ウォルター・テヴィスが書いた原作があるということを見終わったときにはじめて知った。そうか!思わずうなった。ビリヤードとチェスと扱うモノはちがうにせよ、勝負事では共通。
ポールニューマン演じる腕自慢のビリヤードプレイヤーが強敵ミネソタ・ファッツと対決して敗れ、挫折し転落しているときに謎の女や怪優ジョージ・スコット演じる得体の知れないギャンブラーに会い復活の糸口を掴むという話だ。映画「ハスラー」はあらゆる面で傑作といえる。登場人物の性別が逆になったりするが、物語の構造としてはある意味「クイーンズ・ギャンビット」 に類似している気がする。
母の自動車事故の巻き沿いになって死に損なった8歳のベスはメスーエン養護施設に入れられた。ベスは教室の黒板消しをたたきにふと入った地下室で用務員シャイベルが遊んでいるチェス盤に目を惹かれる。思わず関心を持ち、シャイベルに駒の動かし方を聞くが教えてくれない。ところが、自力で駒の動かし方を覚えてしまい対決を挑む。当然負ける。
養護施設では精神の安定をはかるために緑色の薬が与えられていた。昼間に飲むと吐いてしまいそうな味だったが、黒人の友人から夜に飲みなよといわれ飲んでみる。すると頭が冴え、駒の置いてあるチェス盤が天井に浮かび上がり頭がオートマティックに操作してしまう。
やがてシャイベルにも勝てるようになる。毎日のように地下室に行き序盤の定跡を教わる。そして腕をあげて、シャイベルのチェス仲間ガンツを紹介される。そこでも勝ってしまったベスはチェス仲間の勤務する高校で10人の男子高校生とチェス盤で多面対局する。それでも楽々勝ってしまう。ただ、頭が冴えるのは緑の薬を飲むときだけである。その薬の隠し場所を見つけるが大量摂取で倒れてしまう。施設長からチェスは禁止された。
やがて、養子をとりに養護施設にやってくるある夫婦がいた。ベスに会うと気に入ってもらい、その家に引き取られる。チェスを教えてくれたシャイベルとは別れることになる。素敵な家で自分の部屋も与えられ、夢のような生活になる。
そこでハイスクールに通うようになるが、周囲はいじわるい女の子たちばかりで仲間はずれにされる。1人でいることが多くなる。養母はチェス盤は買ってくれない。引き取られた家でも自分の頭で天井に浮かび上がるチェス盤の駒を動かすようになる。
ある時、州のチェス大会があることを知る。受付では女性部門はないよとか、本気で参加するのと言われるが、シャイベルを通じて借りた参加料を支払って対局に向かう。下レベル同士の戦いからスタートしたが、まだ14 歳の女の子と思って男性プレイヤーは舐めてかかる。ところが、すべてベスの返り討ちに遭う。そして決勝でも、なかなか投了しない強敵相手を挑発する。州チャンピオンになり賞金をもらう。
夫が出張に行ったままなかなか帰らず、金欠気味でイライラしている養母はチェスでお金をもらえるの?と喜ぶ。そして養母がマネジャーのようになってチェスの各種大会に参加するようになるのだ。
スタートはこんな感じである。これからベスのチェス・ストーリーが始める。まあこれからは見てのお楽しみとしよう。
ともかく強いわけだが、相手が強くなるにつれ沈滞する場面もある。自虐的な要素さえある。上昇、下降両方の多くの逸話をちりばめながら物語ができあがる。そこに絡むのはあるときまでは養母である。夫に去られ、酒やクスリに溺れる。この養母の使い方も上手い。
⒈チャラチャラ群れるそこいらの女と違う
もしかしてわれわれ男性は強い女の子が好きなのかもしれない。つらいことがあってすぐ泣く女は手に余す。日本の会社で多くみられるようになった総合職の女の子もすぐ泣く。泣けば解決するんじゃないかと思うくらい泣く。男から何かあればセクハラかパワハラになってしまう。最近はやってられない困ったことも多い。
でも、主人公ベスは違う。意地悪されてもいやな戦いがあっても泣かない。群がっている女の級友の中には入らない。男しかいないチェス対局の部屋にも一人で入っていく。そこでも堂々と相手と渡り合う。かっこいい!それでも停滞がある。気がつくと、自力で這い上がる。やがて酒や薬に溺れるときもある。破滅的でもある。そこにはやさしく包む男性もいるが、基本自力で立ち直れる。
このベスという子の個性に惹かれる。 ただ、そのベスがたった一度だけ涙をみせるときがある。
その場面が素敵だった。
⒉物語の葛藤と友情
葛藤はストーリーの組み立てには欠かせない。チェスプレイヤーはほとんど男性で当然ライバルは男だ。舐めてかかられるが、ベスは徹底的に打ちのめす。逆に助けてくれることも多い。女性映画には女性同士の強い葛藤があるものだが、ここではウェイトが低い。高校で群がる女たちの仲間に入れてもらえなくても平気だ。学校でも会社でもよくいるいじわる女どもはどうでもいい。ベスは1人でいることには全然平気である。
しかし、肝心なときに女の友人が活きる。その存在の出現に驚く。
おー!こうくるかとうなった。
⒊60年代の空気が蔓延する
いかにもアメリカンスタイルのファッション、60年代を代表するアメ車、アメリカ風デザインの家、花柄のはいった素敵な壁紙が基調のインテリア。美術も衣装も非常にセンスがいい。特に最終章でベスが友人と乗るシボレーをみて子どもの時に憧れていただけにしびれた。でも、それだけではない。
州の中でのチェスマッチがやがてインターナショナルになる。当時は米ソ冷戦まっただ中である。チェスの強者が揃っているソ連との対決という構図もいい感じだ。実は1972年にアメリカのボビー・フィッシャーがボリス・スパスキーに世紀の一戦で勝利するまでソ連以外の選手は世界選手権を勝っていない。しかも、1975年にソ連が奪還し、体制が崩壊するまでずっと勝ち続ける。そういう前提の中でウォルター・テヴィスがこの物語を書いたのだ。ある意味ボビー・フィッシャーが勝っていなければこの物語は存在しないと思う。個性的なこの主人公ベスをうまく誕生させたと言える。
これはおもしろい!
何気なくNetflixのチャンネルからピックアップして、本来シリーズものは見ない自分だけどハマってしまった。2日間で6話をみて翌日最終話をじっくりみた。孤児院で育った自閉症的な気質をもつ女の子ベスがチェスに魅せられる。天才的なひらめきで気がつくと州の大会に勝ってしまい、より上の世界に挑むという話だ。
ともかく主人公であるアニャ・テイラー=ジョイ演じる女性チェスプレイヤーのベスに魅かれる。前髪を短くしたお茶目な顔は「アメリ」のオドレイ・トドゥのようで、対局でギョロと相手を見るときの目は安室奈美恵を連想する。ともかく応援してあげたい気持ちになれる女の子だ。そしてシリーズを通じて、スポーツ根性モノのような高揚感と天才をみる楽しさに満ちている。
1961年の ポール・ニューマン主演「ハスラー」の作者ウォルター・テヴィスが書いた原作があるということを見終わったときにはじめて知った。そうか!思わずうなった。ビリヤードとチェスと扱うモノはちがうにせよ、勝負事では共通。
ポールニューマン演じる腕自慢のビリヤードプレイヤーが強敵ミネソタ・ファッツと対決して敗れ、挫折し転落しているときに謎の女や怪優ジョージ・スコット演じる得体の知れないギャンブラーに会い復活の糸口を掴むという話だ。映画「ハスラー」はあらゆる面で傑作といえる。登場人物の性別が逆になったりするが、物語の構造としてはある意味「クイーンズ・ギャンビット」 に類似している気がする。
母の自動車事故の巻き沿いになって死に損なった8歳のベスはメスーエン養護施設に入れられた。ベスは教室の黒板消しをたたきにふと入った地下室で用務員シャイベルが遊んでいるチェス盤に目を惹かれる。思わず関心を持ち、シャイベルに駒の動かし方を聞くが教えてくれない。ところが、自力で駒の動かし方を覚えてしまい対決を挑む。当然負ける。
養護施設では精神の安定をはかるために緑色の薬が与えられていた。昼間に飲むと吐いてしまいそうな味だったが、黒人の友人から夜に飲みなよといわれ飲んでみる。すると頭が冴え、駒の置いてあるチェス盤が天井に浮かび上がり頭がオートマティックに操作してしまう。
やがてシャイベルにも勝てるようになる。毎日のように地下室に行き序盤の定跡を教わる。そして腕をあげて、シャイベルのチェス仲間ガンツを紹介される。そこでも勝ってしまったベスはチェス仲間の勤務する高校で10人の男子高校生とチェス盤で多面対局する。それでも楽々勝ってしまう。ただ、頭が冴えるのは緑の薬を飲むときだけである。その薬の隠し場所を見つけるが大量摂取で倒れてしまう。施設長からチェスは禁止された。
やがて、養子をとりに養護施設にやってくるある夫婦がいた。ベスに会うと気に入ってもらい、その家に引き取られる。チェスを教えてくれたシャイベルとは別れることになる。素敵な家で自分の部屋も与えられ、夢のような生活になる。
そこでハイスクールに通うようになるが、周囲はいじわるい女の子たちばかりで仲間はずれにされる。1人でいることが多くなる。養母はチェス盤は買ってくれない。引き取られた家でも自分の頭で天井に浮かび上がるチェス盤の駒を動かすようになる。
ある時、州のチェス大会があることを知る。受付では女性部門はないよとか、本気で参加するのと言われるが、シャイベルを通じて借りた参加料を支払って対局に向かう。下レベル同士の戦いからスタートしたが、まだ14 歳の女の子と思って男性プレイヤーは舐めてかかる。ところが、すべてベスの返り討ちに遭う。そして決勝でも、なかなか投了しない強敵相手を挑発する。州チャンピオンになり賞金をもらう。
夫が出張に行ったままなかなか帰らず、金欠気味でイライラしている養母はチェスでお金をもらえるの?と喜ぶ。そして養母がマネジャーのようになってチェスの各種大会に参加するようになるのだ。
スタートはこんな感じである。これからベスのチェス・ストーリーが始める。まあこれからは見てのお楽しみとしよう。
ともかく強いわけだが、相手が強くなるにつれ沈滞する場面もある。自虐的な要素さえある。上昇、下降両方の多くの逸話をちりばめながら物語ができあがる。そこに絡むのはあるときまでは養母である。夫に去られ、酒やクスリに溺れる。この養母の使い方も上手い。
⒈チャラチャラ群れるそこいらの女と違う
もしかしてわれわれ男性は強い女の子が好きなのかもしれない。つらいことがあってすぐ泣く女は手に余す。日本の会社で多くみられるようになった総合職の女の子もすぐ泣く。泣けば解決するんじゃないかと思うくらい泣く。男から何かあればセクハラかパワハラになってしまう。最近はやってられない困ったことも多い。
でも、主人公ベスは違う。意地悪されてもいやな戦いがあっても泣かない。群がっている女の級友の中には入らない。男しかいないチェス対局の部屋にも一人で入っていく。そこでも堂々と相手と渡り合う。かっこいい!それでも停滞がある。気がつくと、自力で這い上がる。やがて酒や薬に溺れるときもある。破滅的でもある。そこにはやさしく包む男性もいるが、基本自力で立ち直れる。
このベスという子の個性に惹かれる。 ただ、そのベスがたった一度だけ涙をみせるときがある。
その場面が素敵だった。
⒉物語の葛藤と友情
葛藤はストーリーの組み立てには欠かせない。チェスプレイヤーはほとんど男性で当然ライバルは男だ。舐めてかかられるが、ベスは徹底的に打ちのめす。逆に助けてくれることも多い。女性映画には女性同士の強い葛藤があるものだが、ここではウェイトが低い。高校で群がる女たちの仲間に入れてもらえなくても平気だ。学校でも会社でもよくいるいじわる女どもはどうでもいい。ベスは1人でいることには全然平気である。
しかし、肝心なときに女の友人が活きる。その存在の出現に驚く。
おー!こうくるかとうなった。
⒊60年代の空気が蔓延する
いかにもアメリカンスタイルのファッション、60年代を代表するアメ車、アメリカ風デザインの家、花柄のはいった素敵な壁紙が基調のインテリア。美術も衣装も非常にセンスがいい。特に最終章でベスが友人と乗るシボレーをみて子どもの時に憧れていただけにしびれた。でも、それだけではない。
州の中でのチェスマッチがやがてインターナショナルになる。当時は米ソ冷戦まっただ中である。チェスの強者が揃っているソ連との対決という構図もいい感じだ。実は1972年にアメリカのボビー・フィッシャーがボリス・スパスキーに世紀の一戦で勝利するまでソ連以外の選手は世界選手権を勝っていない。しかも、1975年にソ連が奪還し、体制が崩壊するまでずっと勝ち続ける。そういう前提の中でウォルター・テヴィスがこの物語を書いたのだ。ある意味ボビー・フィッシャーが勝っていなければこの物語は存在しないと思う。個性的なこの主人公ベスをうまく誕生させたと言える。