久し振りに一週間だがアメリカに行った。
とは言ってもニューヨーク。
典型的なアメリカとは言い難いが今米国で何が起きているのか垣間見ることができた。
入った当日がブルックリン橋で700人のデモ参加者が逮捕された日。
しかしタクシーの運転手とかに聞いてもさっぱり興味がない、というか知らない感じ。
日本では一見まともな新聞(中身はただの政府広報誌だが)が広く読まれているのに対し、
全米3位のニューヨーク・タイムズでも100万部強。
WALL ST JOURNAL、USA TODAY(これはマック・ペーパーと言われる通り大衆路線)の上位2紙と合計しても
500万部を少し超えるくらい。
読売新聞一社の公表部数(押し紙など旧弊の水増しもあり怪しいものだが)の6割くらいしかない。
因みにイギリスのファイナンシャル・タイムズは45万部、フランスのフィガロに至っては33万部しかない。
クオリティー・ペーパーを読む層はごくごく一部に限られている。
日本は新聞購読層は広い。
社会常識は一般に知れ渡っている。
ただクオリティ・ペーパーがあるかと言えばそうとも言えないが。
一般的教養レベルが高い中間層が健在な日本社会と比して、米国は少数のエリートと大多数の大衆の国だ。
社会的格差と言ってもいい。
高級住宅が立ち並ぶ北の郊外からクルマで南下したが、ハーレムは黒人しかいないし、コロンビア大学のあたりは
いかにも名門大学の学生が闊歩し、マディソン・アベニューの高級ブティック街には着飾ったご婦人たち。
下町の地下鉄には身なりの貧しい移民風の人や黒人しかいない。
階級分離がはっきりしている感じだ。
そして1%の富裕層が富を独占し、中間層が没落したといわれる米国。
貧困層が急速に増えて15%がフードクーポンの受給者となった。
サブ・プライムで傷ついた銀行を国が救済、金融緩和で有り余ったカネを殆どゼロ・コストで運用。
富裕層は富を更にを飛躍的に増やした。
経済停滞は続くまま余剰資金が流れ込んだ資源価格は上昇。
ミニ・スタグフレーションだ。
成長なき繁栄で雇用には結びつかず失業率は公称9%、実質20%近いとも言われている。
物価は東京くらいかな。
円高の日本人から見た感じだ。
しかし四人家族で年収15000ドル以下が15%のアメリカ人からすればインフレ感があると思う。
そして金融緩和の結果、国民に残されたのが財政赤字。
経営危機の続く銀行を救うために更に政府のカネが投入される。
財政支出の削減が条件だ。
削られるのは社会保障費、教育費など国民生活(特に低所得者層の)に直結している。
今回のデモはそれに対する怒り。
大学を出ても就職難。
今回のデモで切実だったプラカードには
「奨学金6万ドル、医療費1.6万ドルの負債。俺はまだ22歳」
富裕層の一部はガス抜きのために自分たちへの増税を要求。
あまりの格差拡大に身の危険を感じている。
一方でJPモーガンはニューヨーク市警に460万ドルを寄付。
警察は平和的デモを引っ掛けて逮捕者を出したとも言われる。
抗議行動を潰すには「やりすぎ・暴走・自滅」が一番都合がいい。
しかし今回のデモはよく組織されているようで、当局の挑発に乗せられていない。
我々がウォール街に見に行ったのはブルックリン橋での逮捕劇の翌日でもあり、
まるでピクニックのようなデモ風景だった。
国民間の経済格差は服装や食べ物に如実に出ている。
日本でも格差が問題になっているがかなり違う。
減少しつつ有る中間層が存続し続けることが日本の課題だ。
今回びっくりしたのは日本人観光客の少なさ。
タイムズスクエアとか行ってもたまに散見するくらい。
地元のレストランは結構客が入っていて、金曜日の夜の下町のレストランのいくつかはは3日前でも予約が
取れないくらいだった。
賑わいの主役は外国人ではなさそうだ。
やはりアメリカの金融バブルは続いている。
欧州ではデクシアの破たんをきっかけにECBなどによる大幅な金融緩和、
すなわち銀行への資金供給が始まる。
その動きは元高が足枷になっている中国の金融緩和、そして米国のQE3へと進むようだ。
アメリカのカネ回りは全体的に悪くない感じだ。
元気がないのはデフレの上に増税を突きつけられた日本人の方かもしれない。
結局、「金融」と「軍産複合体」というアメリカを支配する二大政党(田中宇)は温存され、
99%の国民の不満は蓄積する。
体制の延命が続くわけだがどういう結果になるのか。