智の庭

庭の草木に季節の移ろいを感じる、日常を描きたい。

家物語、数奇屋を現代に解釈する

2013年09月18日 | 家の設計、インテリア
造園・植木業の夫婦が追求した「理想の家」を紹介します。

5年前に住友林業と契約、設計に約2年半、施工に1年、東日本大震災による中断もありました。

まず、通りから見える外観



車寄せを入って、アプローチから玄関正面を望む



外観デザインのテーマは、数奇屋。

夫が数奇屋の庭、雑木の庭を好み、日本の里山の風景に馴染む家、を目指しました。


次に、居住快適性の追求。

無垢材から成る日本の建築様式では、夏の備えは良くても、冬の寒さが身に堪えます。

先代が建てた旧宅のお陰で、この地の「光と風」を、知っていました。

自然の恵みを活かすべく、間取り、窓や壁を、配置しました。


外観は、バランスの美を求めて、最後の最後まで悩みぬき、

京都は、哲学の小道周辺のお宅を見て歩き、(泥棒の下見みたいに、怪しい私達)

芦屋と田園調布も見て回り、洋館ばかりで、ちょっと参考になりませんでした・・・

東京の庭園とお茶室を訪ね歩き、

旅行では、数奇屋建築の旅館に泊まり、

ドライブの最中も、車窓から気になる家を見つけると、引き返してトクと拝見し、

モダン・リビングなど、雑誌も買いあさり

ネットで参考にしましたのは、吉田五十八作「東山旧岸邸」でしょうか。


これは、引越後のダンボールで作った模型、ボロボロになって捨てる前に記念写真



一人目の設計士と共に、進めた案の模型です。

既に旧宅を壊し、アパートに引越し、設計図書が上がって見た瞬間に、

私、真っ青になって、血の気が引きました・・・・

そして、模型を急いで作って、自ら検証してみました。

代案も作成してみました。



コンピュータ・グラフィックで、化粧された下図は、もっともらしく見えたのですが、

白黒の設計図書は、虚飾が消え去り、問題を浮き彫りにしていました。

模型を作ることで、疑念が確信に変わり、夫に見せたところ、

夫も全てを理解し、設計費用を捨てる決意をしました。


「捨てる」といっても、既にアパートに引越し、家賃もかさみます。

進退を迷い、無地のダンボールに、マジックで、屋根材や窓を書き加えると、

問題がぼやけ、軽く見過ごせそうな気にもなりましたが、

私は、「オードリー・ヘップバーンなど、骨格が美しい人は、年を経ても美人。

個性派美人は、化粧を工夫して美人に見せても、年をとるにつれて誤魔化せない。」

夫も、このとき決断して良かった、と述べます。


自分達の理想を表現できる建築家と出会うことが、家作りの成功の秘訣ですが、

企業の「永続の安心」を優先に考え、個人の建築家に注文しませんでした。

その結果、企業の枠の中で、意向に合う設計士を探すことになったわけです。

一人目の設計士は、全般的にセンス・提案力が足りず、

二人目は、優れたセンスの持主ですが、彼自身の美意識に捕らわれ、幅がなく、

三人目で、納得できる人物と出会えました。


さて、変更案の模型を南東角から見ると、



南と東側に、屋根が入母屋の形態になっていますが、

三人目の設計者が、東は入母屋を無くす案を提示し、その結果は、冒頭写真をご覧下さい。

右側(東側)の屋根のラインが、すっきりと浮かび上がりました。

この提案を見た瞬間、私と夫は、やっと自分たちの設計と出会えた、と安堵しました。

三人目の彼との打合せは、毎回、互いに「インスパイア」して、

「正・反・合」を繰り返し、有意義で満足いき、話が進みました。


私達は、華美ではなく、簡素な美を求めましたので、この結果に満足しています。

何度も何度も修羅場をくぐりぬけて、ようやく建った我が家は、

夫婦共々、後悔の念はありません。