書道具専門店へ、客人の少ない時間帯に通い、番頭さんと話すようになり、
大学の市民講座で、講師によってなされた言動が、書道の世界の常識なのか?
私の疑問に、的確に答えてくださいました。
そして、ある先生を紹介してくださいました。
恐る恐る、私の最近の書作を持参し、番頭さんに見ていただき、
「大丈夫、その先生のお教室を、見学して御覧なさい」
とご推薦いただきました。
それならば、と意を決して、
番頭さんに、これまでの親切にお礼の意を込めて、菓子折りを手渡し、
お教室見学に伺いました。
K先生のクラスは、
大学のゼミ室のように、熱気と活気に溢れ、
先生を囲む生徒や、生徒同士で互いに論評しあう様子が、
懐かしく、感動しました。
K先生は神戸から新幹線で月1回見えます。
なんと、朝9時から、10数名が集まり、お昼は出前や弁当を皆で囲み、夕方4時過ぎまで、
先生と生徒(皆、中高年です)が、わいわいがやがや
昼食前に入室した私に、先生は「次回、何か、作品を持っていらっしゃい」
とおっしゃるので、「実は」と持参したものを、お目通りいただきました。
黙ってご覧になり、お昼ご飯のテーブルにつきました。
昼食を終えて、私の傍にお越しになって、
「これまでの書道歴は?」
「高校の授業以来、30年ぶりに、今年の5月から仮名書道を始めました。」
「先生は?」
「先生は、毎日会系、日書美会系の、W先生です。」
「釈迦に説法かもしれないけど・・」
「いえ、先生、私、基礎からやり直したいんです。
これまでの先生の教えで、納得できなくて、白紙に戻して、やりたいのです。」
K先生は頷いて、席に着き、
「中鋒が要」とおっしゃいながら、一本の直線を描き、
「側鋒は、汚くなる」
ずばり、私の欠点を指摘された、と受け止めました。
「先生、筆の持ち方から、教えてください」
先生は再び肯いて、
肩から筆までの位置関係、紙との位置、目線、そして、中鋒とは何かを書き示されました。
そして「いろはから、やっていただきます。」
「はい、お願いします。」
「お手本を送ります」
数日して、お手本とテキストのコピーが送られ、
読む手が震えました。
「書の奥義」に触れた、と心底感動したのです。
私は、W先生の指導の下、様々な疑問を抱き、
特に古典の臨書、つまり名手の筆跡と、W先生の筆跡が合わないので、
密かにああでもない、こうでもないと試行錯誤をして、
書物も次々購入し、研究していました。
その疑問の答えが、ここにあり、全て氷解しました。
その教えの意味深さも、即座に理解できたのです。
もちろん理解したからといって、会得できるまでには、月日が係ります。
それでも、この練習を地道に積み重ねることが、肝要であると分かるゆえに、
私は毎朝、嬉々として、「いろは」に臨んでいます。
「求めよ、さらば与えられん」
多くの出会いの中で、宝のような出会いは少ないものです。
専門店の番頭さん、K先生と出会て、
これまでの苦しみは、報われました。
このご縁を、大切にしていきたいと思います。