情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

取調の可視化~周辺諸国日弁連調査結果2

2006-08-19 21:48:24 | 適正手続(裁判員・可視化など)
【台湾では、1998年に取調べの全過程について連続してテープ録音し、必要があればビデオ録画することが刑事訴訟法に規定された。これは、1つの人権蹂躙事件(王迎先事件:台北市内で起きた銀行強盗事件に関し、王迎先氏が被疑者として取調べを受け、捜査官から暴行を加えられたことを苦に自殺した事件。自殺直前に真犯人が逮捕されていた。)を契機に制度化されたものである。

 このように日本に先行して実際に取調べの録音録画を行っている台湾については、2004年に日弁連の視察が行われているが、取調べの録音録画制度が導入されて10年近くになることから、制度の運用状況ならびに運用上の問題点を視察調査することが、今回の日弁連視察の目的であった。
 視察初日は、台北律師公会の律師たちと意見交換を行い、刑事弁護に携わる律師が感じている問題点を指摘してもらった。
 そこでは、①内政部の調査局や童大事件を扱う警察の部署では、取調べの全過程を録音録画するが、それ以外の警察では録音のみしか行われていない点、②実際の取調べが始まる前の「事前のコミュニケーション」については録音録画の対象となっていない点、③録音録画の質に問題がある等の問題点が指摘された。
これらの問題点を意識しながら捜査機関の視察を行った。

 まず、警察に対しては、台北中内と苗栗県の2カ所の地域を訪れ、録音録画システム、その運用状況に中央と地方で違いがあるかどうかを視察した。録音録画システム自体は統一約な基準はないものの、概ね取調室内の被疑者の上半身を映し出すカメラが1台設置され、部屋の外にあるモニターで様子を確認することができるようになっていた。音声については、各警察によって部屋の外で聞くことができるか否か扱いに違いがあった。録音録画まで行うのは、錘師たちの指摘どおり重大事件や争いが生じることが予測される事件に限られていることが判明した。
また、「事前のコミュニケーション」については録音録画の対象としておらず、その際自白のメリット等を教えることもあるとの発言もあった。

 次に、検察を訪れ、城調室の様子を見学した。日本の検察とは違って、予審判事のイメージに近く、取調室は警察のそれとは大きく異なり、法廷と同じような造りになっていた。検察での取調べについては全過程を録音録画するということであった。検察官に録音録画制度が導入されたことで取調べに弊害が生じなかったか尋ねたところ、支障はまったくなかったとの返事があり、自信すら示していた。

 さらに裁判所では、実際に証拠として提示された録画物を再生していただいた。音声だけでは被疑者の様子がわからないが、映像をみると飲酒か薬物摂取の影響を受け気怠そうにしている様子が克明に記録されており、被疑者の精神状態に問題があることがよくわかった。

 視察した各機関はいずれも取調べの録音録画制度を高く評価していた。
 特に印象的だったのは、捜査機関が、録音録画制度が導入されても取調べが困難になったことはなく、むしろ取調べ技術が向上し、被疑者・被告人から取調時に暴行を受けた等の訴えも減ったと肯定的な意見を開くことができたことである。
 今回の視察により取調べの録画録音のメリットが弁護側のみならず捜査側にも十分あることがわかり、また実際の運用上の問題点も聞くことができた。】(日弁連委員会ニュース2006年8月1日号)



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取調の可視化~周辺諸国日弁連調査結果1

2006-08-19 21:42:30 | 適正手続(裁判員・可視化など)
取調の可視化については,日本は非常に遅れている。警察の反対が強いからだが,果たして,警察は反対するべきなのか?考えるヒントとして,日弁連の周辺諸国調査の結果を引用します。

【韓国では、検察の取調べについて2004年5月2日から全国10ヶ所の検察庁において、警察の取調べについても2006年1月23日から一部警察署において、取調べの録画が試験的に実施されている。また、取調べの録画録音制度の新設を含む刑事訴訟法改正案が2006年1月6日に国会に提出され、現在審議中であり、可決されれば2007年3月1日から施行されることになっている。
 このように日本に先行する形で取調べの録画録音が始まろうとしている韓国については、昨年、福岡県弁護士会において視察を行ったが、その経験も踏まえ、さらに拡大し具体化していく韓国の取調べの録画制度を視察調査するのが、今回の日弁連視察の目的である。
まず、取調べの録画の試験的実施を行っているヤンチョン警察署を訪問し、実際の取調室や設備を見学した。録画用の取調室は、経済犯係に4室、強行犯係に3室設置されていて、いずれも明るい雰囲気の部屋で、天井の2つのカメラで部屋全体と被疑者のアップを撮影できるようになっており、別室の操作室において、パソコンで録画カメラを調節したり、録画内容をCDに焼いたりすることができる。ただ、部屋ごとに設置されたカメラの種類や設置場所が違ったり、部屋の広さや壁などが異なったが、それはどのような設備が最も望ましいかを見極めるためであり、利用者(?)に後で感想を聞いて改善していくために、あえて違いをつけているということであった。
すでに1月の試行開始から5月までの約4ヶ月間で310件の録画実績があり、自白率が下がるということはなく、取調べにかかる時間が大幅に短縮され、また捜査官が分かりやすい用語を使うようになるなどの成果が上がったそうである。
次に、ソウル南部地方検察庁を視察し、録画用の3種類の取調室を見学した。取調対象者に応じて、それぞれ工夫が凝らされた取調室であり、警察同様、非常に明るい雰囲気の取調室であり、天井2箇所にカメラが設置されていた。
 取調べの録画方法としては、被疑者が入室する時点から録画を開始し、取調べの全過程が録画されるようになっており、担当検事からは身体拘束された被疑者については全て録画すべきであるという心強い意見を聞くことができた。また、録画制度を試行するにあたっては、内部的には様々な憂慮や心配があったものの、実際に試験的実施をしてみると、そのような憂慮や心配は不要であったということであり、日本における議論でも参考になる話を聞くことができた。】(日弁連委員会ニュース2006年8月1日号より)




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敵味方刑法という言葉の怖さ~気づいたら敵ばかり?!

2006-08-19 00:42:36 | 適正手続(裁判員・可視化など)
松宮孝明立命館大学法学部教授が「刑事立法と犯罪体系」(成文堂)12頁で,敵味方刑法について触れているので,紹介します。刑法ってだけでも何やら怖い雰囲気があるのに,敵味方刑法だなんて…。

■■引用開始■■
 犯罪論においてもそうなのであるが、刑罰論においてはより顕著に出てくるのが、政策目標として犯罪者の社会復帰ないし再社会化を選択するのか、それとも犯罪者の排除ないし監視を重視するのかという問題である。これは近年、ドイツでは「敵味方刑法」(Feindstrafrecht)と呼ばれ、アメリカではnew penologyという言葉で表現されることのある問題状況に類似する。それは「自律」という観点から見れば、「担い手」を増やす政策をとるか敵を増やす政策をとるかという問題でもある。

 この問題は、近年の欧米諸国の刑事政策においてきわめて大きな問題である。Feindstrafrechtやnew penologyでは、犯罪者は社会復帰の主体として「(潜在的)自律」能力を持つ者としてではなく、その行動様式に変化のない社会の「敵」として扱われる。その帰結は、端的には、犯罪者の隔離による危険の分散であり、そのために--アメリカの一部に見られるように--新しい刑務所の建設などの多大なコストもいとわない。そのような政策がとられることは、社会の統合機能の衰退を象徴するものであって、「担い手」の成長・育成という視点からは避けられるべきものである。もっとも、残念ながらその当否はそれだけでは判断できないのであって、前提として、社会の統合能力ないし(再)社会化能力は向上しているか減退しているか、その社会が外部からの参入に親和的か敵対的か、といった諸点を考慮しなければならない。もちろん、その社会の構成員が統合能力の向上に向けて努力をしているか否かが決定的に重要なことは、いうまでもない。同時に、刑事政策に対する影響力を増してきた一般市民の世論--それ自体は、刑事政策を全面的に「お上」に委ねていた時代よりも前進であるといえよう--に対して、社会の統合という見地からの啓蒙活動が、刑事政策の重要課題のひとつとなったことも、認識しておくべきであろう。それは、社会の「自律」を助けるものでもある。
■■引用終了■■

いま,日本,いや世界中で社会の統合能力は間違いなく減退しつつある…。





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