特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第477話 浅草偽装心中・姉を殺した女スリ!?

2009年07月03日 01時05分06秒 | Weblog
脚本 佐藤五月、監督 天野利彦
1986年8月7日放送

【あらすじ】
桜井を手こずらせていた浅草の老スリが病死した。まるで遺言のように、老スリから桜井に送られた手紙、そこには「孫娘を更正させたい。よろしく頼む」と綴られていた。孫娘の両親は早くに死亡し、老スリが親代わりに育てていたが、ダニのようなチンピラに付きまとわれ、軽犯罪を繰り返し、水商売を転々とする日々を過ごしていた。老スリの葬儀の場でも我が物顔に振舞うチンピラ。孫娘の姉は、そんなチンピラと縁を切らせてもらえるよう、桜井に懇願する。だが、肝心の孫娘に、果たして更正する意思があるのだろうか・・・
数日後、姉が心中死体で発見される。心中相手は会社員で、姉とは不倫関係にあったらしい。当初は会社員が姉を絞殺した後、首を吊って死んだと見られていた。しかし、検死の結果、会社員は他殺だったと判明。特命課は偽装心中事件とみて捜査に乗り出す。
会社員は心中の前日、「鞄を盗まれた」と交番に駆け込んでいた。会社員の妻の証言から、その中には会社の機密書類が入っていたと推測される。会社員は、尽くしていた上司に裏切られ、「いつか復讐してやる」と誓っていたというのだ。特命課は、上司を怪しいと見て捜査を続ける。
一方、桜井は会社員が鞄を置き引きされた現場で目撃者を発見。目撃者の証言で割り出した置き引き犯は、孫娘だった。会社員の葬儀に場違いな姿で現れる孫娘を強引に連れ出し、鞄の行方を追及する桜井。「お姉さんは、会社から機密書類を盗んだために殺された会社員の巻き添えになった。あの鞄には、その書類が入っていたんだ」はじめは惚けていた孫娘だが、自分の置き引きした鞄が姉の死の原因になったと知り、動揺を隠せない。置き引きの相棒がチンピラと見た桜井は、改めてチンピラと縁を切るよう説得する。だが、孫娘は「あの人は警察と違って優しくしてくれる!」と真剣な表情で怒りを見せる。桜井はその表情から、孫娘が、惰性で付き合っているとばかり思っていたチンピラのことを、本気で愛していることに気づく。
孫娘を犬養に託し、一人、チンピラの元に向かう桜井。鞄はやはりチンピラが持っていた。「俺と一緒に自首してくれ。足を洗ってくれ。頼む、この通りだ」頭を下げる桜井の隙をつき、金属バットで殴りかかるチンピラ。桜井は負傷しながらもチンピラを逮捕。チンピラの持っていた書類が証拠となって、特命課は上司を逮捕。事件は解決する。
その後、無事に退院した桜井は、孫娘が働く定食屋を訪ねる。「おじいちゃんも、お姉ちゃんも、あの人と別れろって言ってくれたけど、あの人に面と向って『足を洗え』って言ってくれたのは、桜井さんだけだった・・・」孫娘の言葉に、桜井は願った。孫娘がチンピラと二人で、堅気として幸せに暮らす日が来ることを。

【感想など】
陽の当たらない世界から抜け出そうとしつつも、抜け出せない女の哀れさと、そんな女を救い出そうとする桜井の真摯さを描いた一本。桜井が中盤で罵倒したように、女に対しては「甘ったれんな!」という怒りしか出てこず、同情の余地もありません。これは女優の演技力の問題も多々あるでしょうが、劇伴として頻繁に流れるサザン(もしくは研ナオコ)の『夏をあきらめて』のインストが、本来は深刻であるはずのドラマの雰囲気を、実に甘ったるいものにしてしまっている影響も少なくないと思われます。

別に私はこの曲が嫌いなわけではありませんが(むしろ、どちらからといえば好きな曲です)、私の好む特捜の雰囲気とは、相性が良くないように思われてなりません。もちろん、選曲する側も、「雰囲気をぶち壊そう」と思っているわけではなく、「あまり深刻になると視聴者に見てもらえなくなる」と思って、あえて“特捜らしくない”劇伴を使用しているわけです。つまり、私のような“かつての特捜の雰囲気が好き”という視聴者はもはや少数派であり、制作側のターゲットではなくなってしまっているわけですから、見ていて面白くないのも、ある意味、当たり前のこと。寂しいことではありますが、やはり特捜は終るべき時を迎えている、ということなのでしょう。

脚本そのものは、佐藤氏らしさが出ているかはともかく、桜井の真摯なキャラクターにブレがなく、安定したレベルの話だと思うのですが、桜井に遺言を残した老スリとの絆や、孫娘につきまとう老刑事(面白いキャラクターなのですが、本筋と余り関係ないためあらすじからは省略)とか、久々に特捜らしい舞台となった「浅草」など、もっと膨らまして欲しかった要素があっさり済まされているだけに、残念な印象です。とはいえ、私が膨らまして欲しいそれらの要素は、膨らましたところで深刻かつ地味になるだけであり(私にとってはそこが良いのですが)、制作側としては「地味で深刻にしても視聴者は喜ばない」と判断して、“あえて深刻にしないよう”心掛けているわけですから、見ていて面白くないのも、ある意味、当たり前。やはり特捜は終わるべき時を・・・(虚しいので以下略)

「家庭教師のトライ」のCM

2009年07月02日 04時19分52秒 | Weblog
すでにご存知の方も多いとは思いますが、「家庭教師のトライ」のテレビCMで、特捜の名場面がパロディチックに使われていました。
私はあまり地上波放送を見ないので、まったく知らなかったのですが、先日いただいた「submarine17」さんからのコメントで見ることができました。
続けていただいた「らりぞー」さんからのコメントによると、この会社の社長が、神代課長を演じる二谷英明氏の娘さん、二谷友里恵さん(郷ひろみの前妻としても有名ですね)だとのこと。
submarine17さん、らりぞーさん、貴重な情報をありがとうございました。せっかくですので、より多くの特捜ファンに見ていただけるよう、こちらでも報告しておきます。まだテレビでご覧になってない方は、以下のサイトでご覧になってみてください(決してトライの回し者ではありません)。
私が一度見た時は「取り合い編」「自分で電話しろ編」の2本だけだったのですが、先ほど改めて見たところ「夏休みだけ編」が増えていました。今後も増えるかも知れないと思うと、いろいろ妄想が広がって楽しめます。皆さんも「あのシーンであんなCMを・・・」と想像を巡らしてみてはいかがでしょうか。

www.trygroup.co.jp/cm

第476話 慕情・神代課長を狙撃させた女!

2009年07月02日 04時02分43秒 | Weblog
脚本 石松愛弘、監督 北本弘
1986年7月31日放送

【あらすじ】
暴力団同士の抗争が激化するなか、市民が巻き添えとなって死亡する。その責任の一端を負う者として、神代の心は痛んだ。2年前、特命課は広域暴力団を壊滅すべく、カリスマ的な存在であった組長を逮捕。神代自らが取り調べに当たった。だが、組長は心臓病を隠しており、取調べ中に昏倒し、そのまま死去。その後、暴力団は後継者争いから分裂し、今も骨肉の争いを続けていた。「抗争の原因を作ったのは特命課だ」との非難は根強いものがあった。
そんななか、帰宅した神代を暴力団の若者が襲う。難なく取り押さえる神代。若者は取り調べに対し「お前が組長を殺したから、俺たちは身内同士で殺し合うハメになった!」と神代を罵る。その言葉は1月前、組長の墓前で、組長の娘が神代に発した言葉でもあった。
そこへ、当の娘が神代を訪ねてくる。娘は「若者を釈放して欲しい。その代わり、情報を差し上げる」と取引を要求する。娘の情報をもとに、両組織を次々と検挙する特命課。娘は神代に「世間のためにも、死んだ父のためにも、両組織とも無くなってしまえば良い」と心情を語る。今回の抗争を最も怒っているのは、心血を注いで組織を作り上げた組長だと言うのだ。
そんななか、マスコミに神代と娘のツーショット写真が出回り、警察上層部があわてて揉み消す。上層部の警告を無視して、娘からの情報提供をもとに検挙を続ける神代。その身を案じる特命課を代表し、橘は「彼女にはもう深入りしないほうが・・・」と忠告する。だが、神代は「彼女にどんな魂胆があろうと、せっかくの情報を利用しない手はあるまい」と、毅然とした態度を崩さない。
だが、今回の情報はガセネタ。暴力団が内通者を見つけ出すための罠だったのだ。娘に危険が迫ると感じた神代は、単身、暴力団の本拠に乗り込む。だが、娘をスパイだと知った暴力団は、すでにその身をどこかへ移していた。虚しく帰宅した神代を待っていたのは、怯えた様子の娘だった。自室に娘を匿う神代だが、カーテン越しに窓の外を見る娘の視線の先には、狙撃者の姿があった。
神代の部屋に打ち込まれるロケット弾。咄嗟に神代がかばい、娘も神代も軽症に留まった。だが、娘を入院させた病院で、神代は意外な事実を知る。娘は末期のガンだった。娘は神代を道連れに心中を図るとともに、神代の死によって警察が暴力団壊滅に本腰を入れることを期待していたのだ。
そんななか、神代が見舞う娘の病室を、若者が拳銃を手に襲撃。神代が身を呈して娘をかばい、事なきを得る。可愛がっていた若者の行為に、ショックを隠せない娘を橘が見舞う。「貴方が命を狙われるのは、裏切者だからというだけじゃない。あなたは両組織を壊滅させる何かを知っている。しかし、神代課長への復讐を果たすために、貴方はそれを話そうとはしない。違いますか?」否定も肯定もしない娘に、橘は続ける。「彼(=神代)は貴方の魂胆を全て承知の上で、自分の命をかけて、最後まで付き合うつもりだ。そういう人だからこそ、我々は彼を失いたくない。特命課としても、長年一緒に仕事をしてきた友人としても・・・」
神代の覚悟を知った娘は、あることを願い出る。それは、離婚した堅気の夫のもとに残してきた息子の姿を一目見ることだった。元気そうな息子を車の窓から見守りつつ、覚悟を決める娘。そして娘は知った。神代もまた、愛する家族を失う悲しみを知っていたことを。
娘は神代を貸金庫へと誘い、両組織を壊滅させるに十分な資料を託す。「私と心中までしようとしてくれたお礼です。でも、寂しいですわね。心中というものは、本来は愛し合っている人たちがするものでしょう・・・」
貸金庫を出た二人をライフルの銃口が狙う。咄嗟に娘を庇おうとする神代だが、逆に娘が神代を庇って銃弾に倒れる。「死にたくない、もっと生きたい・・・」そう言い残して、娘は息を引き取った。
娘の託した資料をもとに、特命課は両組織を壊滅させる。後日、娘の墓参に向かった神代は、入れ違いに離婚した夫と息子が墓参するのを見守る。微笑と、そして苦渋の入り混じったその表情の奥に、どんな想いが去来していたのだろうか・・・

【感想など】
石松愛弘の特捜における最後の脚本にして、ひょっとすると最高傑作かもしれない1本。前々回の感想で、ぼろくそに貶しておいて何なのですが、意外とこの人の脚本は私の琴線に触れるものがあるのかもしれません(いや、もちろん話の出来によるのですが・・・)。
タイトルにある「慕情」は、DVD-BOX Vol.8にも収録される、石松氏の代表作である第184話のもの。はじめは「とうとうネタ切れで自作の焼き直しか」と思っていたのですが、そんな下世話な先入観は、良い意味で裏切られました。愛娘・夏子を失った神代課代と、死んだヤクザの父親に対して愛憎混じった複雑な思いを抱く娘。両者の“擬似親子”的な感情の揺れ動きを描く・・・というテーマは、第184話と合い通じるものがあるのですが、娘のキャラクター(加えて演じる女優さんの存在感)は大違いでした。

末期ガンのため、残り少ない命を、父の遺志に背いて抗争を繰り返す組織の壊滅(死んだ組長の真意は不明ですが)と、父の仇である神代への復讐(逆恨みですが)に懸ける娘の執念。そして、娘の真意を知りながら、おそらくはそこに亡き愛娘、夏子の姿を重ね合わせるがゆえに、命を賭して最後まで付き合おうとする課長の覚悟。また、そんな課長を支えんとする橘ら特命課の面々。さらには、娘を敬愛しながら、最後は組織のために娘への刺客となってしまう若者など、重層的に描かれる姿は、なかなか見応えがありました。

ガンという設定は余計だったような気もしますし、娘や暴力団の行動に矛盾があったり(たとえば、課長と会食を重ね、マスコミにスキャンダルを仕掛けたこと。彼女の差し金としか思えないのですが、それでは課長への復讐にはなっても、警察に本腰を入れさせることにはつながらない。下手をすれば、課長が上層部の圧力で捜査を外れることもあり得た)と、石松氏らしいツッコミどころはあるのですが、個人的にツボだったのは、キャラクターの心理を明確に言葉にせず、視聴者に行間を読ませる台詞回しの妙でした。特に顕著なのは、クライマックスである車中での娘と課長の会話です。
「どうして(若者から)命を賭けて私をかばってくださったんです?」「別に、あなたのためじゃない。刑事として、当たり前のことをしただけです」「もし庇ってくれたのが、私を愛してくれる人だったら、いつ死んでもいいって思いました」「・・・」「でも、刑事って大変なお仕事ですね。職務のために命を賭けて、必要とあれば相手と心中までしようとなさって・・・」
この台詞の中に、「刑事であるがゆえに、娘・夏子を死なせてしまった課長の哀しみ」と、「ヤクザであるがゆえに、まっすぐに娘への愛情を注げなかった組長の哀しみ(=そんな父親を持った娘の哀しみ)」、さらには「刑事であるがゆえに、ヤクザの娘に対して(夏子の代わりとしての)愛情を示すことのできない課長の切なさ」が込められているように感じるのは、深読みのし過ぎでしょうか。
さらに深読みをするのであれば、“死んだ娘の替わり”という自らの感情を押し殺す(あるいは持て余す)、課長の人としての不器用さも表されているような気がします。また、娘の行動の背景には、愛する息子(や夫)のためにも、ヤクザ同士の抗争を止めたいという思いもあったのかもしれません(その気持ちを察したらからこその、ラストの課長の微笑だったのかも・・・)。

自分でも考え過ぎかとは思うのですが、すべてを台詞で語ってしまうような脚本に、やや辟易しつつあっただけに、こうした行間を読ませる台詞(さらには演者の表情)は、見ていて非常に心地よいものがありました。本編をもって特捜を去る石松愛弘氏に対し、前々回の感想での非礼を深くお詫びするとともに、ひとこと「お疲れ様でした」と言わせていただきたいと思います。

第475話 単身赴任誘拐事件・窓際族の身代金!

2009年07月01日 01時48分14秒 | Weblog
脚本 藤井邦夫、監督 辻理
1986年7月24日放送

【あらすじ】
東京に単身赴任中の会社員が誘拐された。大阪の妻のもとには身代金6千5百万円を要求する電話が入る。大阪府警からの依頼で捜査に乗り出す特命課。
桜井と犬養が勤務先を訪ねたところ、会社員の仕事は「参事」とは名ばかりの閑職で、いわば定年までの飼い殺し。連絡無しに欠勤しても、周囲から気にも留められていなかった。
一方、橘は会社員のもとに派遣されていた家事代行業の女から事情を聞く。女性は留守中に掃除するだけで、会社員とは面識すらないという。だが、女性の態度に不審なものを感じた橘は、その身辺を調べる。女は夫に先立たれ、息子と二人暮しだったが、最近は中年の男が出入しているという。
同じ頃、紅林と時田は大阪の自宅へ。妻や息子、娘の態度から、会社員が家庭にも居場所がなかったことが窺われる。会社員を心配するでもなく、金ばかりを心配する家族の態度に、怒りを隠せない時田。そこへ届けられる宅配便。中身は血の着いた会社員の背広だった。
宅配便の受付先の協力で作成した似顔絵から、容疑者として会社員のかつての同僚が浮上する。再びかかってきた脅迫電話に、妻は思わず同僚の名を口にする。警察の存在を察知した同僚は、開き直ったように正体を明かす。
同僚は会社員と同期の親友だったが、出世争いで敗れたことから会社員を恨むようになり、やがて退職、離婚し、荒れた生活を送るようになっていた。その会社員も、今はエリートコースを外れて窓際族という現状は、皮肉なものだった。
その頃、橘は再び女を訪ねる。女の息子が飼っている金魚を見た橘は、会社員の部屋にも金魚の水槽があったことを思い出す。息子に確かめたところ、金魚は会社員から貰ったものだった。女に問い質したところ、代行会社の規則なので「面識が無い」と嘘をついていたのだが、風邪で寝込んでいた会社員を看病したことを契機に、親しくなったのだという。女が言うには、会社員は新宿で浮浪者となった同僚と再会。心臓病で苦しむ同僚を、無理に入院させたという。叶と杉は同僚の入院先を探し回る。
身代金の受け渡し場所に指定された銀行に赴く会社員の妻。紅林と時田が張り込む中、同僚は電話で身代金を金融ブローカーの口座に振り込むよう指示。連絡を受けた橘らは、金融ブローカーに急行、その社長を尋問する。社長が言うには、「貸した金を返済してもらっただけ」だという。同僚は身代金を金融ブローカーに立て替えさせ、振込先として利用することで、無事に身代金を入手したのだ。社長は先刻まで喫茶店で同僚と一緒だったという。喫茶店に急行した犬養は、同僚が残した薬の封筒を発見。そこから入院先が判明する。だが、同僚は、無理を押して病院を抜け出したため、昏睡状態にあった。同僚の荷物から発見された金額は2千万円のみ。残りは共犯者のもとにあると思われた。
同僚が利用していた私書箱を見張る特命課。そこに現れた共犯者は、なんと会社員本人だった。すべては会社員が企てた狂言だったのだ。再会した当初、同僚は会社員を恨んでいたが、現在の境遇を知って同情し、「俺はこんな惨めな男を恨み続けてきたのか」と涙を流したという。同僚の治療費をまかなうため、そして、女とその息子の暮らしを支えるために、会社員は狂言誘拐を企んだのだ。
特命課の取調べに対し、会社員は動機を語る。「私は女房や子供のために一生懸命働いてきた。少しでも出世し、少しでも多く給料をもらおうと。でも、左遷されたとき、誰もついてきてくれなかった。こんな私でも、必要としてくれる人ができた・・・」そんな会社員の計画を知った同僚は「自分は先に死ぬ人間だから、犯人になってやる」と申し出たのだという。やがて、同僚が「自分が主犯だ」と言い残して息を引き取る。友の思いを背負って、同僚は罪に服し、やがて社会の第一線に戻ってくることを誓うのだった。

【感想など】
家庭にも会社にも居場所を失った男が、ようやく見つけた「守るべきもの」のために、本来の「守るべきもの」であった家族から金を奪おうとする、そんな虚しい事件を描いた一本。一体何故に、この会社員は家族との絆を失ってしまったのか?家族に蔑ろにされる理由が語られてないことが、かえって会社員の不遇さを浮き彫りにするとともに、それが誰の身にも起こりうる悲劇として、視聴者の自己投影性を高めています(アルバムに並んだかつての家族の中睦まじい姿が、さり気なく示されるあたりも秀逸)。

同世代の既婚者にとっては共感を、私のような未婚者にとっては家庭を持つことへの嫌悪感をかき立ててくれる本編ですが、手放しに褒められるレベルとは言えません。特に疑問なのは、特定の刑事を主演とするのでなく、各刑事それぞれの活躍を描くスタイルにしたこと。取り立てて役割のなかった叶や杉はもちろん、各刑事とも見せ場といえるほどのものがなく、散漫な印象になったことは否めません。時田あたりをメインにして、家族への怒り、会社員への共感を前面に押し出したほうが、もっとテーマがはっきりと見えたのではないでしょうか?