特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
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第475話 単身赴任誘拐事件・窓際族の身代金!

2009年07月01日 01時48分14秒 | Weblog
脚本 藤井邦夫、監督 辻理
1986年7月24日放送

【あらすじ】
東京に単身赴任中の会社員が誘拐された。大阪の妻のもとには身代金6千5百万円を要求する電話が入る。大阪府警からの依頼で捜査に乗り出す特命課。
桜井と犬養が勤務先を訪ねたところ、会社員の仕事は「参事」とは名ばかりの閑職で、いわば定年までの飼い殺し。連絡無しに欠勤しても、周囲から気にも留められていなかった。
一方、橘は会社員のもとに派遣されていた家事代行業の女から事情を聞く。女性は留守中に掃除するだけで、会社員とは面識すらないという。だが、女性の態度に不審なものを感じた橘は、その身辺を調べる。女は夫に先立たれ、息子と二人暮しだったが、最近は中年の男が出入しているという。
同じ頃、紅林と時田は大阪の自宅へ。妻や息子、娘の態度から、会社員が家庭にも居場所がなかったことが窺われる。会社員を心配するでもなく、金ばかりを心配する家族の態度に、怒りを隠せない時田。そこへ届けられる宅配便。中身は血の着いた会社員の背広だった。
宅配便の受付先の協力で作成した似顔絵から、容疑者として会社員のかつての同僚が浮上する。再びかかってきた脅迫電話に、妻は思わず同僚の名を口にする。警察の存在を察知した同僚は、開き直ったように正体を明かす。
同僚は会社員と同期の親友だったが、出世争いで敗れたことから会社員を恨むようになり、やがて退職、離婚し、荒れた生活を送るようになっていた。その会社員も、今はエリートコースを外れて窓際族という現状は、皮肉なものだった。
その頃、橘は再び女を訪ねる。女の息子が飼っている金魚を見た橘は、会社員の部屋にも金魚の水槽があったことを思い出す。息子に確かめたところ、金魚は会社員から貰ったものだった。女に問い質したところ、代行会社の規則なので「面識が無い」と嘘をついていたのだが、風邪で寝込んでいた会社員を看病したことを契機に、親しくなったのだという。女が言うには、会社員は新宿で浮浪者となった同僚と再会。心臓病で苦しむ同僚を、無理に入院させたという。叶と杉は同僚の入院先を探し回る。
身代金の受け渡し場所に指定された銀行に赴く会社員の妻。紅林と時田が張り込む中、同僚は電話で身代金を金融ブローカーの口座に振り込むよう指示。連絡を受けた橘らは、金融ブローカーに急行、その社長を尋問する。社長が言うには、「貸した金を返済してもらっただけ」だという。同僚は身代金を金融ブローカーに立て替えさせ、振込先として利用することで、無事に身代金を入手したのだ。社長は先刻まで喫茶店で同僚と一緒だったという。喫茶店に急行した犬養は、同僚が残した薬の封筒を発見。そこから入院先が判明する。だが、同僚は、無理を押して病院を抜け出したため、昏睡状態にあった。同僚の荷物から発見された金額は2千万円のみ。残りは共犯者のもとにあると思われた。
同僚が利用していた私書箱を見張る特命課。そこに現れた共犯者は、なんと会社員本人だった。すべては会社員が企てた狂言だったのだ。再会した当初、同僚は会社員を恨んでいたが、現在の境遇を知って同情し、「俺はこんな惨めな男を恨み続けてきたのか」と涙を流したという。同僚の治療費をまかなうため、そして、女とその息子の暮らしを支えるために、会社員は狂言誘拐を企んだのだ。
特命課の取調べに対し、会社員は動機を語る。「私は女房や子供のために一生懸命働いてきた。少しでも出世し、少しでも多く給料をもらおうと。でも、左遷されたとき、誰もついてきてくれなかった。こんな私でも、必要としてくれる人ができた・・・」そんな会社員の計画を知った同僚は「自分は先に死ぬ人間だから、犯人になってやる」と申し出たのだという。やがて、同僚が「自分が主犯だ」と言い残して息を引き取る。友の思いを背負って、同僚は罪に服し、やがて社会の第一線に戻ってくることを誓うのだった。

【感想など】
家庭にも会社にも居場所を失った男が、ようやく見つけた「守るべきもの」のために、本来の「守るべきもの」であった家族から金を奪おうとする、そんな虚しい事件を描いた一本。一体何故に、この会社員は家族との絆を失ってしまったのか?家族に蔑ろにされる理由が語られてないことが、かえって会社員の不遇さを浮き彫りにするとともに、それが誰の身にも起こりうる悲劇として、視聴者の自己投影性を高めています(アルバムに並んだかつての家族の中睦まじい姿が、さり気なく示されるあたりも秀逸)。

同世代の既婚者にとっては共感を、私のような未婚者にとっては家庭を持つことへの嫌悪感をかき立ててくれる本編ですが、手放しに褒められるレベルとは言えません。特に疑問なのは、特定の刑事を主演とするのでなく、各刑事それぞれの活躍を描くスタイルにしたこと。取り立てて役割のなかった叶や杉はもちろん、各刑事とも見せ場といえるほどのものがなく、散漫な印象になったことは否めません。時田あたりをメインにして、家族への怒り、会社員への共感を前面に押し出したほうが、もっとテーマがはっきりと見えたのではないでしょうか?