特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第360話 哀・弾丸・愛Ⅱ 七人の刑事たち!

2007年11月05日 00時30分23秒 | Weblog
脚本 塙五郎、監督 辻理

容疑者であるマスターの逃走を許したことで、刑事局長やマスコミの批判はさらに強まる。やむなく船村を休養させることを決意する神代。だが、船村はすでに自分の意思で謹慎していた。
その後、マスターは船から海に身を投げ、死体で発見される。一緒に引き上げられたトランクには、1万円札が1枚残るのみ。残りは海に消えたものと見られた。
船村を気遣って自宅を尋ねる叶だが、船村は居留守を使って会おうとしない。代わりに応対する娘に叶が語る。「おやっさんには、いつまでも現場に居て欲しいんです。僕らはみんな、おやっさんを目標にしてるんです」そんな叶の純粋さが、船村には痛々しかった。「歯の浮くようなこと言いやがって。この商売がどんなに嫌なものか、あいつには分かっちゃいないんだ。人の裏側ばっかり覗いているうちに、俺のような嫌なジジィになっちまうんだ」
元警官の警備員を赤ちょうちんに誘い、愚痴をこぼす船村。「私はこの仕事が好きでねぇ、今まで夢中になってやってきた。この仕事だけは誰にも負けないって自信があった、誇りがあったんだ。それを、紙切れ一枚で、もう役に立たねぇっていんだ。そんなもんだったのかなぁ、俺の存在ってのは・・・」船村の言葉に、我が身を思い出したように苦い表情を見せる警備員。「断りゃよかったんですよ。そんな、人をバカにした話・・・」「バカにするなって思った。仕事で見返してやろうと思った。ところがね、かえって決定的なミスをやっちまった。俺はもう役に立たない人間になっちまったと思ったよ・・・」辞意をもらす船村を自宅に誘って飲み直す警備員に、船村も胸襟を開いて打ち解けあう。
一方、桜井らは強盗の恋人を訪ね、金を送ってきたのは共犯のマスターだったと明かす。だが、恋人は「マスターは共犯者の女に分け前を渡すような人間じゃない」と指摘する。また、改めて現場検証を繰り返した結果、神代はマスター以外に銀行内にも共犯がいたはずだと気付く。あの状況で自由に動けたのは、人質だった女行員、そして負傷していた警備員しかいなかった。
警備員を訪れた紅林は、そこに居た船村に驚きを隠せない。「嫌な商売だ。被害者まで疑うなんてね」と、船村もろとも紅林を追い返す警備員。「さすがですね、おやっさん。あの人をマークしてたんでしょう」紅林の言葉に、船村は「情けないことをいうな、あの人は私の友達だ!」と怒りを露にする。
同じ頃、女行員の別れた夫を訪ねた橘は、女行員に別の男がいたことを知る。それは強盗ではなく、もっと年配の男だという。さらに、マスターが船から飛び込む現場を見た女の証言から、第一発見者が年配の男で、自分を「僕」と呼んでいたとの証言を得る。警備員もまた、自分を「僕」と呼んでおり、容疑は深まる。
辞表を胸に抱いた船村が特命課に赴いたとき、捜査会議は佳境を迎えていた。警備員を主犯と断定する紅林の言葉に、真っ向から反論する船村。「あの人はそんな人じゃない。貴様、あたしの目が節穴だって言うのか!」「節穴です!この事件に限っては節穴です!」紅林は、捜査記録にも残らない細かい事件から、警備員と強盗の接点を見出していたのだ。かつて強盗が犯した窃盗事件を扱った際、警備員は強盗の将来を思い、被害者に働きかけて示談にした。以来、強盗は警備員を親のように、神のように慕うようになったという。絶句する船村。そこに橘から電話が入り、女行員の浮気相手が警備員だったと告げる。突然、顔をくしゃくしゃにする船村。その頬を涙が伝っていた。
警備員の自宅に向かう車中で、紅林に向かって「よくやったよ、脱帽だよ」と笑顔を見せる船村。紅林は船村に詫びる。「生意気なことを言って、すみませんでした。みんな、おやっさんに教わってきたことです」無言で応じる船村に、紅林は続けた。「辞めないでください。おやっさんが辞めるなら、自分も辞めます」唇を震わせながらの紅林の言葉を、船村は「バカなこというなよ」と笑い飛ばすしかなかった。
警備員は自宅から行方をくらまし、銃砲店から盗まれたもう一丁の猟銃を所持しているものと思われた。緊急配備を敷く特命課。その間、辞意を固めた船村は刑事局長のもとへ向かうが、その前に神代が現れる。神代は、かつて警備員が警察を辞める際、いかに鮮やかに辞めたかを語る。「だがね、自分の仕事に誇りを持った人間が、そうあっさり辞められるだろうか?私だったらできない。未練たらしい男だからね。俺を何だと思ってやがるって、わめき倒す。奴もそう思ったはず。悔しければそういえばよかった。そうすれば、こんな事件は起こさなかったはずだ・・・」神代が警備員について語る言葉は、そのまま船村に向けた言葉だった。慰留する神代に、船村は語る。「課長、私は年を取った。自信がなくなった。身体のことじゃない、気持ちがボロ雑巾みたいんなんです」船村の肩をつかんで神代が語りかける。「おやっさん!人間、誰しも年をとることから逃れられん。それを認めるには勇気がいる。だがね、年をとらなきゃできんこともあるし、年を取らなきゃわからんこともある」
船村を残して捜査に戻る神代だが、警備員の行方を知るはずの強盗は、いくら締め上げても沈黙を守ったままだった。「喋りませんね。よほど奴を信頼してるんでしょう」と弱音を吐く叶。そこに船村が現れ「私がやります」と尋問を引き受ける。「刑事なんかを信じていいのか?お前みたいなのは一目見りゃあ分かるんだ。誰も信じないって顔をして、誰かを信用したくてたまらねぇんだ。苔の生えた刑事にかかっちゃ、ころりとひっかかる。奴は3千万を独り占めして逃げたぞ。お前の女もつまみ食いしてな」「嘘だ!あの人は、そんな人じゃねぇ!」「お前みたいな奴を見てると反吐が出そうだ!ずっと奴を神様扱いして拝んでろ!」
ついに強盗は吐いた。犯行は警備員が計画したもので、最初からマスターにすべての罪を押し付け殺害する予定だったのだ。強盗の明かした潜伏場所へと出動すべく、銃を携行する刑事たち。だが、船村は差し出される銃を拒み、突入時の気持ちを語った。「あのとき、あたしは最初っから撃ち殺するつもりだった。刑事を辞めろと言われたのがショックで、まだやれるってことを証明したくて、殺すことに夢中になっていた。土壇場でそのことに気がつき、ゾッとした。今、引き金を引いちゃいけないのかって思ったら、拳銃をおろしてしまっていた・・・」そのためらいが生んだ悲劇を知っていてなお、神代は言う。「おやっさん、それでいいんだ。それでいいんだよ」
警備員の潜伏する廃駅跡に出動する特命課。「私は駄目です。大人しくしています」という船村を車に残して、配置に付く刑事たち。遠巻きに銃撃戦が交わされるなか、迷い込んだ少年の姿を認める船村。追い詰められた警備員は、少年を人質に逃走を図る。少年の叫び声と銃声が交錯する。駆けつけた神代以下の刑事らが見たものは、拳銃を構えた船村と、その前に倒れ付す警備員の死体だった。
そして事件は解決し、高杉婦警も順調に回復。己の功績が称えられるなか、船村は決して険しい顔を崩すことはなかった。

何というか、後世に残したい名シーン、名台詞ばかりで、粗筋がいつもの倍以上のボリュームになってしまいました。
これまでも、おやっさん主演話を中心に、刑事という仕事の虚しさ、哀しさを描き続けてきた特捜ですが、今回のように刑事を「必要悪」とまで断じたエピソードは、かつて無かったのではないでしょうか?
「刑事なんてのは屑だ」と自ら語るように、刑事という仕事の醜さを知り尽くしていながら、その仕事に情熱を燃やし続けてきたおやっさん。ときには人の情や信頼を踏みにじってでも、真実に迫らなければならない。ときには銃を手に、誰かの命を奪わねばならない。そうしなければ守れないものがあるならば、自分たちがその汚れ役を引き受けよう。そんな覚悟を誇りとする一方で、そんな汚れ仕事に慣れ切った自分に耐えがたいほどの自己嫌悪を抱く。おやっさんの直面した自己矛盾は、すべての刑事たちが見据えなければならないはずのものであり、だからこそ、己を慕い、己を目標とする若い刑事たちの言葉が、おやっさんの胸を鋭くえぐるのです。
自分を称えられれば称えられるほど、激しい自己嫌悪に苛まれるおやっさん。俺のしてきたことはなんだったのか?人と人との信頼関係を踏みにじり、自分を分かってくれる友達を殺し、そんなことを繰り返す自分に嫌気がさしていながら、なおもその仕事にしがみつく自分が、おやっさんには絶え難かった。しかし、それでもなお、おやっさんには刑事を続けるしかない。なぜなら、それは自分の人生そのものであり、存在そのものなのだから。
自分の醜さを知り尽くしていても、自分を辞めることなどできはしない。人という存在の業の深さを煎じ詰め、凝縮したものが、まさに刑事という仕事に他ならない。そうした視点こそが、特捜を刑事ドラマ=人間ドラマとして、単なるアクションドラマや人情ドラマ、推理ドラマに堕してしまった凡百の刑事ドラマと一線を画する所以ではないでしょうか?
完成度や感動できるという点では、本編を上回る作品は少なくありません。しかし、刑事という仕事の本質にここまで迫ったエピソードは他になく、その意味では、特捜を語る上で、いや、日本の刑事ドラマを語る上で、欠かすことのできない作品として、永遠に語り継がれるべき一本です。是非、一人でも多くの方に視聴いただき、感想を語り合っていただきたいものです。