本を読もう!!VIVA読書!

【絵本から専門書まで】 塾講師が、生徒やご父母におすすめする書籍のご紹介です。

『ミラクル』 辻仁成・著 望月通陽・絵

2006年08月31日 | 児童文学・ライトノベル・子供向け
 

もう一冊、小中学生向けに、すばらしい物語をご紹介して締めくくりましょう。

主人公アルの母親は、アルを産んだ時に亡くなってしまいます。アルの父親シド自身もそれを受け入れられず、アルには“ママは仕事で世界中を回っている” とウソをついてしまいます。そして“雪が降れば「ママ」は帰ってくるんだ”と。

「ママ」を知らないアルは、ジャズピアニストのシドといつも旅をしています。実は、シドは雪の降らない南の地方をめざしているのですが、アルはきっと「ママ」がどこかにいると信じながら、父に付いてゆきます。

そんなアルをあたたかく見守るシドですが、アルの成長とともに、自らのウソに苦しみ、生活も徐々にすさんだものになってしまいます。酒びたりになり、演奏もうまくいかず、もがきます。

ある日、アルは知り合った女の子に、“あなたのお母さんは死んでいて、お父さんはうそをついているんだ” と言われて、父親シドを問い詰めますが、それでも、シドは自分を信じるようにさとします。父の言葉に安心したアルですが…、

翌日の朝、クリスマスの日、朝起きると、その地方に30年ぶりに雪が降っているではありませんか。ママが戻ってくるとはしゃぐアル。八方ふさがりのシド。いったい最後に「ミラクル」奇跡は起こるのでしょうか。

旅を続けながら、絶対に「ママ」 に会えると信じてやまないアルの心の純粋さ、アルを大きな愛で包み込むシドや、アルの “見えない友人”の姿に感動します。

「奇跡とは目に見えるものではなく、心の内部に降る雪のようなものであるかもしれない。それはやがて積もり、春の訪れとともに溶けていく」 すばらしいエンディングを読んだあとに続くこの言葉こそ、本書のメッセージだと気付かされます。

ページごとに挿入されるイラストも、先の不安を暗示しているようだったり、喜び、悲しみを表現しているようだったり、不思議な雰囲気をかもし出し、ストーリーにぴったりだと感じました。

忘れてしまいがちな大切な何かをきっと思い出させてくれる静かな感動のファンタジー。子どもより、むしろ大人に読んでもらいたいなぁと感じる作品です。



http://tokkun.net/jump.htm 



ミラクル

新潮社

詳   細

『ミラクル』辻仁成著
新潮文庫:169P:380円


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いよいよ読書の秋です! (このブログは年中読書ですが(笑))。気合を入れて、良書をさがしておきます。お読みいただきありがとうございました。ブログランキングです。よろしければ、夏の終わりの クリック、お願い致します → にほんブログ村 本ブログへ   


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『ぼくらはみんな生きている』 坪倉優介

2006年08月31日 | ノンフィクション
 

記憶喪失というのは、時々、テレビドラマや小説で取り上げられますが、みなさんのまわりにそういう方がおられるでしょうか。生徒の中には、単語をいつまでも覚えず、ついつい 『おいおい記憶喪失か?!』 なんて叱っちゃいますが、本物の記憶喪失は想像を絶しています。

本書は事故で記憶喪失になってしまった18歳の若者と、その母親の手記です。現実とドラマではかなり違うようです。


バイクで交通事故に遭った筆者が、一命は取りとめたものの、記憶喪失になってしまいます。意識はしっかりとして、会話もぎこちなくできるのですが、友人、恋人、自分の名前、家族すら忘れてしまいます。

それどころか、もっと生理的な、食べること、寝ること、トイレに行くというようなことすら、理解できなくなってしまい、まるで人生をゼロからやり直すかの様子です。そこから家族と本人の想像を絶する苦闘が始まります。本人よりもむしろ母親の手記に心打たれました。(分量としては少ないのですが)

事故などで、体に障害が残ってしまうのも痛々しいのですが、記憶を奪われてしまうというのも同様に残酷です。自分の愛する子どもが自分を他人のような目で見たら、いったいどう感じるのでしょうか。

いかにして記憶を取り戻すのか、記憶喪失と戦いながらも、何とか大学に復学をはたし、最後は立派に染物職人として自立するという、12年間を描き、前向きなエンディングではあるのですが、本当にこんなことがあるのかという驚きの一冊でした。

本人、家族の言葉、姿を通して人間の成長の過程が改めて確かめられます。私が読んだのは単行本で、2001年に出され、現在は文庫本になっておりますが、私はその後の筆者の様子も知りたいですし、母親の手記をまとめたものが、いつか出版されて欲しいとも思います。


子供が読んでも大人が読んでも興味を引かれる内容だと思います。そして、やはりどこまでも、人間というのは社会的な動物であり、社会や家族によって、生かしてもらっているんだな、とか、人間は記憶によって生きているんだなということを痛感しました。



http://tokkun.net/jump.htm 

ぼくらはみんな生きている―18歳ですべての記憶を失くした青年の手記

幻冬舎

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『僕らはみんな生きている』 坪倉優介
幻冬社:229P:520円(文庫) 


P.S. 記憶喪失にあこがれることはありませんか? 人は誰でも、忘れてしまいたい記憶もたくさんあるでしょうが、記憶を選別することはできませんね。そういう記憶を持って生きていくのもまた人間らしいんですね。


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