リカバリー志向でいこう !  

精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

介護うつと認知症

2009年11月10日 | Weblog
介護うつが増えている。
介護者の4人に1人がうつとなるという調査結果もある。
介護地獄という言葉があるくらい、気を休める暇もなく、先も見えない状態で介護をつづけることは大変だ。
地域の出張健康診断(ヘルススクリーニング)などでの診察の場面で介護の苦労話や相談になることも多い。

介護をめぐる心中事件や虐待の報道もまれではなく、病院では兄弟で介護を押し付け合う修羅場なども珍しい光景ではない。

「ディサービス」、「ショートスティ」、「ホームヘルプ、訪問看護、訪問診療と24時間365日の医療の緊急対応。」

これらの3本柱があったとしても家族の心身の負担は相当のものだ。

寝たきりの高齢者も大変ではあるが、認知症がからむともっと大変だ。

神様のようにニコニコと穏やかに惚けて行かれる方もいる。
しかし現役時代威張っていた人ほど妄想、暴言、徘徊など認知症を抱える葛藤が症状として現れてくる。
特に「先生」とよばれていた人は手に負えない。

アルツハイマー型認知症ではその半分に見られるという、「ものとられ妄想」も介護者にはダメージが大きい。
自分で財布など大事なものをしまい、しまったこと自体を忘れてしまい、とられたと周囲の人間を攻撃する。
あろう事か介護の中心となっている人が妄想対象になることが多いから始末に負えない。

それは家族の中での立場の逆転や、世話をされて負い目に感じている心理に起因するものであるから了解は可能なのだが・・。
認知症を抱えた本人と家族の歴史が浮き彫りとなり試される事態になる。

高齢の単独世帯で認知症の初期の段階で各種詐欺にだまされる。
老老介護で暮らしていて、なんとか介護していた側もまた認知症を抱え、いよいよ生活が破綻する。
追いつめられていく家族の状況を見てか見ないでか、認知症を抱える高齢者が自ら食事をとらなくなったりする。
入院して点滴をして、抗うつ薬を使って食べられるようになったはいいが、今度は介護者がうつになる。

そんなケースを目にすることが続いている。

われわれは介護の社会化を目指して介護保険制度をつくってきた。
たしかに高齢者を地域で支える仕組みも昔と比べればはるかに整ってきてはいる。
しかし利用には要介護度に応じた上限もあり、重度障害や認知症を抱える高齢者の一人での生活をささえられるほどの立派な仕組みではない。
要介護度の認定も以前より厳しくなってきている。

居住型の福祉(ケアホーム、グループホームなど)もまだまだ足りない。
80歳まで生きれば15%、85歳まで生きれば30%の方が認知症を抱えることになるのだ。
認知症など非がん患者の集大成である終末期をどう支えるかという経験や覚悟もまだまだ足りない。

労働市場の厳しい時勢、子供世代、孫世代は経済的にも苦しく共働きが普通だ。
親の介護は家族のつとめと、なんとか介護をしていても力及ばず虐待や介護放棄に近い状態になってしまうこともある。

高齢者を地域社会でどう支えればよいのか・・・。

高齢者に関するあらゆる相談をワンストップで相談できる場所をということで包括支援センターを各地に作った。
そこでは地域にニーズがあり足りないサービスを作り出すことすらも期待されている。

介護への需要は大きい。
ディサービスや、ショートスティのできる施設。
訪問系のサービス、グループホームなどの居住福祉はまだまだ足りない。

しかし若い人が介護職をやって家族を養いながら食べていけるだけの収入が得られない。

ここに根本的な矛盾がある。

これから日本はますます貧しくなっていくだろう。
一方でこれから団塊の世代が前期そして後期高齢者となり、社会の中での高齢者の割合はますます増える。
「おひとりさま」で孤独な高齢者も増えてくるだろう。
少ない若者が多くの高齢者を支える構図となる。

増えていく高齢者をどう遇し看送るのか、国全体で真剣に議論することが求められている。

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