リカバリー志向でいこう !  

精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

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「医療にたかるな」をかたる

2013年03月23日 | Weblog
師匠の村上智彦先生の新刊です。やっと読みました。

村上智彦先生の北海道の瀬棚、そして夕張での実践の取り組み記録が主ですが、同時代の地域医療周辺の有り様が存分にかかれています。
財政破綻した街である夕張で変化を拒み責任はとらないのにたかりつづける住民、ウォンツばかりを唱える患者、無能な善人である公務員や政治家、自分の目でものを見ようとしたり、自分の頭でものを考えようとしないマスコミなどとのたたかいいなども存分に触れられています。

叩かれれれば叩かれるほど、相手が大きければ大きいほど、冷静に落ち着いて対処できる村上先生の特性が存分に活かしての活躍ですが、その中に北海道への「愛」を感じました。



医療にたかるな (新潮新書)
村上 智彦
新潮社


この本では「村で病気とたたかう」の一節も引用され、佐久総合病院に息づく若月俊一先生から長先生、永森先生へ至る「医療の民主化」の流れ、自治医科大学系の佐藤元美先生から村上智彦先生に至る「地域づくり」の流れ、そして最近の在宅医療を中心としたケアからキュアへのパラダイムシフトの流れ、などのいくつもの流れがあつまり大きな動きになってきている様子がつたわってきます。
もちろん私もその大きな流れの一端にいると感じています。

そのキーコンセプトは「ささえる医療」ですが、それを実現するには景気が良かった時代なら、儲けたい「民」と、それを管理・サポートする「官」という形で仕組みをつくっていけばよかったのだと思いますが、この不景気のもとでは「公」でやるしかなく、そのような動きは全国で始まっています。
在宅医療を専門職のチームでその動きをITなども活用しておこなうオランダの取り組みなども紹介されていました。
そして地域の文化や住民の価値観にかかわる「ささえる医療」というものは、それぞれの地域で、地元の社会的資源、人的資源などをブリコラージュ(寄せ集めて自分で作る)しながら、試行錯誤して作り上げていくしかないもので、あまり具体的で緻密なモデル化をしないほうがいいのではないかと主張していました。(官僚さん、おねがいしますね。)

「医療は文化なり」というのは若月先生の教えですが、TPPに参加するとそういうものも全て市場原理で破壊されてしまうのかもしれませんね。

たかられるのは医療の宿命かもしれません。
現代において、とりあえず困ったときに駆け込めばなんとかしてくれる場所として認識されているのですから、これはありがたいことです。しかし健康や自分の人生や地域の困りごとをなんでも丸投げさせてはいけません。

しかしこれは精神科での個人相手の精神療法でも言えることですが、クライアントを一方的に甘やかせて依存させる(いったんは全てを引き受けかかえることが必要な時期もありますが)だけではダメで(「退行」しつづけます)、自立を促すために、しっかりとサポートしつつスキルを付与する関わりをつづけた上で、どこかの段階でリミットをセッティングしタイミングよく「つきはなす」ことが必要になります。子育てとおなじですね。
あわせて見えてきたニーズをもとに地域に多様な居場所と出番、サポートの仕組みをつくる活動をしながらですが・・・。
私たちのやっているのはそういう活動で、そういう意味では医療は一方的に与える「サービス」などではなく「愛」をエネルギーに「公」を実現していく社会装置でもあるのだと思います。

ささえる医療へ~地域医療第三世代の必読本

「医師・村上智彦の闘い」

貧困と無知に対するたたかい

2013年03月23日 | Weblog
山本周五郎の「赤ひげ」、黒澤明監督によって映画化もされました。
私はこの映画を学生時代に北海道のとある診療所に泊まりで見学にいったときに夜、泊めてもらった宿でみました。

赤ひげのことば。

「現在われわれにできることで、まずやらなければならないことは、貧困と無知に対するたたかいだ、貧困と無知に勝ってゆくことで、医術の不足を補うほかはない、わかるか」

「それは政治の問題だと云うだろう、誰でもそう云って済ましている、だがこれまで、かって政治が貧困や無知に対してなにかしたことがあるか、貧困だけに限ってもいい、江戸開府このかたでさえ幾千百となく法令が出た、しかしその中に、人間を貧困のままにして置いてはならない、という箇条が一度でも示された例があるか」

「そんなことは徒労だというだろう、おれ自身、これまでやって来たことを思い返してみると、殆ど徒労に終わっているものが多い」

「世の中は絶えず動いている、農、工、商、学問、すべてが休みなく、前へ前へと進んでいる、それについてゆけない者のことなど構ってはいられない、だが、ついてゆけない者はいるのだし、かれらも人間なのだ、いま富栄えている者よりも、貧困と無知のために苦しんでいる者たちのほうこそ、おれは却って人間のもっともらしさを感じ、未来の希望が持てるように思えるのだ」

「赤ひげ」はそうとう社会的な視点ももった医師のようですが、常に弱者の側にたち、地に足をついた実践をわすれてはいません。

日本医師会などが地域医療に貢献した医師に「赤ひげ大賞」なんてのをつくって初の表彰がおこなわれたそうです。

中には佐久の若月俊一先生や夕張の村上智彦先生のようにあえて目立って切り開いていった先生もいるのでしょうが、システムへと昇華できなかったものの、できる事を淡々とやりつづけすき間をうめて個人の努力で地域に貢献し文化をつくってきた医師はたくさんいるのでしょう。
彼らに光をあてるのはいいことだと思いますが、医療の実践を個人レベルの努力に押し付けるのは違うと思います。

赤ひげ [DVD]
クリエーター情報なし
東宝


赤ひげ診療譚 (新潮文庫)
山本 周五郎
新潮社

TPP問題の本質論

2013年03月23日 | Weblog
市場原理によって社会共通資本(医療福祉、教育、環境、農村、諸制度、民主主義・・)が破壊されるのを防がなければなりません。
TPP問題の本質はそういうことです。

TPPで経済優先のルールができれば多国籍大企業は労働者を使い潰し社会共通資本を破壊しながら儲けることができて株主の配当も増やすことができウハウハです。
大手マスコミもTPPの本質をかくしたままTPPは貿易問題、農業問題であるかのように矮小化し、まだ交渉に参加しただけで批准もされていなのにすでに参加が決まったようなムードで「通商新時代」などの連載をはじめTPP礼賛報道、世論の誘導をつづけています。
農業や医療を既得権益として非難しスケープゴートにするつもりでしょう。

最大の反対勢力であるJAはTPPの反対運動を盛んにしていますが、すでに懐柔されつつあり、結局は自民党議員と結託してTPP参加後の補償を最大化することに主戦場をうつしているように思えます。
農村に足場をおく自民党議員のほとんどがTPP反対を訴えながら全く本気をみせないのもわかりますね。



しかしこれでは、ウルグアイ・ラウンドのときと同じく補償はたんまりもらって、農業はますます弱体化がすすみ、自給率は下がり不要不急の箱物ばかりが増える。
補償をうけた農家はいいのかもしれませんが・・。まじめに農業をやりたい農家にはたまりません。
日本の農業が大打撃を受けることが分かった上でTPPに参加して、農家の減収分は税金で補填するなど、まじめに農業をやっている農家だけでなく納税者すべてをバカにしてる話です。

将来の国民にツケを先送りする旧態依然の自民党のいままでのやり方と変わりません。
結果、格差が広がり社会共通資本が壊され国家財政が失われ困るのは一般国民、将来の国民、特に社会的弱者といわれる人たちです。

何のための国家なのでしょうか?
国民はもっと賢くならねばなりません。

が、務台俊介議員の言うように保険医療機関がしめしあわせてストライキをするくらいのことをしないと国民は気づかないのかもしれません。
医療者はこの危機をどのように伝えていけるでしょうか?

でも想像してみるに医療機関のストライキは難しいなぁ。
患者さんを人質にとられているわけで、病棟や救急外来は人道的に閉められないし、通常外来も1日休みとるだけでも前後の週は激混みで大変なのに・・。
足並みを揃えてというのは相当大変そうだが、7月の参議院選挙前に日を決めて一斉にやるというのはアピールの意味合いはあるかも・・・。