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精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

「医師・村上智彦の闘い」

2010年05月02日 | Weblog

医師・村上智彦の闘い―夕張希望のまちづくりへ

川本 敏郎

時事通信出版局

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「医師・村上智彦の闘い(夕張希望のまちづくりへ)」という本を読んだ。

ジャーナリストの川本敏郎氏が村上智彦先生とその仲間たちの軌跡を描いたルポルタージュだ。

ご存知のように村上智彦先生は夕張という財政破綻した街で、自治体の限界、住民のエゴ、地域間格差、少子高齢化などと闘い挑戦し続ける村上先生は広く知られるようになった当代のエースである。(俺的平成の龍馬ランキングでは毎年上位をキープしつづけている。)

そんな村上智彦先生は自分にとってメンターでありロールモデル(の一人)であった。
北海道で進路に悩む医学生だったころ、地域での診療所医療というジャンルを知り、医学生と言う立場を利用していろいろなツテをつかってあちこちの診療所に見学に出かけた。
北海道地域医療振興財団という組織の企画するインターンシップでたまたま配属されたのが、チーム村上が作り上げつつあった国保瀬棚診療所であった。

ちょうど介護保険制度が始まり、医療と福祉の連携が行われるようになってきたころで、コメディカルや行政の人も含め、活き活きと働いている様子とチームワークのよさ、それから村上先生のフットワークの軽さに驚いた。

自分はそんな医療を目の当たりにし、地域医療にあこがれ、目標として来た。
そして佐久総合病院で初期研修にはいる前にもう一度瀬棚をおとづれたり、自分の能力や進路のことで挫折しかけた時に励まされたり節目節目で元気をもらっている。

メディアの使い方が抜群の村上先生たちのその後の活躍(肺炎球菌ワクチンの助成や、合併に伴う行政との葛藤と別れ、それから夕張での挑戦の様子)はテレビの特集番組やさまざまな記事、医療者のネットワークから絶えず聞こえてきた。

村上先生たちの活躍は自分の医師としての成長の時期とも重なっており、本の中には知っている人もたくさんでてきて面白く読むことが出来た。特に瀬棚を去るくだり、それから夕張へ行くくだり・・・。このあたりはどんな小説よりも面白かった。

この本では村上先生の師匠筋にあたる北海道の厚岸病院で長年働かれたあと自治医科大学地域医療学講座の教授となられた五十嵐正紘先生や、藤沢町民病院の佐藤元美先生のことについても詳しく述べられている。(お得な本である。)
自分もこのお二方とは講演会などでお話を聴く機会もあり、その著作や、その弟子筋の人たちの行動を取り込むことで自分の中にもしっかり取り込まれている。

自分も北海道に戻り地域医療をやるつもりだったが、縁あって信州にとどまり精神医療の方へ軸足を移している。
しかし「地域づくり、皆が生きていてよかったと思える社会づくり。」という目標では、まったく同じ方向を向いていると信じている。

村上智彦先生は官に頼らずわずか2年で最先端の医療福祉連携モデルをつくったことが評価されて、昨年第18回の若月賞を受診した。自分にとっては若月先生につらなる師匠筋(主に佐久病院関係)と、村上先生の師匠筋(主に自治医科大学関係)の2つの師匠筋が重なった瞬間だ。

そしてそのときの授賞者の二人、村上智彦先生と湯浅誠さん(なんと俺的平成の龍馬ランキングのトップ2!)が交流会の会場で「いる場所はちがうけど、同じことやっているんだよな。」と話していたのを聞き勇気づけられた。

医師・村上智彦が戦って来たものは何だろう。

若月俊一が佐久に来た頃、住民は医療の利用の仕方がわからず、「気づかず型」「がまん型」の潜在疾病が問題になった。そして、だれもが医療にかかれるように国民健康保険ができた。感染症や癌など医療が絶大な効果をあげてきた。
まさに「村でびょうきとたたかう」であった。

しかし人々は長生きするようになり、難病や老化に基づく疾患、治らない疾患が主になった。
保険や医療があるのがあたりまえになり、幻想をあたえてきたツケが来て、住民は医療に依存するようになった。
老いや死や障害はあってはならないものとして忌み嫌われた。

そんな状態のまま高齢社会を迎え、病気から障害へ、たたかう医療から支える医療へ医療の主戦場が移りキュアからケアへのパラダイムシフトが急務となった。
地域医療とは早川一光先生の言葉を借りると「住民から知らず知らずのうちに取り上げてしまった医療を住民のもとに返す運動」だ。

その運動は地域づくりの運動や、公を大切にする心を取り戻す運動にも繋がる。
その大きな流れの中に私たちはいる。

この本に書かれていることはそんな大きな流れの中の、ある一人の男を中心にしたノンフィクションである。

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1 コメント

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Unknown (池田)
2015-08-02 01:51:33
黒岩貞夫→黒岩卓夫
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