リカバリー志向でいこう !  

精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

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精神障害者を支える病院と町の合同カンファレンス

2011年09月28日 | Weblog
病院と町の支援者の初の合同のカンファレンスが開催された。
病院側からは多職種のスタッフ、町からも福祉課や社協の職員、保健師などが参加。

病院が主催したテーマを絞った勉強会はこれまでに開催されたことはあったが、このような形でのカンファレンスははじめて。



「地域社会はまだまだ偏見が強く精神障害者を受け入れようとしてくれない。」「病院は大変で何するか分からない危険な人を無理に退院させようとする。」と言い合っても仕方がない。
お互いの顏の見える日常的なコミュニケーションと正確な情報交換がなければ、病院側は「地域は偏見が強いという偏見」から脱せられないし、地域側は「精神障害者は何するかわからないので怖いので退院させないでほしい。」というようになってしまうのは当然だ。

これでは何も変わらない。

「精神障害者」、「病院」、「地域」という漠然とした言葉では何も語れない。
「精神障害」といっても様々であり「障害」は、それぞれの当事者の個性的で歴史のある個人の一部をあらわすファクターでしかない。
そして支援者だけが精神障害をもちつつ地位で暮らす方のもとへ単独で訪問していくだけではなく、その人の行動範囲に出会う可能性のある、民生委員、近所の人、よく行く商店の人、病院職員・・・・などなどの理解と支援を広げ見守り型の支援をつくっていかなくてはならない。

また「地域」「病院」といってもいろんな考えや思いをもった個人の集合体だ。
まずは病院と地域の現場の支援者がケースワーカーのみを通じてやりとりするだけではなく、直接的にお互いに顏の見える関係になろう。
重度の精神障害を持つ方が地域の中で暮らしていく体制をつくるために地域に何が足りないのか?どのような支援が必要なのか?
困難ケースの検討などを通じて、精神障害の事やお互いの役割に関する理解を深めていこうというのがねらいだ。

高齢社会となり圧倒的に多い認知症に関しては、やっとそのような動きは広がってきており飯綱町など認知症の地域ケアで有名な地域も増えて来ている。
今後は発達障害や統合失調症などへの理解と支援もそれと同様に広がってほしい。

今回のケースは20~30年前ならずっと入院していたであろうくらいの重度の精神障害の方で、暴力や自傷行為などで何度も入院したこともある方である。
人の好き嫌いが激しくコミュニケーションも難しく自閉的ではあるが、なんとか自宅で生活されており日中は一人でゲームなどをして生活している。
ディケアにも馴染めず、町を歩くと、そのいでたちからどうしても目立ってしまい、子どもに危害を加えないかなどと怖がられ警察に通報されたりということもあった。
保健師さんも訪問をつづけ、メッセージをのこしたりして関係を作るのに苦労したそうだが、あるきっかけで話しが出来るようになった。
主治医や病棟看護師、ディケアのケースワーカなども数年間にわたり、本人の好むものを持っていったり、一緒に買い物にいったりと日参し、支援も受け入れてくれるようになり、支援者が訪ねると家に入れてくれる事も増えてきた。持続注射製剤も受け入れてくれるようになり、落ち着いてすぐ競るようになって来た。
ケア会議には民生委員さんも参加してくれるようになるなど少しずつではあるが状況は変化してきている。

ざっくばらんな意見交換ということで、今回のカンファレンスでは

「正直、怖いと思っていました。」
「子ども達に危害がくわわらないかと・・。」
「火をだしたり、何かあったらどうするのか?」
「本人の希望は?」
「家族の思いと、周囲の支援者や住人の思いにギャップがあるのでは?」
「家族への支援も必要なのでは?」
「小中学校で当事者が語る「心のバリアフリー事業」のような取り組みはないのか?」

などという声も聞かれた。

精神障害者とは「支援を受けること自体に、支援が必要な人」である。
まず、「支援を受け入れてもらえる関係になること。」、「そして一人で抱え込まず、チームで動くことができること。」
それが対人援助に関して素人と対人援助のプロとの違いである。
大変な人ほど、その人を通じて、ケア会議などでいろんな人が関わり繋がれる。

今回は病院が主催・企画したが、次回は町が主催して今後も年に3~4回、このような集まりを継続的に開催していこうということになった。
できたら、松川村や大町市、生坂村、安曇野市など近隣の市町村も合同で、ミニレクチャー、ケース検討、オープンディスカッション、アフターの4本立てで・・・。

佐久地域精神保健福祉関係者懇親会(これを母体にグループホームや作業所などを多数運営するNPOが産まれた)や佐久地域認知症老人を支える連絡会のように定期的な勉強会と飲み会を開催したり、メーリングリストをつくるなどに発展させていきたい。

ケア会議の技術
野中猛 他
中央法規出版