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精神科医師のブログ。
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発達障害者支援の現状(いま)

2011年09月10日 | Weblog
2011年9月3日に筑北村「とくら」で恒例の信州精神医療交流会が開催された。

これは長野県内の病院や精神科診療所医師や看護師、行政の保健師、施設の職員など現場で精神医療を実践している人たちを中心に信州精神医療交流会という30年間続いている集まりである。
毎年2月と9月に年2回ほどその時々のテーマで集まり勉強会や近況報告や情報交換をしている。第2部、食事会(飲み会)と第3部(宿泊、飲み会)まである。(次回は2012年2月25日、安曇野ビレッジで予定。スピーカー、テーマ、参加者募集)
毎回楽しみに参加している常連メンバーもいれば新しく参加される人もいる。

職域や職種にかかわらず精神医療福祉に関わる人ならだれでも参加できるゆるい集まりだ。

実は精神医療の周辺には職種、職域ごと、テーマごとでこういった小さな勉強会、交流会というのは実に多い。
このような場をもちグループスーパーバイズを続けていないと熱い想いはあっても理不尽な事も多い現場で燃え尽きてしまって続けていけないからというのもあるからだろうか・・。

今回はのテーマとして、「発達障がいへの支援」にしたいという希望があり、スピーカーとして安曇野市穂高で「ふりはた子どもの輝き相談所」の降旗志郎、多鶴子先生ご夫妻にお願いした。
実は当初は長野県の行政組織の中で働いていらっしゃる日詰正文先生にスピーカーをお願いしていたのだが、都合で来られなくなったので、降旗先生ご夫妻に急遽お声がけしたところ快くお引き受けいただいたという経緯がある。
(参考エントリー:発達障害親子ディキャンプ


降旗志郎先生、多鶴子先生は日常の診療でも患者さんのことなどでもお世話になっている先生だ。
警察でのカウンリングや、県立こども病院でのリハビリテーション、カウンセリングに携わられ、大学での教育、不登校、非行の少年のカウンセリングに関わる一方で、信州発達障害研究会、高機能広汎性発達障害の会などをコーディネイトしてこられた。
2000年からこども病院を独立され、安曇野市穂高に「ふりはた子どもの輝き相談所」を開設されてそこを拠点に活動されている。
臨床心理士というと個人療法が中心と言うイメージがあったが、それだけにとどまらず社会やシステムに対しても働きかけを積極的に続けているところがすばらしい。

今回のサブタイトルは「マスコミの協力と大いなるフットワークと少々のヘッドワークと打出の小槌」。

降旗先生は実際の現場で感じた問題意識を解決すべく、コミュニティ心理学の考えをもとに、上位システム(発達障害支援法などの成立、教育制度への働きかけ)、中位システム(人材育成、啓発活動)、下位システム(すべての子供に介入に寄り添う、子育て支援、スクールカウンセリング、SST、親への集団カウンセリング)全てにバランスよく活動をおこなっている。
幼小の連携、小中の連携は徐々にできるようになってきているが、中高の連携などはまだまだこれからだという。
スペシャルな発達特性を持つ子の教育や職業選択は、幅広くいろいろな選択肢を持たせて進学してから絞り込んでいく(ボトムアップ、ステップアップ方式)よりは、最低限のソーシャルスキルを身につけ、支援があれば嗜好や適正に応じた将来の職業を想定してそれから逆算して必要なスキルを身につけていくような考え方(トップダウン、バックキャスティング方式)の方が上手くいくという事だ。
そうしないとPDD特有の高い能力がつぶされてしまう。
これはストレングスに着目した障害者就労支援のIPS方式に通じる考え方といえるだろう。

新聞社などのマスコミも巻き込み、予算を集めて本を配って啓発したり、定期的に勉強会を開催したり、塩尻市で全ての子供対象にモデル的に介入し個別教育を検討したり、政治へも切り込んでいったり、実際に当事者と親の会を組織し継続的に活動してこられたりまさに地道で着実な「実践」を続けてこられその成果も次々と出始めている。

私も何回も参加させていただいた事のある信州発達障害研究会はもうすぐ100回を迎える。
全国で様々な実践をされている講師を招き、毎回、当事者、当事者家族、教育関係者、医療関係者などが多数参加している。

いろんな人を巻き込んで世の中を動かしていくという点ではまさに運動だし、どんな人でも参加し発現し生きていける場を作っているという点ではまさに活動だと思った。

また多鶴子先生は理事としてNPO「パルパル中南信親子お楽しみ会」を主催、運営されてきた。
私も臨床で発達障害の方の支援に関わるようになり、個人レベルで発達障害の支援をすることの限界を感じていたので昨年活動を見学させていただいた。
(参考エントリー:アスペルガーの会(通称パルパル)へ参加

アスペルガー症候群、高機能広汎性発達障害の子どもを対象とし、だいたい月に1回(年10回)開催され、当事者に1対1で学生などのボランティアがつき体操や料理などの活動をし対人関係やソーシャルスキルを学び、その間に親にはグループカウンセリングをおこなう。
当事者や家族にとって知識やスキルを身につけ仲間意識をそだて心の居場所になっていた。
大学の教員や保母、医療職、現場の教師なども参加し繋がりを増やし技術や知識を共有し広める場にもなっていた。
ニーズに応えるために8年間にわたり様々な活動をしてきたこの団体も公的な支援の乏しさ、運営の負担、新たな課題などに対して対応しきれなくなり安定した運営が困難となった事で残念ながら今年一旦解散することにしたそうだ。
当初は小さな子供だった参加者が年を重ねるに連れて大きくなり、それにともない就労や高等教育などの新しい課題もでてきた。
助成金も得るためには新規のメニューを企画する必要が増えており、それにともなう事務や運営の苦労も多かったようだ。

発達障害の家族や当事者の集まりというのは、他にも松本や大町、塩尻などでもあり、組織されるようになっているがなかなか続かない。
これは知的障害の親が覚悟を決めて子供が小さい時から集まり活動するのに対して、広汎生発達障害は発達がアンバランスで社会性の障害もかかえ、その親も集団での活動が苦手な事も多いこともあるからだろう。
統合失調症や双極性障害など精神病の親も、子供がまさに社会にでていこうとする思春期に発症する疾病、障害であるためになかなか家族の集まりなどの組織は難しい。
本当はこういったところに医療や教育職の専門家や公的セクターの人が積極的に支援してもり立てていかなくてはならないのだろうが・・。
小さな組織を運営していくことの苦労は自分もNPOの「ほたか野の花」に少しではあるが関わらせていただいているので、その大変さは何となく分かる。会費や助成金など資金面での苦労。医療や教育分野の学生などのボランティアスタッフに年間通じて集めて参加してもらうことの苦労、多くは理事長の熱意で運営され、一人に負担がかかり、その理事長が燃え尽きると続けられなくなるというNPOは多いようだ。

精神科医療の現場からは、発達障害という視点がなかった時代から、徐々にそのような見方もされるようになってきた歴史的な経緯や、孫や親戚の子どももそうだと言われた、自分もそうかもしれない、教育現場での温度差もあり教員も病んでいる人も多い、医療のスタッフにも発達障害をもちながら働いている人もいる、などなど様々な意見も出た。

最近に也発達障害が増えて来たと言われる理由として、発達障害という見方が広がって来たということと、幼少時からソーシャルスキルを身につける場も減っている事、第一次産業や、自営業、製造業などの職人的な仕事が減り、高機能自閉症などの発達特性の人には生きづらい世の中になって来た事もあるだろうという。

しかしディスカッションを通じて職種や時代はことなっても個人に丁寧に寄り添いつつ、一方で社会にも働きかけるという臨床のスタンスは変わらないのだと感じた。

発達障害の知識や支援技術も定まって来た。それぞれの発達特性に応じた教育や医療、支援がなされ、それぞれの才能をめいいっぱい開花させることのできるようにしたい。
ていねいな教育で二次障害や非行、犯罪に走る子どもが減り、特殊な才能が見いだされて社会で活躍できる。
それは公の利益にもかなう事だ。
そのためには教育や医療にはもっともっとお金もエネルギーをかけるべきだろう。しっかり投資をすればもとのとれる分野だ。
これらのことをチームワーク、フットワーク、ネットワークで実現していきたいとおもった。