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大嘘だらけの食料自給率

2011年01月13日 | ブック・レビュー
『日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率』講談社+α新書(880円)という本を読んだ。著者は月刊「農業経営者」副編集長の浅川芳裕氏である。まさに目からウロコ、食料自給率について「常識」と喧伝されていたことが大ウソだったということが、よく分かった。

今までの「常識」とは何か。それは農林水産省のHPなどで詳しく紹介されている。《日本のカロリーベースの食料自給率は、昭和40年度の73%から大きく低下しております》《日本のカロリーベース総合食料自給率は最新値(平成21年度概算値)で40%です》《先進国と比べると、アメリカ124%、フランス111%、ドイツ80%、英国65%となっており、我が国の食料自給率(カロリーベース)は先進国の中で最低の水準となっています》。

民主党政権は「(カロリーベースの)食料自給率60%を」と主張していて、先日も「食料自給率60%へ意欲 菅首相、遅ればせながらコメ農家を視察」という記事が産経新聞に出ていた(MSN産経ニュース10.12.12)。農水省は「料理自給率計算ソフト」なる代物まで用意している。これで計算すると、おせち料理の自給率は12%~57%(平均29%)なのだそうだ(フジサンケイビジネスアイ09.12.30付「伊達巻き19%、鶏みそ松風焼き17%…低い「おせち」の自給率)。

では「カロリーベース総合食料自給率」とは何か。《食料の重さは、米、野菜、魚、どれをとっても重さが異なります。重さが異なる全ての食料を足し合わせ計算するために、その食料に含まれるカロリーを用いて計算した自給率の値を「カロリーベース総合食料自給率」といいます。カロリーベース自給率の場合、畜産物には、それぞれの飼料自給率がかけられて計算されます。》。

農業経営者 2011年1月号(179号)
 
農業技術通信社

《日本においては戦後、食生活の洋風化が急速に進んだという特徴があり、この急激な変化が食料自給率を引き下げてきた大きな要因となっています。日本では昔から主食(ごはん)を中心とした食生活が行われてきましたが、戦後、副食(おかず)の割合が増え、中でも特に畜産物(肉、乳製品、卵など)や油脂の消費が増えてきました。自給率の高い米の消費が減り、自給率の低い畜産物や油脂の消費が増えてきたことにより、食料全体の自給率が低下してきたのです》《日本国内にとどまらず、世界規模で食料問題がますます深刻化する中、国産農産物の消費拡大は食料自給率向上を実現する最も有用な手段であると考えられてきています》。

つまり農林水産省は「先進国で最低という自給率を高めないと、ヤバいぞ」「だから自給率の高い米をもっと食べよう」「日本の農家と農業を守ろう」と叫んでいるのである。しかし、どうも実感がわかない。スーパーに行って店頭に並んでいる食料品を見ても、国産が4割なんてことは、ありえない。高関税で保護されている米はもちろんとして、野菜も果物も、ほぼすべて国産だ。肉だって魚だって、国産がほとんどだ…。

そこで「カロリーベース」というトリックに気がつく。カロリーの低い野菜や果物をいくら自給しても、カロリーベースでは自給率にほとんどカウントされないのである。高齢化が進み、また健康が志向される日本では、高カロリーの食材より、カロリーの低い(ヘルシーな)野菜や果物などのニーズが高くなる。そんなニーズに合わせて第一次産業を野菜や果物にシフトさせると、カロリーベースの自給率がどんどん低くなるなんて、おかしいではないか。

めざましごはん CM MOVIE(石川プロ編)


畜産品にしても、トリックがある。農水省は「カロリーベース自給率の場合、畜産物には、それぞれの飼料自給率がかけられて計算されます」とさらりと書き流しているが、これはつまり「海外から輸入したエサを食べて育った(=飼料を自給していない)家畜は、カロリーベース自給率から除外しますよ」ということだ。飼料用のトウモロコシなんて、ほとんど輸入しているではないか。カロリーの高い畜産物も、こうやって巧妙にカウントから除外しているのである。

トヨタが、日本人マネージャーのいる日本の工場で、日本人労働者を雇って国産車を作った。しかし「自動車に使われている鉄もアルミも合成樹脂(=石油製品)も燃料のガソリンも、すべて輸入品だから、これは国産車ではない」と言っているに等しいのである。こんないい加減な農水省のCMに引っ張り出された石川遼くんが、可哀想だ。

なお、世界中でカロリーベースで食料自給率を算定しているのは、日本と、日本をマネて算定している韓国だけである(しかも韓国は、カロリーベース自給率の向上を目標にしているわけではない)。国際標準は「生産額ベース総合食料自給率」の方である。《ちなみに、日本の生産額ベース総合食料自給率は最新値(平成21年度概算値)で70%です》(農水省のHP)。これは主要先進国のなかで、3位の高さである(1位アメリカ、2位フランス。4位ドイツ、5位イギリス)。

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)
浅川 芳裕
講談社

ぼやきはこの程度にして、本書の中身に入る。版元(講談社BOOK倶楽部)の内容紹介によると《年生産額8兆円はアメリカに次ぐ先進国第2位 食糧危機と農家弱者論は農水省によるでっち上げ! 生産高――ネギ世界1位、キャベツ世界5位、コメ世界10位!7%の超優良農家が全農産物の60%を産出!!》

《自給率が示す数字と一般的な感覚がかけ離れているのは、農水省が意図的に自給率を低く見せて、国民に食に対する危機感を抱かせようとしているからである。では、なぜそんなことをするのか。端的にいうと、窮乏する農家、飢える国民のイメージを演出し続けなければならないほど、農水省の果たすべき仕事がなくなっているからだ。そして、どうすればラクをして儲けられるか、いかにして省や天下り先の利益を確保するかという自己保身的な考え方で、農水省が農業政策を取り仕切っているからである。農水省幹部の頭には、国民の食を守るという使命感などまるでない》。

《すべては農水省の利益のために/「世界最大の食料輸入国」の嘘/現実に即した自給率は高水準/民主党が推進する農業衰退化計画/事故米問題で見えた農水省の陰謀/消費者不在のバター利権/大幅な増産に成功した日本農業/「農業人口減=農業衰退」の幻想/「農業は成長産業」が世界の常識/大きな可能性を秘めた農産物輸出》。

WEB本の雑誌(本の雑誌社と博報堂が管理・運営)の「BOOK STAND」によると《「日本は食料自給率が低い」「日々消費されるほとんどの食料を、日本は輸入で補っている」「近い将来、世界で食料が奪い合いになるのでは」 ここ数年、日本農業の競争力の低下が問題視されています。ところが、『日本は世界5位の農業大国』の著者・浅川芳裕氏によれば、実は日本は世界で 5番目の農業大国なのだそうです。農水省が発表している日本の農業の生産額は8兆円。世界全体で見ても、この生産額は中国、アメリカ、インド、ブラジルに次いで5位。最近、中国野菜など海外輸入モノの野菜がクローズアップされがちですが、実はそれも全体の10%程度。重量換算での自給率は80%を超えているそうです》。

めざましごはん CM MOVIE(セリフのリレー編15秒)

 
《では、なぜ日本の食料自給率は低いと言われてしまうのでしょう。それは、日本の農水省が提示している「食料自給率」がカロリーベースで計算されているから。現在、農水省が発表しているカロリーベースでの日本の食料自給率は41%。農水省は2015年までにこの自給率を45%までに引き上げようと提唱しています》。

《問題なのは、このカロリーベースの自給率が国民1人1日当たりの国産供給カロリーを1人1日当たりの全供給カロリーで割って算出されている点です。全供給カロリーとは、実際に消費しているものではなくて流通に出回った食品すべてを計算したもの。つまりコンビニやスーパー、ファーストフード、レストランなどで毎日廃棄され、誰の胃袋にもおさまっていない大量の食品も含めて「消費されたカロリー」として計算されているということ》。
 
《この供給カロリーは2573キロカロリーとされていますが、実際、データで見る日本人の1日の摂取カロリーは平均1905キロカロリー。この差は実に 700キロカロリー近くあります。この実際の摂取カロリーで計算すれば自給率は54%。実は農水省の掲げる自給率目標値の45%を楽々クリアしているのです》。

本書によれば、農水省がわざわざ自給率を低く発表し、国民の不安を煽るのは《自給率政策によって、あたかも農水省が国民を「食わせてやっている」かのようなイメージが実現できるからだ。その結果、統制経済的で発展途上国型の供給者論理を正当化し、農水省予算の維持、拡大を図っている》というのだ。

めざましごはん CM 松浦亜弥


日刊サイゾー」のブックレビューには《自給率向上政策の目玉とし掲げている「戸別所得補填制度」。これは「コメや小麦、大豆など自給率向上に寄与し、販売価格が生産費を下回る農作物を作っている農家に、その差額を補填する」制度だが、ここでいう「差額」とは赤字額のことで、「補填」に使われるのは約1兆円の税金だ。要するに同制度は、農家に黒字を出す努力を放棄させ、赤字を推奨する「農業の衰退化政策」にほかならず、税金のバラマキですらない。農家は弱くなればなるほど政治の力を必要とし、政府と農水省の影響力は担保される》。

《しかし、これは著者に言わせれば、「自給率」という呪縛が解けたとき、政治・行政主導によらない、自律した農業が実現するということでもある。そして、自給率に縛られているいまなお〈国内の農業生産額はおよそ八兆円。これは世界五位、先進国に限れば米国に次ぐ二位である〉。さらに、農業人口の減少が叫ばれているにもかかわらず、生産量は着実に増加しているという。つまり農業者一人当たりの生産性が飛躍的に向上したわけだ。といった具合に、本書は農政を批判するだけに止まらず、ポジティブな視座も与えてくれる。日本の農業や食料安全保障を考えるうえで、目からウロコの一冊になるだろう。(文=須藤輝)》

最近になって、農水省の食料自給率を高めようとする政策について、疑問の声が出始めている。勝間和代も「食料自給率、正しい目標設定を」と問題を提起している。Wikipedia「食料自給率」には《経済学者の野口悠紀雄は、食料自給率の向上と言う政策は経済学的には無意味である上、そもそも現代日本農業では原油が絶対的に必要であり、エネルギー自給率が4%しかないのに、カロリーベースの自給率に政策的な意味など持ち得ないとする。そしてこの政策は高い関税率を正当化するための詭弁であり、それにまんまと乗せられている人は、「誠に愚か」と酷評している》とある。

本書の最終章で浅川氏は《国際的に自給率が重要視されないのは、基本食料であっても互恵貿易が成立し、農業が加工産業に立脚しているからだ。それなのに日本は、「日本人だけが自給自足して生き残れればいい」ともとれる国粋主義的な政策によって、国民、農業、食産業界すべての実益が失われている》と書いている。

長い間「(カロリーベースの)食料自給率が低いのは、大問題だ。何とかしなければエラいことになる」などというまやかしに載せられていた私が、愚かだった。「食」に関心のある皆さん、この本は必読ですよ!

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3 コメント

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再び・・ (おぜん)
2011-01-13 09:56:12
おはようございます。

今朝もコメントしてしまいました。。。

この本、ちょっと面白い。
カロリーベースって、ホントよくわからないんです。

米農家の赤字分を補填するのも、理解できません。一生懸命、美味しいお米を作ろうとする意欲が削がれるようで・・。
それと、なんでもお米っていうのも・・。
米粉のことです。
パンもピザも・・その他、色んなものに米粉を使うことがいいように言われています。
自給率にも繋がるし、しいてはエコだ、とか。
小麦粉は輸入してる量が多いので、どうしてもフードマイレージがかかってきてしまいす。

でも、本来の「味」という点においてはどうでしょう?パンにはパンの味、ピザにはピザの味があると思います。これも考え方、価値観しだいなので、なんとも強くは言えませんが・・。
私は、昨日も書きましたが、そのもの本来の味を大切にしたいと思っています。

本当はお米が主食になる家庭料理を食べましょうということが、大事なんじゃないかしら。。
目から鱗 (朱雀酒)
2011-01-13 22:32:53
カロリーベースという評価には、そのような問題点があったのですね。
仕事柄、何に対しても批判的に見る方で、特に食糧安保など「安保」と名の付くものには敏感な方なのに、この問題はノーマークでした。
またしても官僚にしてやられたという感じです。この観点を多くの人に知っていただきたいですね。ご指摘ありがとうございます。
プロパガンダ (tetsuda)
2011-01-14 06:57:29
おぜんさん、朱雀酒さん、コメント有り難うございました。

> 米農家の赤字分を補填するのも、理解できません。一生懸命、
> 美味しいお米を作ろうとする意欲が削がれるようで…。
> それと、なんでもお米っていうのも…。米粉のことです。

米粉のPRも、米消費を増やそうという農水省の政策の一環でしょう。パンやピザには、小麦粉の方が合うと思います。ちなみに米の関税率は約800%です。

> 本当はお米が主食になる家庭料理を食べましょう
> ということが、大事なんじゃないかしら。。

はい、全くその通りです。

> 仕事柄、何に対しても批判的に見る方で、特に食糧安保など「安保」
> と名の付くものには敏感な方なのに、この問題はノーマークでした。

「カロリーベースの自給率を上げないとヤバい」と思いこんでいる人は多いです。本書のことを、ぜひ口コミで広めていただきたいと思います。

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