tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

観光地奈良の勝ち残り戦略(16)「21世紀の観光戦略」が破綻!?

2008年07月27日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
7/22(火)、発売を心待ちにしていた国土交通省編『観光白書(平成20年版)』を梅田の大型書店で入手した。「報道発表は6/6だったのに、なぜまだ発売されないのか」と疑問に思い、国交省に問い合わせたが「今年は少し手間取っていまして、7/23頃には書店に並ぶと思います」とのことだったが、その通りだった。奥書の発行日が7/7だったのだけは、納得できないのだが。

早速、帰りの近鉄電車の中で、一番気になっていた項目を探し当てた。07(平成19)年の奈良県の延べ宿泊者数は117万人と、全国最下位だったのだ。先月からの報道で聞いてはいたが、A4版の白書で、カラーの棒グラフになって動かぬ証拠を突きつけられると、やはりガッカリする。ちなみにトップの東京都は3436万人と、奈良県の約30倍である。

ガッカリしたのは、全国最下位だったからではない。これで、県が策定した「21世紀の観光戦略」が破綻の危機に瀕するからだ。
※「21世紀の観光戦略」(PDF)
http://www.pref.nara.jp/kanko/senryaku.pdf

「21世紀の観光戦略」は柿本知事時代、当時の県観光課(企画部観光交流局)が延べ21名もの有識者を集めて「県観光産業活性化推進会議」を組織し、鳴り物入りで作り上げた観光基本計画である。05年10月に発表され、当時は《県が遷都1300年観光戦略 2010年目標、宿泊客1.5倍に》《県観光課は「民間活力を生かし、観光を基軸とする新しい奈良を創造したい」としている》(読売新聞奈良版 05.11.20付)と、大々的に報道された。現在の滞在戦略室(企画部観光交流局)の活動も、「2010年の宿泊者数を500万人に」というこの計画がベースになっている。
http://www.pref.nara.jp/koryu/taizai/

この計画書の戦略目標は《泊まる、「奈良」。じっくり楽しむ~日本文化の源流・「本物」を五感で堪能する~》で、これを実現するための「2010年目標値」として

1.宿泊者数 500万人(約1.5倍)  …331万人(2003年)
2.外国人観光客 100万人(約4倍)… 26万人(2003年)
3.経済波及効果 25%増加(2003年比)

という3つの数字が掲げられていた。つまり「泊まる奈良」という目標の達成度合いを、これらの数値で計るということだ。

しかし考えていただきたい。「1.」のベースとなる03年の宿泊者数は331万人だったというが、07年の宿泊者数は、白書によれば約1/3の「117万人」なのだ。この4年間でそんなに落ち込んだのかと県の「奈良県観光客動態調査報告書(平成18年)」を読むと、06年の宿泊者数は「340万人」と出ていた。だとすると、06~07年のたった1年間で、223万人も落ち込んだのか。
http://www.pref.nara.jp/kanko/toukei/

国交省の調査は07年1月に始まった全国統一基準による調査で、従業員10人以上のホテル、旅館、簡易宿所が対象だ。県の調査は全施設が対象のようなのだが、従業員10人未満の施設が223万人ものお客を泊めているとは、決して思えない。全体の2/3もの宿泊客を、従業員10人未満の施設ばかりが泊めている計算になるからだ。

07年3月末現在の宿泊施設数は、計744(ホテル46、旅館452、簡易宿所246)である(「奈良県観光客動態調査報告書(平成18年)」)。全体の1/3(240か所)が従業員10人未満だとすると、1か所が1年に約9千人(223÷240=9300人、毎日25人)、2/3(500か所)だとしても、1か所が1年に約4500人(223÷500=4500人、毎日12人)も泊めている計算になり、辻褄が合わない。

白書によれば、奈良県の宿泊施設の年平均稼働率は30~35%(定員の1/3しか泊まっていない)だから、コンスタントにこれだけのお客が、従業員10人未満の所に泊まっているとは考えられないのだ。

この点について(財)日本交通公社の研究員は《予備調査の段階で小規模施設における回収率が芳しくなかったことから、調査コストとの兼ね合いもあり、小規模施設を対象から除いたとのことです。それでも、事業所・企業統計等を参考に試算すると、延べ宿泊者数の8割程度を捕捉しているものと推測されます(筆者試算)》としている。捕捉率が8割だとしても、117÷0.8=146万人となり、県発表の340万人とは200万人もの開きがある。
http://www.jtb.or.jp/investigation/index.php?content_id=110

やはり、これは統計のごまかし、またはデタラメとしか言いようがない。テキトーに質問しているか、テキトーに答えているか、またはその両方なのか…。

07年の宿泊者数が117万人(または146万人)だとすれば、これが2010年に4倍(または3.4倍)の500万人に化けることはありえない。だから「3.」の「経済波及効果 25%増加」も未達成となる。

そもそも「経済波及効果」の計算方法が問題だ。「観光戦略」のP35に毎年の計画数値の推移が出ていて、2003年の入込客3507万人(うち日帰り3176万人・宿泊331万人)を2010年に4000万人(うち日帰り3500万人・宿泊500万人)にすれば、経済波及効果が25%増加する、と出ている。これらの数字をもとに、波及効果をはじき出しているのだ。電卓で検算してみると、「日帰り客数×1+宿泊客数×6」を経済波及効果算出のベースにしていることが分かった。

シロートの私が3分間で解明できるような簡便法で算出するのが、一概に悪いとはいわない。宿泊客は日帰り客の6倍の経済波及効果がある、という裏付けがあるのだろう(例えば日帰りが3千円、宿泊が1万8千円ということだから)。しかしこの方法は「日帰り客数や宿泊者数は正確だ」ということを前提にしている。しかも1本のモノサシ(尺度)だけで計ろうとしている。国交省は今年から、入込客数の正確な数字もカウントしようとしているが、そうなると再び前提条件の一角が崩れてしまう(奈良県の入込客数は、相当水増しされているという噂だ)。私は以前から「奈良県観光は、そもそも観光統計が未整備なのが問題だ」と指摘してきたが、ここにきて、こんな醜態をさらすことになった。

しかし唯一「2.外国人観光客 100万人」だけは達成の可能性が残されている。国際観光振興機構(JNTO)の調べによると、06年度の来県外国人客数は46万人(=全国7561千人×奈良県訪問率6.1%)にまで増えているのだ。しかしこれは県の努力というより、小泉首相時代に始まった「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の貢献度が大きい。
http://www.jnto.go.jp/jpn/downloads/070928houmonchi.pdf

白書によれば、外国人客のうち県内に泊まったのは5万人(07年)で、構成比(県内宿泊者の全体を100%として、その内訳)は4%・全国で16位と、健闘している。県外客の構成比は83%で、これは全国4位と、素晴らしい。逆に県内在住者の県内宿泊比率が低く、わずか13%と、全国でもワースト4位だ。

つまり我々県民は「観光客が奈良県内に泊まってくれないから、おカネが落ちず、景気が回復しない」とグチをこぼすが、肝心の県民が県内に泊まっていないのだ。何をかいわんやである。私もこの夏は、宇陀市あたりを宿泊旅行してくるつもりだが、県民の皆さん、もっと奈良県内に泊まりましょう。

白書の前半1/3を走り読みしただけで、こんなにいろんなことが解明できた。あとの2/3は、夏休みの楽しみに取っておき、参考になる数字があればここで報告させていただくことにしたい。

※写真はならまちの「菊岡漢方薬」前で(6月中旬に撮影)。
コメント (12)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする