アメリカでもそこそこの反響を呼んでいるらしい?、つい先日NHK ETV特集でも取り上げられた話題の映画「ひろしま」。Amazonでもデジタルリマスター版は在庫切れとなっています。ちょうど今、出町枡形商店街に2017年に開館した独立系映画館「出町座」で上映されているので観に行ってきました(~8/23まで)。
結論から言えば、私がひねくれ者なのか正直、世評ほどの感動は持てませんでした。
まずもって言葉が標準語で”広島感が感じられない”、子役のセリフに棒読み感が抜けきらない、のはまあ、当時の演技レベルと映画環境としては致し方ないところか。
時代考証的にも「プール」など当時は禁止されていたはずの敵性語がセリフに使われていたり、日本赤十字病院に”Japanese Red Cross Hospital”の看板が掲げられているなどの凡ミスが目立つ。被爆8年後の1953年、まだ混迷の続いていたであろう時期に制作されたことを割り引いてもちょっと油断しすぎ。
原爆資料館の展示や米軍調査団の撮影した映像、マンガ「はだしのゲン」では、黒焦げ遺体や皮膚が剥けて垂れ下がったままさ迷い歩く人々などが描写されている。映画の被爆者は一様にソバージュ状になった髪に衣服が破れて泥やほこりで汚れた程度の体でゾンビ風にさ迷い歩くワンパターンの演技の割には、目にも顔にも生気があって原爆の悲惨さがいまいち伝わってこない。
スプラッター映画ではないのだから「これでもか」とグロいシーンを見せるのは控えざるを得ないのかもしれないが、原爆資料館の写真や米軍調査団の撮影した生々しい映像を見てしまった身には、いまいちその悲惨さ、非人間性が伝わってこない。
先生役の月岡夢路さん、岡田英二さん、若き山田五十鈴さんなど豪華俳優陣がそろっているが、このような映画に美男美女はどうも真実味にかけて違和感がある。むしろ美男美女ではない(失礼)若き日の花沢徳衛さん、加藤嘉さんらの方がリアリティが感じられた。
では、冷静に見てそれほど完成度は高くない「ひろしま」の公開に、当時の政府がなぜ圧力をかけたのだろうか。当時は原爆の記憶がまだ新しく、皇国戦争の化けの皮が剥がれた反動で、特にこの映画を製作した日教組などの労働組合を中心に民主化・反米運動が盛り上がっていた。まだ「サンフランシスコ講和条約」締結の1年後という難しい時期にあっては、天皇制維持と自分たちの保身のためにはアメリカを刺激したくなかった”忖度”が、当時の保守勢力に働いたことは想像に難くない。果たして、こうした”忖度”は令和の今に至るまで彼らの中に連綿とある。
アメリカでは今もなお、広島、長崎への原爆投下について問われると「原爆のおかげで戦争が終結した」と答える人が8割くらいだという。そうしたアメリカ人たちに今一歩踏み込んで人体実験として原爆を投下した非人間的ホロコーストの罪に目を向けさせるためには、アメリカでの公開に意味はあるかもしれない。
出町座は、シアターが2つ(2FとBF)。「ひろしま」は16日までは2F、17日~23日まではBFで、9:30-11:20上映。
写真は2F。小学校の教室ほどの広さに42席。BFもそんなもん。スクリーンもハンディタイプのような大きさ。
券売機でチケットを買い、写真左の受付で希望の席を申告し半券に記入してもらい入場するシステム。
入口ホールにはCafeもある。壁の周りには映画関係を中心にたくさんの本やパンフレットが並ぶ。Cafeで本を読むのも良し。
出町枡形商店街。だいぶ店舗も入れ替わり昔の面影はない。
懐かしいお総菜屋さんはまだあった。看板のチープでシンプルな天狗がなんとも愛らしい。
期待通りの分析力を発揮していただき、おじさんはウレシイ。なんてことを言ったら作品に失礼かな?
出町座は開業して間もないころに縁あって、娘がある監督とのトークに出させていただきました。
出町の名物は「ふたば」だけではないぞの意気込みでこれからもレポートを期待しています。
昔々、一条寺にあった「京一会館」、何回か時期遅れ3本立て映画を観に行きました。無くなってもう40年くらい、寂しい思いでした。が、「出町座」に続いて、この秋から「京都南会館」も復活とのこと。映画ファン(というほどでもありませんが)にはうれしいことです。