切ない別れ

2010年05月14日 | 小説:人生はコーヒールンバだな
踊り子は小屋で踊っている時間だけ踊り子なのだ。小屋を出た彼女は、踊り子ではない。

その彼女は、そのお客とは最後となることを隠して、綺麗に舞っていた。そんな別れ。

私も、その小屋がすっかり変わってしまったというので、最後に覗いてみた。そこにはここ数年の私の時間が漂っていた。しかし、そこに私の座る場所は、もう、無い。

彼女の踊っていたこの小屋、そして、私が通ったこの小屋は、もう、すっかり変わってしまったのだ。

いや、無くなったのだ。

そのお客を見送った踊り子が、私の席に近寄ってきていくつか言葉を交わした。そこには「また」という言葉はなかった。

「また」の無い会話は、「さよなら」の会話なのである。



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