MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『フェアウェル』

2020-10-07 00:59:43 | goo映画レビュー

原題:『The Farewell』
監督:ルル・ワン
脚本:ルル・ワン
撮影:アンナ・フランケーザ・ソラノ
出演:オークワフィナ/ツィ・マー/ダイアナ・リン/チャオ・シューチェン/ルー・ホン
2019年/アメリカ

いつまでも理解されない「メルティング・ポット」について

 主人公のビリー・ワンは6歳の時に中国からニューヨークに移住して、今年30歳になるのだが志望していた学芸員の選考に落ちて、両親と暮している。そんな時に、長春で暮らす祖母のナイナイが末期の肺がんを患っていることを知り、父親のハイヤンと母親のルー・チアンはハイヤンの兄のハイビンの息子のハオハオの結婚式を口実に25年振りに故郷に戻ることにするのだが、中国の文化を理解していないビリーはニューヨークに残るように促される。
 結局、ビリーは遅れて長春を訪れてナイナイには歓迎されるのだが、ナイナイに本人の病気のことを隠している両親を含む親族たちはビリーがナイナイに告知するのではないかとひやひやすることになる。
 このように本作はアメリカにも中国にも馴染めないビリーの言動がコミカルに描かれることになるのであるが、ここではハオハオの結婚式で披露されるカラオケの曲にこだわってみたい。
 最初にビリーがデュエットでロバータ・フラッグの「やさしく歌って(Killing Me Softly with His Song)」を歌い、次にハオハオが妻のアイコとカラオケ無しで「竹田の子守唄」をデュエットし、次に女性のオペラ歌手が「カーロ・ミオ・ベン(Caro mio ben いとしい女(ひと)よ)」を歌う。その後、ハオハオが何故かずっと泣いているのは、「竹田の子守唄」を上手く歌えなかったからだと思うが、エンドクレジットに流れるニルソンで有名な合唱の「ウィズアウト・ユー(Without You)」という曲順はなかなか意味深長なものである。つまりナイナイを看病することを断念してニューヨークに戻ってきたところでビリーの生活が好転するわけでもなく、その憂さを晴らすように大声を出し、木に留まっていた鳥たちが一斉に飛び去っていき、ビリーはナイナイに教えて貰った太極拳に倣って厄払いのために大声を出したはずなのだが、まるでビリーを嫌うかのように鳥たちは飛び去るのである。それはそれぞれ有名な曲ではあっても曲調も言語も違う曲を並べられて歌われても真意が伝わらないことを暗示しているように見えるのである。


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