MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『アングスト/不安』

2020-10-04 00:41:01 | goo映画レビュー

原題:『Angst』
監督:ジェラルド・カーグル
脚本:ジェラルド・カーグル/ズビグニュー・リプチンスキー
撮影:ズビグニュー・リプチンスキー
出演:アーウィン・レダー/シルヴィア・ラベンレイター/エディット・ロゼット/ルドルフ・ゲッツ
1983年/オーストリア

絶対に勧めない「傑作」について

 主人公は1950年生まれの「K」と呼ばれるサイコパスで、冒頭でたまたま訪れた家の老女を刺殺してしまい10年間牢獄に入れられるのだが、「K」はそもそも家族から嫌われており、14歳の時に45歳のマゾの性癖を持った叔母と関係を持ったことでサディズムに目覚めた筋金入りで、出所したその日にたまたま入った家の家族3人を殺し、翌朝、3つの死体を車に乗せて前日にも訪れていたレストランで朝食をとっていたところで警察に職務質問され、「K」はトランクを開けて、嬉しそうに2人の警官に死体を見せるのである。
 全く主人公に共感できないし、ストーリーも酷いものである。前半ではナレーションで主人公の生い立ちが説明され、後半もほぼ主人公のモノローグで演出も褒められたものではないにも関わらず、本作は間違いなく「映画」である。「映画」を観たという感動だけは否定しようがない。
 例えば、実在する猟奇殺人犯であるヴェルナー・クニ―セクを演じたアーウィン・レダーが醸し出す雰囲気や、音楽を担ったクラウス・シュルツェの無機質なテクノサウンドは無論のこと、現代ならばドローンや小型カメラで撮れるとしても1983年当時ならば斬新な映像表現が、本作の欠点を補ってなお余りあるのである。出所した「K」が訪れたレストランにいる老人が読んでいる新聞の見出しが「WAR(戦争)」で、翌日、再び訪れたレストランで同じ老人が読んでいる新聞の見出しには「PAX(平和)」と書かれており、本作は細かい配慮の上に成り立っているのである。


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