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グリップ感の必要性

(98年、那須サーキットでのGPZと樹生。ライダースクラブのライディングパーティーにて。
サーキットなのに、ツーリング走り。)

さあ、いよいよバイクのグリップ感について考えていきましょう。

グリップ感でよく言われるのは、「冬の走り始め、タイヤが冷えているとグリップ感がわかりにくい」などの表現です。
冬の間、走り始めにグリップ感が乏しいのは、タイヤが冷えてトレッドのゴムが硬化しており、たわみ量が本来の状態よりも少なくなっているからだと思われます。

弾性体であるタイヤは、接地面で常にある程度たわんでグリップしています。
バイクに掛かる荷重で縦方向にたわむのみでなく、駆動力やブレーキ、旋回による横Gなどにより、横方向にも力がかかり、常にたわみながらグリップしているのです。

タイヤが冷えているとき、縦方向のたわみよりもむしろ横方向のたわみに対して、十分温まったときとは違う対応が出やすいのではないかと思います。

それでいつもと違う感じにライダーはグリップ感が乏しいと感じるのではないでしょうか。
実際にグリップも落ちていると思われますが、それ以上にグリップ感が希薄に感じられるのは、たわみの情報のせいだと思うのです。

バイクは車体に対して駆動力かブレーキ力がかかっていた方が安定しています。
下りの峠でギアをニュートラルのまま下ると【絶対に真似しないでください!事故を起こす可能性が高いです!】、ただ、転がっているだけのタイヤがいかにグリップ感を伝えてくれないかがよくわかります。バイクは特に、タイヤの回転方向のたわみや、遠心力による横方向のたわみによってグリップ感が得られる乗り物なのです。
タイヤの限界はいずれ来ますが、その手前でなら、よりタイヤをたわませる方が、グリップ感も増し、実際にグリップ力もよく使えています。

   
(マン島を走る故ジョイ=ダンロップ選手。私の尊敬する公道最速のライダーだった。
写真はネット上で公開されたもの)

マン島TTレースのDVDを見ました。
このビデオを見ていると、公道レースのすさまじさがよくわかりますが、それとは別に「おや?」と思うところがありました。
マン島TTのコースの中で最もスピードの落ちるヘヤピン。まるでマラソンの折り返し地点のような、しかもかなりの下りのカーブをレーサーたちが抜けていくのですが、そのどれもが、非常に慎重に、フルバンクもせず、まるでこわごわと乗っているかのようにゆっくり通過していくのです。
マン島TTではその直線部分では時速270㎞/h以上で走り、250㎞/h以上で高速S字を切り返すこともある過酷な公道レース。直線も路面はうねり、有名な橋のジャンプ地点もあり、車体とサスはそれに耐えられるようにセッティングされています。
おそらくそのセッティングでは、この時速30㎞/h以下かと思われる超ヘヤピンではサスもタイヤも潤沢なグリップ感を提供してくれるほど動いてはくれないのです。全体のタイムを削っていくレースでは、タイムに影響の少ないコーナーは捨てることになります。
さしものプロフェッショナルライダーもこのヘヤピンではリーンに勢いがついて車体が倒れすぎないように慎重にアプローチし、極力<遅く>走って<早く>向きを変え、そこから脱兎のごとく加速していこうとしていました。

このビデオから感じたのは、いかにグリップ感がライディングの感覚として重要なものかということ、そして、グリップ感はタイヤの温度のみならず、車体とサスの設計、セッティング、タイヤ銘柄の性格、そしてライディングでも大きく変わるということでした。



『ライダースクラブ』1987年1月号(103号)の巻頭企画で、編集長根本健氏(73年全日本チャンピオン)と77年世界GP350ccチャンピオン片山敬済氏がヨーロッパの公道を思いっきり走ってそしてバイクライディングについて語っている記事があります。
片山氏はフランスのつづら折の道でVFR750を駆る根本健氏を単機筒のオフロードバイクXL600で完全にぶっちぎったあと、こんな事を言っています。

「今回オン・オフを乗り比べてみても判るように、オフロードバイクは舗装されたオンロードでも、タイトなつづら折れとか峠道で、オンロードバイクよりも乗り易い。ロードレースのライダーが、よくグリップ感という言葉を持ち出すけれど、それはバイクの安定につながる、乗っている人間の方に振ってしまえば例の安心感になるわけだ。多分、安心感というレベルでは、あまり高いグリップを求めるサスペンションであるとか、フレームを前提とし過ぎると、そこから一気に(グリップが)なくなるよりも、オフロードバイクの方が常にタイヤのブロックが動いていて、その方が人間の感性でコントロールできる。だからオフロードバイクはすごく乗り易く感じる。」(前掲書30頁より引用)
 
(左側は同書25頁、右側は26頁の写真(一部)。この頃の『ライダースクラブ』は私のバイブルだった。)

ここからもグリップ感という感覚はいかにライダーにとって重要なものであるかが窺えます。

グリップ感とは何か、そしてそれはライダーにとってどのようなものであり、どのように重要なのか、考えてきました。
バイクを操る上で安心感につながり、操作とバイクの状態を把握するために欠かせない「グリップ感」。
バイクを安全に楽しく走らせるためには、このグリップ感をいつも豊かに感じられるようにすることが大切なのです。

次回から、グリップ感を高めるためのライディングについて書いていこうと思います。

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コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (田亜山)
2008-02-12 07:14:11
まねしたわけでは有りませんが、
山坂道の下りをニュートラルで走ったことがありますけど・・・
その時は、出来るだけ音を消して下りたいと思っただけなのですが・・・

タイヤの熱は加速や減速、コーナリング時の横Gなんかで路面との摩擦によって発生するのだと思いますが、この時期は接地面だけしか温まらずにホイールの方まで熱が回らないからなのかな?
それと車の後をパーシャル状態で付いて行くような走り方でも熱が発生しにくいのでしょうね。
久しぶりにタイヤを触ったら、人肌程度にしか温まっていなかったです。
 
 
 
Unknown (めろん)
2008-02-12 16:42:27
僕がグリップ感をあまり感じないのは
恐々乗ってるのと不安な気持ちもあるって事ですねぇ
ポジションもベストポジションじゃない事も影響ありそうです。。
マン島TTレース、見てみたいです。
ライダースクラブ今月始めて買いましたが
そんなに昔からあったんですね!
まだ持ってるなんてすごいです^^
次ぎのスクールまでにポジションを整えてグリップ感・・・
意識してみます。
 
 
 
思い出しました (まーしー)
2008-02-12 17:30:16
やっぱりというか、

オートバイは面白いですね。

ライダーの感性とオートバイの機能が合致したときの快感。

樹生さんの記事を読んで、なんだか、その気持ち良さを思い出しました。



 
 
 
コメントありがとうございます (樹生和人)
2008-02-12 20:13:36
田亜山さん、こんにちは。
真似しないでと言ったのはどんな技量の人が読むかわからないからで…。田亜山さんにご意見など畏れ多いです。
ロード用のタイヤは人肌くらいに温まっていればまずますグリップ力は発揮するらしいです。冬季の問題はそこまで温まるのにけっこう時間がかかるということですね。
私は温度依存度の少ないメツラーのロードテックにしています。


めろんさん、こんにちは。
たしかにグリップ感はグリップの限界を超えないうちは荷重が高い方が感じますね。
ポジションもとても大切だと思います。私も通勤がてら、グリップ感を探りながらベストポジションをさがしています。
ライダースクラブは20代の頃私のバイブルでした。バイクの構造、バイクの乗り方、バイクをとりまく様々な問題…、多くのことをこの雑誌から学んだんです。
今は『バイカーズステーション』誌がバイクのあり方について最も示唆に富む紙面づくりをしていると、私見ながら思います。


まーしーさん、こんにちは。
タイヤがしなり、サスが働き、ぎゅっと凝縮されたグリップ感とともに、トラクションを与えられた車体がリヤステアしながらぐいぐいと進路を内側に変えていく…たまんないっすねぇ…。
立ち上がりの快感は「いやっほう!」ですよね!
今では全く飛ばさない私ですが、あの快感は体の芯が覚えています。これって超ヤバですか?
 
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